物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之…
物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之は、スタジアムのネーミングライツの安さを問題視している。金額だけではなく、志(こころざし)の問題なのだ!
■パナソニックの大貢献
その一方で、真逆の例もある。ガンバ大阪のホームスタジアム「パナソニックスタジアム吹田」である。
このスタジアムは、ガンバ大阪が建設を計画し、約150億円と見積もられた建設費の大半を民間からの寄付でまかなうプロジェクトを進めた。用地は、日本万国博覧会記念機構が所有する大阪府吹田市内の万博記念公園内(1970年大阪万博跡地)を借り受け、さまざまに建設費削減の努力をしながら、4万人規模のスタジアムを約140億円で完成させた。完成は2015年秋、使用開始は2016年だった。
任意団体(法人格のない団体)である「スタジアム建設募金団体」が集めた募金は、総額約106億円。うち個人が6億2000万円強あった。そして法人からの寄付が約100億円だった。私は6億円も寄付した大阪のサッカーファンは非常に偉いと思ったが、実際にスタジアムが現実のものとなったのは、法人からの寄付が決定的な要因であるのは間違いない。と言っても、そのうち60億円はガンバ大阪の主要株主であるパナソニックからのもので、残りは、パナソニックの関連会社、あるいは取引のある会社だったと聞いた。残りの30数億円は、サッカーくじ(toto)などからの助成金だった。
すなわち、パナソニックは、スタジアム建設費の43%を負担し、さらに他の法人からの寄付を集めるために尽力し、建設費の7割以上を集める貢献をしたことになる。
■疑問符がつく自治体の姿勢
こうした経緯だったから、私は当然、スタジアムは「パナソニックスタジアム」になると考えていた。ところが、完成すると税金の関係で任意団体の「募金団体」が所有するわけにはいかず、スタジアムは地元吹田市に寄贈された。そして吹田市は「市立吹田サッカースタジアム」と命名、あろうことか、「命名権販売はしない」と宣言した。
吹田市が命名権を募集したのは2017年。応じたのはパナソニック1社で、2018年から22年まで5年間の命名権を取得し、「パナソニックスタジアム吹田」となった。5年間で10億8000万円。当時の消費税は8%だったから、それを差し引くとちょうど10億円、年間2億円ということになる。契約は2022年に更新され、2023年から2027年までの5年間、「消費税抜き」で10億円となった。
パナソニックは60億円(+アルファ)を建設費に注ぎ込んでスタジアムを完成させ、その結果として当然受けるべき「命名権」のために、さらに毎年2億円を支払っているのである。この状況と、吹田市の姿勢を、読者はどう考えるだろうか。
■止まらない安売り
国立競技場の建設費は約1569億円と言われている。その大きな部分を「税金」でまかなったわけだが、完成(2019年)からわずか6年、運営管理費の「赤字」に我慢ができず、「わずか年間10億円」で民間企業に「売ってしまった」のである。年間10億円の命名権は日本では破格かもしれないが、建設費の160分の1に過ぎない。税金を投じたというのは、スタジアムを「公のものとした」ことを意味する。それをこんなに「安売り」していいのか。
新国立競技場の建設に当たって、仮にMUFGが500億円を負担するという形(税金投入は大幅に削減される)だったら、最初から堂々と「MUFGスタジアム」と命名し、その権利をたとえば30年間保証してもよかっただろう。それが「志あるスタジアムづくり」というものだ。
建設されてから数十年経過したスタジアムが運営管理費を捻出、自治体の負担を軽くするために地元企業の支援を仰ぐというのなら、誰もが理解できる。Jリーグのクラブが使用するスタジアムにも、そうした例はたくさんある。しかし新設のスタジアムの命名権を、建設に資金的協力をしたわけではない企業に売ってしまうのは、住宅を建てて賃貸するのとはわけが違う。
味スタ以来、日本の「スタジアム命名権販売」は「志低きもの」になり下がり、国民や地域住民のものであるはずの重要な施設を不当に「些少」な額で特定企業の宣伝の道具としてしまっているのである。
嘆かざるをえない。