物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之…
物価高なのに賃金が安すぎる。円安も止まらない。さらに、日本のスポーツ界には大問題がある。サッカージャーナリスト大住良之は、スタジアムのネーミングライツの安さを問題視している。金額だけではなく、志(こころざし)の問題なのだ!
■MUFGは「破格」の値段?
スタジアムの新設あるいは改修計画について、Jリーグのスタッフから「志が低い」と言われて秋田市の沼谷純市長が激怒したという話が話題になった。今回の私の記事も、一部の人々を激怒させるかもしれない。「スタジアム命名権」である。
女子サッカーの全日本選手権である「皇后杯」の第47回大会(2025年度)決勝戦は、今年元日に東京の国立競技場で開催された。だがメンバーリストを見ると、会場は「MUFGスタジアム(国立競技場)」とある。そうだ、この日から国立競技場の「株式会社三菱UFJファイナンシャルグループ(MUFG)」が取得したスタジアムの命名権契約により、スタジアムの呼称が変わったのだった。
国立競技場を運営する「株式会社ジャパンナショナルスタジアム・エンターテインメント(JNSE)」が、「ナショナルスタジアムパートナー」第1号としてMUFGが決まったと発表したのは昨年の10月のことだった。契約期間は2026年1月1日から2030年12月31日までの5年間。契約額は発表されていないが、さまざまなメディアが伝えるところによれば5年間で50億円(年間10億円)という「破格」なものだった。
■「命名権」販売の始まり
スタジアムの「命名権」販売事業はアメリカで始まった。明確なものとして、大リーグ・ベースボールのシカゴ・カブスが、球団オーナーが所有するチューイングガムメーカーの「リグレー」と契約し、1926年に「リグレーフィールド」と名づけたものが最初だという。そして1950年代、1960年代になると数多くのアメリカのスタジアムが「命名権」を売って資金を得るようになる。
サッカーでは、イングランドやスペインを除くとスタジアムは自治体が所有しているところが多く、命名権販売が活発化するのは、今世紀に入ってからになる。クラブが地域社会に密接に結びついているため、イングランドやスペインでクラブ所有のスタジアムであっても「命名権販売」には心理的なブレーキがかかったのか、導入は早くはなかった。
■名門が「最後」に頼ったのは?
プレミアリーグのアーセナルは1990年代から新スタジアム建設の必要に迫られ、その費用捻出に苦戦していた。スター選手の売却などで資金調達を図ったがうまくいかず、2004年、アラブ首長国連邦(UAE)の航空会社「エミレーツ」に15年間の命名権を1億ポンド(当時のレートで約200億円)で売ることによって建設のめどが立った。建設費総額は3億9000万ポンド。その4分の1強を「命名権売却」によって調達したことになる。
アーセナルのホームスタジアムといえば所在地から「ハイベリー」と通称されていたが、現在のスタジアムはそのすぐ近くに位置する「アシュバートン・グローブ」という地区にありながら、「エミレーツ・スタジアム」として定着している。