ボクシング界で最も権威がある米専門誌「ザ・リング」の年間表彰式「ザ・リング・マガジン・アワード」が30日(日本時間31…

 ボクシング界で最も権威がある米専門誌「ザ・リング」の年間表彰式「ザ・リング・マガジン・アワード」が30日(日本時間31日)、米ニューヨークで開催され、2025年の年間各賞を発表。世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(32)=大橋=とWBC世界バンタム級王者・井上拓真(30)=大橋=兄弟を指導する父の井上真吾トレーナー(54)が最優秀トレーナー賞に選出された。真吾さんは20日(日本時間21日)に発表された世界主要4団体の一つ、WBCの2025年年間表彰でも、最優秀トレーナー賞を受賞している。

 真吾さんは「教えるトレーナー」だけではない。尚弥、拓真と一緒に戦うトレーナーだ。「よく聞かれるんですけど、トレーナーとして選手を見たことは一度もない。自分はナオ、タクのオヤジですから」。ロードワークを一緒に走ることが多かったのは「一緒に戦っている」ことを示すためだ。子供を心配して見守る親の気持ちは運動会でもボクシングでも同じだという。ましてボクシングは殴り合い。練習で培った自信が親の心配をはねのけてくれるという。

 「努力は天才に勝る」と言う。格闘技が大好きで、アマチュアボクシングに打ち込み、家で練習する父の姿を見て、尚弥は小1からボクシングを始めた。「約束する。俺は強くなりたいんだ」。そう訴える7歳と、真吾さんは「男と男の会話をした」という。教えるからには中途半端ではやってほしくない。一生懸命やれば「親として100%、サポートできるから」だ。真吾さんは最初、ステップワークを教え、ジャブ、ワンツーと基本動作を毎日繰り返させた。ステップとジャブでコントロールして距離を支配する。「これがしっかりできれば、あとは右でも左でも当たっちゃうんですよ」。真吾さんの単純動作を毎日続けることほどつらいものはない。「ナオが天才? 冗談じゃない。小1から血と涙のにじむ練習を続けてきた。その点一つ一つが線になった。練習が誰のためなのか明白だから、ナオは練習がきついことが楽しいんじゃないですか?」

 真吾さんはプロの経験はない。だから、自分がいいと思う練習は何でも取り入れた。全身の筋肉を鍛えるために家の外につるしたロープを登らせたり、体幹を鍛えるために車を坂道で押させたり…。「打たせないで打つ」「チャンスの時こそ慎重に」。練習を見ながら送る助言のタイミングも絶妙だ。

 実は、プロになる時に尚弥のトレーナーはやめようと思ったという。ジムにはプロの指導者がおり、様々な指導を受けると迷いが出てしまうから身を引こうとした。だが、尚弥は「ここまで一緒にやって来たんだから」と続投を希望。相性の良さを見抜いた大橋秀行会長も「父子はセットじゃないとダメ」と背中を押した。真吾さんはプロ経験がない。だから「自分なら、こうする」などと当てはめて教えてきたそうだ。そして、尚弥に厳しいことが言えるのは父親の自分しかいない。「自分の役目は手綱を締めることだと思った」。今回の受賞は、点をつないで太い線を作った真吾さんを世界が認めた証だ。(谷口 隆俊)