今さらではあるが、欧州サッカーでのアウェーは、文字通りの”敵地”だ。 国際Aマッチウィーク明けのブンデスリーガ第12節で、浅野拓磨の所属するシュツットガルトはホームにドルトムントを迎え、昇格1年目の彼らが昨季の…

 今さらではあるが、欧州サッカーでのアウェーは、文字通りの”敵地”だ。

 国際Aマッチウィーク明けのブンデスリーガ第12節で、浅野拓磨の所属するシュツットガルトはホームにドルトムントを迎え、昇格1年目の彼らが昨季のリーグ3位であるビッグクラブを2-1で下した。



途中出場するも、ゴールなしに終わった浅野

 その要因のひとつに、メルセデス・ベンツ・アリーナに集まった5万8932人の観客による圧力があったことは間違いない。事実、シュツットガルトは今季、リーグのアウェー戦で全敗しているのに対し、ホームでは一度も負けていない。

 一方のドルトムントは、この試合前の4戦でリーグ戦の勝利から見放されており、10月以降の勝利はドイツ杯で3部のマクデブルク相手に挙げたのみ。ペーター・ボシュ監督の去就が注目されはじめていた。それでも代表戦ウィークの休みは、いいリフレッシュになることもある。仕切り直しの一戦なだけに、ドルトムントの選手たちは気持ちを高めてこの試合に臨んでいたはずだ。

 ところが、その精神の高揚は悪い方向に作用する。開始早々の5分、CBマルク・バルトラとGKロマン・ビュルキが自陣ゴール付近でパス交換を誤り、チャドラク・アコロにボールをさらわれて先制を許してしまう。

 そのゴールについて、香川真司は「アウェーで戦うことの難しさは感じていたし、先制されてさらに勢いを与えてしまった」と振り返った。欧州遠征の日本代表のメンバーから外れた香川にとっても、「(次の代表戦が行なわれる)3月までの第一歩」だったが、いきなり出鼻をくじかれたことを悔やんだ。

 この日の香川は、ブンデスリーガ公式サイトの予想先発に入っていなかったものの、インサイドMFとしてスタートした。だが、序盤から対面するサンティアゴ・アスカシバルにハードマークされ、なかなか自由にプレーさせてもらえない。

 この20歳のアルゼンチン人選手は、19歳でU-23代表に名を連ねてリオ五輪に出場し、今年のU-20W杯では主将を務めた同国のホープのひとりだ。小柄ながらたくましい下半身を備えたアスカシバルは、抜群の機動力と当たりの強さを生かし、香川やマリオ・ゲッツェといったビッグネームに対して堂々と渡り合った。

「(研究されていることは)すごく感じました。マンツーマン気味にきていて、特に中盤でセカンドボールをうまく拾われていた。(相手が)先制してからは、よりアグレッシブにきていました」

 それでも、ドルトムントも徐々にリズムをつかんでいく。香川もペナルティーエリア内でのタッチが増え、前半終了間際にはゲッツェがPKを獲得。それをアンドレ・シュールレが蹴り、GKが弾いたところをマキシミリアン・フィリップが豪快に叩き込んで同点とした。

 この得点の前に、シュツットガルトのFWダニエル・ギンチェクが負傷し、代わって投入された浅野拓磨がそのままCFの位置を担っている。

「(交代のときは)ゴタゴタしましたけど、自分が一番得意なポジションなので、絶対に決めようと思って入りました」

 しかし、この試合の決勝点はもうひとりの途中出場選手から生まれた。51分、ロングパスを起点とする逆襲からヨシップ・ブレカロが右サイドを持ち上がり、中央では浅野も快足を飛ばして並走していたが、19歳のクロアチア人アタッカーはパスではなくカットインを選択。左足を振り抜くと、ボールはGKの股を抜けてネットを揺らした。

 その後、劣勢に立たされたドルトムントが攻勢を強めたことで、浅野にはカウンターのチャンスが何度か生まれたが、ゴールはならず。最後まで走り続けた背番号11は、「勝利は素直に嬉しいですし、チームのみんなと喜びたいとは思いますけど、それ以上に自分の結果が自分の気持ちを左右する。点を決められずに終わった試合で、心から喜べることはないですね」と悔しさを見せた。そして「技術と判断のスピードを上げていくしかない。今までもそればっかり言っていますけど」と課題の克服をあらためて誓った。

 香川は結局、63分にピッチを退き、チームの敗北をベンチから見つめた。代表とクラブでの再起への第一歩はほろ苦いものとなったが、試合後の表情に悲壮感はない。

「代表戦から考えさせられることもあったし、ドルトムントでもこういう状況なので、それをうまくリンクさせながら打開していきたい。どちらも似ている状況が少なからずある気がするので。考えて、苦しみながら、勝ち抜いていきたいです。うまくいかないときこそ、ひたむきに戦うことが必要になってくると思います」

 一方、勝利を収めながら自身のパフォーマンスに納得できなかった浅野も、同様の言葉を口にした。

「今日の試合はアピールできなかったと捉えているので、まずは明日の練習から切り換えて、次の試合に向けてアピールしていかないと。練習から死に物狂いで、100パーセントでやらないといけないと思います」

 シーズンとその後に控えるW杯へ向けて、2人の日本人選手の立場はとても盤石とは言えない。シュツットガルトの夜はホームチームの勝利に沸いていたが、香川と浅野の表情が緩むことはほとんどなかった。