物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之…
物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之は、スタジアムのネーミングライツの安さを問題視している。金額だけではなく、志(こころざし)の問題なのだ!
■税金が投入される日本
さて、日本の話である。日本では、少し前までスタジアムは国や地方自治体がつくるものと決まっていた。プロ興行の歴史が長い野球のスタジアムには民間のものがあったが、陸上競技やサッカーのスタジアムは、ごく一部の例外を除いて国や自治体がつくり、それを貸し出すという形だった。
1964年の東京オリンピックを超える「スーパーイベント」として2002年ワールドカップの開催(韓国との共同開催)が決まり、使用するスタジアムが2001年を中心に次々と完成したが、すべて地方自治体が建設したものだった。4万人以上収容し、日本代表の試合を開催できるスタジアムが全国に生まれ、それが今世紀のJリーグ成長の大きな要素となった。
自治体が建設するのであるから、国からの補助があったとはいえ、建設費はすべて「税金」である。たとえば埼玉スタジアム2002の建設費は、スタジアム本体だけで360億円、土地取得と公園整備を含めると766億円にのぼった。埼玉県としては非常に大きな事業だったはずだ。ちなみに2001年度の埼玉県の決算総額は、1兆7480億円だった。その4.4%にも当たる巨額を、このスタジアムに注ぎ込んだのである。
■埼スタへの手のひら返し
しかし2001年にスタジアムが完成し、準決勝の「ブラジル×トルコ」を最後に2002年ワールドカップ(埼スタでの開催は4試合だった)が終わると、すぐに埼スタは埼玉県の「お荷物」となる。年間の維持管理費が、収入を数億円上回り、それが問題になったのだ。
非常に興味深いことだが、建設工事に766億円という巨費を投じても誰も文句を言わない。しかし毎年の経費が数億円の赤字になるというだけで、県知事が議会で攻撃される材料になるのが日本という国である。その危機を救ったのは、浦和レッズがJリーグで優勝争いの主役を演じ、また、AFCチャンピオンズリーグで優勝を飾り、日本代表チームの「ホームスタジアム」になったことだった。2007年には浦和レッズの試合だけで入場者の年間総数が100万人を突破、批判は下火になった。現在も埼スタに命名権がついていないのは、そのためだ。
■日本初のネーミングライツ
しかし他のスタジアムはそうはいかない。
収容5万人の「東京スタジアム」は2001年に完成したが、ワールドカップには使用されなかった。完成の翌年、このスタジアムが日本のスタジアムとしては初めて「命名権」を販売し、2003年から「味の素スタジアム」と呼ばれることになった。5年契約で12億円(1年当たり2億4000万円)。所有者の東京都は、このスタジアムの建設費に307億円を投じた。その後、命名権契約は4回更新され、現在に至っている。現在の命名権は、2024年3月1日から2029年2月28日までの5年間で10億5000万円。年間2億1000万円である。
「名前を売る」とは、その期間「スタジアムを売る」ことに等しい。東京都は、100年貸し続けても建設費を回収できない少額でスタジアムを売ってしまっているのである。これを「志が低い」と言わないだろうか。