33年ぶり選抜出場・崇徳高校復活物語(後編) 1対2。今春の選抜に33年ぶり出場を果たす崇徳(広島)の専用グラウンド中堅…

33年ぶり選抜出場・崇徳高校復活物語(後編)

 1対2。今春の選抜に33年ぶり出場を果たす崇徳(広島)の専用グラウンド中堅後方には、昨夏広島大会決勝のスコアボードが掲げられている。広陵を相手に8回まで1対0とリードしながらも、9回表二死二塁から同点とされると、延長10回タイブレークで勝ち越され、まさかの逆転負け。49年ぶりの夏甲子園出場は露と消えた。

「あの敗戦の悔しさを忘れないよう、いつでも見ることができるように掲げています」

 崇徳OBでもある藤本誠監督は口惜しそうにスコアを見つめる。自身も現役時代は1995年の1年夏、1997年の3年夏ともに広島大会決勝で敗退。これまで幾度も「あと1勝」の壁に跳ね返されてきた。


グラウンド後方に掲げられた昨年夏の広島大会決勝のスコアボード

 photo by Uchida Katsuharu

【エースが3試合連続完封の離れ業】

 ただ、これまで先輩たちが流してきた悔し涙が、ようやく報われる瞬間がやってきた。昨秋の広島大会決勝でも広陵に4対5で9回サヨナラ負けを喫し、リベンジこそならなかったが、これまで力の差が歴然だった王者と2試合連続で接戦を繰り広げたことは、間違いなく自信へとつながった。藤本監督も手応えを語る。

「戦力的には広陵さんの方が当然上ですけど、グラウンドに立てば互角だといつも選手たちには話しています。あともうちょっとのところまでは迫ってきているのではないかと思っています」

 オレたちはやれる──その自信は、広島2位通過で出場した中国大会で顕著に表われた。なかでも真価を発揮したのは、エース左腕の徳丸凜空(りく/2年)だ。

 広島大会では失点を重ねる試合が目立ったが、中国大会では最速140キロの直球とキレのあるスライダーを両コーナーにキッチリと投げ分け、準々決勝から3試合連続完封の離れ業を演じるなど、全4試合、33回を投げきりわずか1失点の快投。中国を制して選抜出場を勝ちとった。

「昨年夏の決勝で広陵さんに9回二死からすごく悔しい思いをしたので、新チームが始まった当初から絶対に『てっぺん』を獲って神宮大会にいくことをチームとしても自分自身としても目標として臨みました。広島大会では調子が上がりませんでしたが、中国大会ではいい結果に転んでくれてよかったです」

 ただ実力だけでは、中国王者になるのは難しい。人事を尽くした結果が、悲願を引き寄せた。あと1勝で選抜出場当確ランプが灯る中国大会準決勝の倉敷商(岡山)戦の前、試合会場のユーピーアールスタジアム(山口)周辺のゴミを黙々と拾い続ける選手たちの姿があった。藤本監督が意図を説明する。

「ゴミを拾うことで、考え方が変わってくると思うんです。段々と大人になるというか、こういうことも大事なんだなということがわかってくれば、普段の生活が変わってきます。普段適当にやっている子は、ここ一番で力を発揮できません」

 前チームから続く、「人の落とした運を拾う」という取り組みを野球の神様はしっかりと見ていた。岡山大会4試合で33得点をマークした強力打線のお株を奪う猛攻を見せ、終わってみれば10対0の8回コールド。徳丸も3安打でシャットアウトと、完璧に近い内容で「あと1勝」の壁を超えて見せた。

「私自身も含め、中国大会の準決勝が、一番プレッシャーがあったと思います。勝った時は久しぶりに感動しましたね。準々決勝の関西(岡山)戦からの1週間が本当に長く感じました。崇徳にとって、本当に大きな1勝でした」

【神宮大会で全国のレベルの高さを痛感】

 中国覇者として51年ぶりに出場した神宮大会では全国のレベルの高さを肌で感じることもできた。初戦となる準々決勝の花巻東(岩手)戦。先発の徳丸は0対0の6回二死から4番の古城大翔(ふるき・だいと)に木製バットで左越えに先制本塁打を被弾。最終的に1対3で競り負けたが、絶対エースは前を向く。

「全国クラスの打者たちを相手に楽しみながら投げることができたので、自分のなかでは経験値はすごく上がりました。花巻東さんも選抜に出るので、今度は自分たちが勝つというのはもちろんですし、甲子園で古城選手にやり返したいなという思いです」

 ただ、藤本監督は敗因を冷静に分析していた。全国常連の花巻東との決定的な差は、「大舞台の雰囲気に飲まれてしまった」という点だ。


中国大会で3試合連続完封の離れ業を演じた崇徳のエース・徳丸凜空

 photo by Uchida Katsuharu

「選手たちにとっては初めての全国大会ということで、中国大会の準決勝、決勝とはベンチの雰囲気が明らかに違いましたので、やはり飲まれていたのかなと。そろそろ慣れてきたかなという頃にはもう試合は大詰めでした。あの雰囲気のなか、いかに平常心で試合ができるか、自分たちがやってきたことがブレずにできるかが必要だと思っています」

 今春は対外試合解禁日が3月7日。選抜開幕は同19日と、他校と実戦を行なう期間が極めて短い。そのため、1月の寒風吹きすさぶなか、紅白戦を行なうナインの姿があった。ミスや消極的なプレーをした選手には、藤本監督ら首脳陣から厳しい声が飛び、容赦なく交代を告げられる。「ALL(オール)崇徳」のチームスローガンが示すとおり、全員で本番さながらの緊迫感をつくり出していた。

「まずはこの春に向けて全力でチームを仕上げていきたいと思います」

 藤本監督は短い言葉に力を込めた。1976年の選抜初出場・初優勝から半世紀。真の「古豪復活」に向けた熱い戦いが、もう間もなく幕を開ける。