今回の全日本制覇は「張本時代」の幕開けか(C)Getty Images 張本美和がとうとう日本の王座についた。 過去2大…

今回の全日本制覇は「張本時代」の幕開けか(C)Getty Images

 張本美和がとうとう日本の王座についた。

 過去2大会連続で決勝で敗れていた女王・早田ひなをフルゲームの末に下しての優勝だった。初めて決勝に出た2年前、当時15歳ながらすでに優勝してもおかしくない実力だったが、闘志をむき出しにした早田にストレートで敗れた。世界選手権やパリ五輪で活躍してさらに自信をつけて臨んだ昨年は、コンディションが万全ではない早田に「絶対に勝たなければならない」というプレッシャーを感じてか、逆に前年よりも一方的なスコアで敗れた。かつて全日本の決勝で敗れてあれほど号泣した16歳はいない。

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 そして今年。準決勝の横井咲桜とのフルゲームの死闘を勝ち抜いた張本を決勝で待っていたのはまたしても早田だった。3年連続の決勝での顔合わせは、両者が今の日本女子卓球界で飛び抜けた存在であることを示している。国際大会で中国選手から恐れられている2人のカットマン、佐藤瞳はベスト8で早田の前に沈み、橋本穂乃香も16で姿を消していた。それほど日本女子のレベルは高い。

 決勝でのドラマは張本がゲームカウント3-2とリードして王手をかけた第6ゲームだった。超絶ラリーの応酬の中、張本が攻め続けてスコアは10-6。あと1点で初優勝だ。

 しかし、卓球は勝ったと思った瞬間に負けが始まる。1967年世界選手権での河野満、1995年世界選手権での劉国梁ともに、大量リードをして初優勝が頭をよぎった瞬間に硬くなって逆転を許した(ともに後に優勝)。そうした例は枚挙にいとまがない。勝ったと思った瞬間に心に変化が起こり、安全に行きすぎたり、逆に勝ち急いでリスクの高すぎる攻撃をしたりする。ギリギリのところで戦う勝負ではそれは致命的だ。

 逆にマッチポイントを握られた方は、開き直って身体の力が抜ける。あと1点で負けるはずの早田はここから攻め続け、気がつけば10-10。今度は追いついた早田が硬くなる番のはずだが、早田はスコアなど見ていないかのように攻め続け、2本連取してこのゲームをひっくり返した。なんたる強さ。なんたる勝負の恐ろしさ。

 張本のショックは計り知れない。しかし、張本の全日本はここから始まった。最終ゲーム、張本は「負けるなら攻めて負けよう」とばかり鬼神の如く攻め続けた。そしてスコアはまたしても10-6。第6ゲームの逆転が脳裏を過ったはずだ。しかし張本は壁を乗り越えた。11-6。

 同世代で張本に匹敵する選手は中国にもいない。何年か後には張本の時代が10年近く続くと見る識者もいるほどだ。それはあくまでも可能性であり、実現するかどうかはわからない。もしもそれが現実のものとなったとき、この全日本は張本伝説の始まりだったと語り継がれるだろう。我々はそれを目撃したのだ。

[文:伊藤条太(卓球コラムニスト)]

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