◇米国男子◇ザ・アメリカンエキスプレス 最終日(25日)◇ピート・ダイ・スタジアムコース(カリフォルニア州)◇7210…
◇米国男子◇ザ・アメリカンエキスプレス 最終日(25日)◇ピート・ダイ・スタジアムコース(カリフォルニア州)◇7210yd(パー72)
スコア提出を終えた久常涼は、さっきまで一緒にプレーしていたアマチュアのもとに駆け寄った。予選ラウンドの3日目、ホールアウト直後のこと。「連絡先を教えてください」。キャディバッグからスマートフォンを取り出し、電話番号を交換した。
毎日異なるゲストとプレーするプロアマ形式の大会には、アマチュア枠で企業のオーナーなど財界の要人や地元の名士、プロアスリートらが参加する。この日、出会ったのは近隣コース、ラ・キンタCCに所属するクラブプロだった。「これでいつでもプレーできるぞ!」とパートナーの古川莉月愛(りるあ)さんにうれしそうに言う。2日前には、同じようにして、フロリダ州の名門クラブのメンバーさんと知り合いになったばかりだった。
「やっぱりね、こっちでゴルフをするのは難しいんですよ。PGAツアー(米ツアー)のメンバーというのだけでは、知り合いがいないと話が通らないコースがたくさんあって」。1万6000以上ある米国のゴルフ場も“ピンキリ”で、厳格な会員制度を敷いたクラブでは、いくら世界最高峰のツアーに所属していようがプレーするのは簡単ではない。「マスターズ」の会場、オーガスタナショナルGCが良い例。そもそも彼らのような選手たちが退屈しない高い戦略性や、長い歴史を持つコースを回るためには、個人間のコネクションがものを言う。
2023年に参戦したDPワールドツアー(欧州ツアー)を経て、24年から米ツアーに主戦場を移して今季が3年目。一つひとつのやり取りはもちろん、すべて英語で行う。「ゴルフ場で英語が分かんなくてヤバい、みたいなことはもうないですかね。でも選手のミーティングみたいなことになるとちょっと難しい。もっと喋れると違うなとは思いますけど」。日常的なコミュニケーションに困ることはほとんどなくなった。
久常は日本で通っていた学校の授業を除けば、英語はこれまで「勉強してこなかったです」と笑う。「海外に来てから、日本語と英語を話せるキャディさんにお願いしていたことが良かったかも。ただただ、『こういう時は英語でなんて言うの?』って聞きまくるという…。すぐに答えてくれる英会話のイイ先生がいたのは大きかったのかなって」
世界的なスポーツマネジメント会社IMGと契約を結んではいるものの、超一流選手たちのようにマネジャーや通訳がいつもそばにいるわけではない。古川さんとの二人旅。フロリダ州にある自宅のメンテナンスのために電話をかけたり、米国のソーシャルセキュリティーナンバーを申請したりと、外国語を使わざるを得ないシチュエーションだらけの毎日だ。
そもそも、冒頭の親世代、あるいはもっと年上の友だちづくりだって、英会話の上達同様、ゴルファーとして必要に迫られてやっていることではある。「松山さんだったら、そこは別にしなくてもいいわけです。プレーしたいコースに連絡すれば、向こうが『ヒデキが来る!』でいける(歓迎される)。僕じゃ、そうはいかない。でもね、誰かを知っていると、同じローカルの他のコースも回れたりするんです。ゴルフ場がいっぱいある地域なら、なおさら知り合いを増やしとかなきゃ!」
ツアー11勝、「マスターズ」王者の松山英樹とは立場がやはり違う。戦う場所を同じにしていても、23歳は自分との間にある隔たりを感じてやまない。昨今は同じ環境にあっても、より痛感させられる出来事が多い。
2022年のLIVゴルフ創設以降、PGAツアーもエリート選手を厚遇する傾向を強めている。少数精鋭による予選落ちのない高額賞金大会・シグニチャーイベント(昇格大会)の設定で、上位選手には職場を守るチャンスが増え、そうでない選手にとっては目の前にそびえる山がさらに高くなった。ブルックス・ケプカのLIVからの“出戻り”を可能にしたエリート選手向けの「リターニングメンバープログラム」だって、彼らからすれば「もう、なんでもアリ」とすら受け取れるはずだ。
「でも、それも仕方ないよなと思う」と久常は言う。「だって、(ツアーは)その人たちがいるから、あるわけでしょう。(世間が)今の僕を見ていないのも、分かってる」。観る人の感情で価値が決まる世界では、公平性はすべてにいきわたるわけではない。ツアーは来シーズン、トップ選手が競い合う機会を相対的に増やすべく、試合数を削減する可能性が浮上している。久常は、今のままでは出場大会が減るかもしれない。
そうであれば、目指すべきものははっきりしている。「下からあれこれ言ったところで変わらないと思うから。そこに飛び込むことしか、他に変える手立てないでしょう?」。世界最高峰のツアーの、ホントの頂上に到達しなければならない。「目の前のこと、やるだけですよ。『嫌ならもう、やめてしまえばいい』でしょうから」。見据える先は今よりずっと高いところにある。(カリフォルニア州ラ・キンタ/桂川洋一)