ホンダF1バルセロナ合同テスト・レポート(後編) アストンマーティンとホンダにとって、2026年のシェイクダウンはやらな…

ホンダF1バルセロナ合同テスト・レポート(後編)

 アストンマーティンとホンダにとって、2026年のシェイクダウンはやらなければならないことがあまりに多い。

 新しいマシンとパワーユニットゆえ、そして初めてのタッグゆえ、マシンの基本的なシステムチェックや空力面の風洞との誤差確認のためのデータ収集、そしてパワーユニットの動作やエネルギーマネジメント熟成のためのデータ収集など、確認項目が多岐にわたるためだ。


フェルナンド・アロンソに手応えは?

 photo by Aston Martin Aramco F1 Team

 多くのチームはフィルミングデー(1日200kmまで許可される撮影目的のプライベート走行)を使って、それを事前に済ませてきた。だが、アストンマーティンにその余裕はなかった。なおかつバルセロナでの走行が実質1日のみとなってしまったため、本来やるべき膨大なテスト項目を取捨選択・同時進行で圧縮し、なんとかこなすことに主眼を置くしかなかった。

 つまり、マシンバランスを調整したり、エネルギーマネジメントを煮詰めたりといった、速く走るためのパフォーマンスを追求する段階にはまだ入っていない。

 5日目に走行した12人のドライバーのなかで、フェルナンド・アロンソはトップのフェラーリから3.209秒落ちの11位。それでもこの1分20秒795というタイムは、各車がイニシャルチェックを行なった初日のタイムで言えば、メルセデスAMGから0.095秒差の4番手に当たる。つまり、走り出しのタイムとしては決して悪くない。

 チーフトラックサイドオフィサーとして現場チームを統括するマイク・クラックは、4日目の午後5時という遅いテスト開始直前の様子をこう振り返る。

「ガレージでは『いつ出られる?』『マシンは準備できた?』『まだか?』という会話ばかりだった。でも現場のチームとしては、何よりもまず安全であること、そしてある程度の信頼性が確保されていることを確認しなければならない。こうした点で妥協はできないんだ。

 レギュレーションは複雑だしマシンも非常に複雑だから、こういう場面で手を抜くわけにはいかない。とはいえ、マシンがコースに出ていく瞬間はやはりいいものだよ。ただ、その感動も30秒もすれば終わって、みんなすぐに『いつパフォーマンス走行ができる?』『すべて正常に動いているか?』『次のステップは何だ?』というモードに切り替わる。とにかく休む暇がない」

【開幕までテストはわずか3回】

 ニューウェイ体制で挑むホンダとの船出の瞬間を、オーナーのローレンス・ストロールもピットガレージで見守っていた。2日目にはひとまずの作業を終えたマネージングテクニカルパートナーのエイドリアン・ニューウェイも現場に合流し、テストを見守った。

「我々は少し特殊な立場にある。新しいパワーユニットパートナーとしてホンダを迎え、さらに自社製ギアボックスを初めて製作した。そこに新しい車両規定と新しいパワーユニット規定が重なっている。

 そう考えると、これは最悪のケースとも最高のケースとも言えるが、このレギュレーションにワークスチームとして臨むのは、チームにとって非常に大きな変化だ。さらにエイドリアンも加わった。とてもエキサイティングで変化の多い状況だ」

 マシンは完成した。だが、新規定のマシンだけに、これからの熟成こそが重要だ。

 マシンが持つポテンシャルもさることながら、開幕当初わずか3回のテストでどれだけ準備をスムーズに進められたかという「完成度」の勝負になるだろう。そしてシーズンが進んでいくなかでは、どれだけマシンを理解しアップデートを進められるかという「進歩度」の勝負になる。

 新たにタッグを組むアストンマーティンとホンダにとっては、お互いの連携を深めることも重要な課題のひとつだ。現場では昨年に引き続き折原伸太郎エンジニアが統括し、2024年前半までチーフレースエンジニアとしてレッドブルとともに戦っていた湊谷(みなとや)圭祐がレースエンジニアリング実務を担う。

 そういったスタッフ間の連携も順調に進んでいると、クラックは言う。

「まだ始まったばかりだし、以前のパートナー(メルセデスAMG)と長い関係があったからこそ、まずは新しい関係値のなかで人を知る必要がある。名前を覚え、お互いにどうやって一緒に仕事をするのか、お互いに何を期待しているのか、責任の範囲はどこまでなのか......そうしたことを一つひとつ理解していかなければならない。

 そのなかではいいスタートを切ることができたし、我々とホンダの間にはいくつもの笑顔が見られた。今はこの開幕前の時間を使っていかに一緒に仕事をしていくかを学び、可能なかぎり一体となっていくことに主眼を置いている。

 彼ら(ホンダ)は間違いなくレース屋であり、とてもオープンで率直に意見をぶつけ合える。それはとてもいい点だと思っているし、これから関係を続けていくのが楽しみだね」

【次のテストにアロンソも期待大】

 パワーだけで勝てる時代ではない。空力だけで勝てる時代でもない。新時代のF1は、これまで以上にトータルパッケージの勝負になる。

 マシンを作り操るのが人間である以上、それは人間の勝負になる。そこに関わる人々がいかにハイレベルな共同作業を果たせるか、という勝負だ。

 初日のドライブを終えたアロンソは言った。

「昨日はランス(・ストロール)、そして今日は僕がマシンに乗って走れたのは、本当に特別な気分だった。エイドリアンとホンダ、アラムコ(サウジアラビアの国営石油会社。アストンマーティンのタイトルスポンサー)とともに作りあげた初めてのマシンだし、新レギュレーションの下で作られたマシンでもある。

 この2週間は本当に大忙しで、ファクトリーはマシンの準備に追われてきた。だけどなんとか、バルセロナ合同テストの最後の2日間に間に合わせることができた。これはチームのみんなの並々ならぬ努力の賜(たまもの)だよ。本当にすばらしい2日間だったし、現場とファクトリーのチームのみんなに感謝している。今は次のバーレーン(テスト/2月11日〜)が楽しみだよ」

 アストンマーティンとホンダが挑むチャレンジは、ゼロからのスタートであるがゆえに、そう簡単にはいかないだろう。

 ニューウェイを擁し、政治も予算も関係なく、ただただ純粋にパフォーマンスを追求するアストンマーティン。苦境に耐えながらも技術と情熱でそれを乗り越え、レッドブルとともに世界の頂点まで這い上がってきたレース屋のホンダ。その両者がタッグを組んで、新たな挑戦に挑む。

 だからこそ、我々をワクワクさせてくれる何かが、そこにある──。