物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之…

 物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之は、スタジアムのネーミングライツの安さを問題視している。金額だけではなく、志(こころざし)の問題なのだ!

■世界中に「アリアンツ」

 ドイツの名門バイエルン・ミュンヘンは、かつてミュンヘン市が所有するオリンピック・スタジアム(1972年ミュンヘン・オリンピック、1974年ワールドカップのために建設)でプレーしていたが、現在はクラブ所有の「アリアンツ・アレーナ(2006年ワールドカップ開幕戦会場)」でプレーしている。

 地元ミュンヘンに本社を置く世界的な保険会社「アリアンツ」はスタジアムの建設計画時から参画し、3億4000万ユーロ(当時のレートで約476億円)と言われる建設費の捻出に多額の貢献をし、30年間の命名権を取得した。

 アリアンツが命名権を取得しているのはミュンヘンのスタジアムだけではない。なんと世界各地に8つもの自社名を冠した第一級のスタジアムを持っているのだ。

 そのうちミュンヘンを含め5スタジアムは、建設時からかかわって命名権を取得している。ニースの「アリアンツ・リビエラ」(2013年完成、OGCニース=クラブ所有)、ブラジル・サンパウロ市の「アリアンツ・パルケ」(2014年完成、パルメイラス=クラブ所有)、 オーストリア・ウィーンの「アリアンツ・シュタディオン」(2016年完成、SKラピード・ウィーン=クラブ所有)、そしてアメリカ・ミネソタ州セントポールの「アリアンツ・フィールド」(2019年完成、ミネソタ・ユナイテッド=クラブ所有)である。

■ラグビーの聖地も名称変更

 そして、既存のスタジアムとの契約で命名権を持っているところも3つある。なかでも注目されるのは、「ラグビーの聖地」とまで呼ばれ、2回にわたってラグビー・ワールドカップ決勝戦の舞台となったロンドンのトゥイッケナム・スタジアムである。2024年に命名権を獲得した。1909年に最初のスタジアムができ、115年もの歴史を持つこの名スタジアムは、今「アリアンツ・スタジアム」と呼ばれている。

 面白いことに、アリアンツは既存のスタジアムの命名権を獲得したときには、そろって「アリアンツ・スタジアム」と命名している。他の2つは、イタリア・トリノのユベントス・スタジアム(2011年完成、ユベントス=クラブ所有、2017年に命名権取得)と、オーストラリア・シドニーのシドニー・フットボール・スタジアム(1988年完成、2022年改築時に命名件を取得、ニューサウスウエールズ州所有)である。

■メキシコの画期的アイデア

 メキシコシティのアステカ・スタジアムは、過去2回(1970年と1986年)のワールドカップ決勝戦会場となった世界的な名スタジアムで、今年のワールドカップで「3回のワールドカップで使用される唯一のスタジアム」となる。現在は命名権がついて「エスタディオ・バノルテ」となっているが、1968年のオリンピック、1970年ワールドカップに向けて1966年に完成した。半世紀以上前、その建設費捻出をめぐって興味深い話を聞き、なるほどと思ったことがある。

 1966年完成当時の建設費、2億6000万ペソが当時のレートでどのくらいの額になるか、調べがつかなかったが、ともかく当時のメキシコで最大級のプロジェクトだった。しかもテレビ局を中心とした民間資本で建設されたため、資金調達が大きな課題だった。そのうえ観客席を覆う屋根に支柱を設けないことにしたため、建設費は初期の計画より大幅に増加した。

 この増加分の資金を調達するために画期的なアイデアを思いついたのは、プロジェクトリーダーであったギジェルモ・カニェドという実業家だった。彼はスタジアムの1層目と2層目の間に「高級ボックス席」を設け、それをあらかじめ販売することで建設費増加分を捻出することを思いついた。最終的にボックス席はスタジアムを一周するように631室つくられ、各席には2台分の駐車場も用意された。そして、そのオーナーは99年間(!)のボックス席使用権を手にしたのである。

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