1月6日、2025年度のJRA賞が発表された。年度代表馬に輝いたのは、フォーエバーヤング。日本調教馬として初めてアメリ…
1月6日、2025年度のJRA賞が発表された。年度代表馬に輝いたのは、フォーエバーヤング。日本調教馬として初めてアメリカのGIブリーダーズカップクラシック(11月1日/デルマー・ダート2000m)を制すなど海外の大舞台で活躍し、ダートを主戦場とする馬として初の栄冠を手にした。
その一方で、もうひとつの「史上初」の受賞があった。フランス調教馬のカランダガンが特別賞に選出され、外国調教馬として初めてJRA賞の表彰対象となったのだ。
カランダガンが評価されたのは、昨秋行なわれたGIジャパンカップ(11月30日/東京・芝2400m)で、外国招待馬として実に20年ぶりとなる勝利を飾ったことが大きい。そして何より、2025年の欧州年度代表馬で、さらにはIFHA(国際競馬統括機関連盟)のワールドベストレースホースランキングトップという金看板を引っ提げて参戦したカランダガンが、欧州競馬がオフシーズンに突入するなか、その看板に偽りのない走りを見せたことが、競馬ファンに限らず、多くの関係者に感動と興奮を与えたのだ。

外国調教馬として20年ぶりにジャパンカップを制したカランダガン
photo by Kyodo News
「世界に通用する強い馬づくり」を理念に掲げて1981年に創設されたジャパンカップ。創設当初は、外国招待馬優勢の時代が長く続いた。それが、世紀末を迎えるあたりから形勢が逆転。日本調教馬の躍進が目立つようになり、いつしか外国招待馬が勝てなくなって、日本調教馬の独壇場となっていった。
そうしたなか、世界的に海外遠征のブームもピーク時に比べて沈静化。世界トップクラスの大物はもちろんのこと、外国招待馬のジャパンカップへの参戦自体が減少し、2019年には創設以来、初めて外国招待馬ゼロという状況での施行となった。結果、ジャパンカップというレースそのものの価値が薄れつつあったことは確かだろう。
だが、先述のとおり、昨年は世界ナンバー1ホースのカランダガンの招待に成功。一昨年には、成績こそ振るわなかったものの、ディープインパクト産駒の英国ダービー馬でGIを6勝しているオーギュストロダンや、GIキングジョージ6世&クイーンエリザベスS(アスコット・芝2390m)を圧勝したゴリアットといった大物を招待できた。
昨年に関して言えば、最終的に来日は果たせなかったが、愛ダービー馬で2024年のGI凱旋門賞(パリロンシャン・芝2400m)3着のロスアンゼルス(選出後に取りやめ)、オーストラリアのトップホースの1頭サーデリウス(故障によって休養)も早い段階で内定していた。
近年、こうした有力な外国招待馬の参戦は他のレースでも見られ、2024年のGI安田記念(東京・芝1600m)には香港の"2トップ"ロマンチックウォリアーとヴォイッジバブルが出走。2025年のGIチャンピオンズカップ(中京・ダート1800m)には、結局出走は叶わなかったものの、アルゼンチンのサラワクリム、ウルグアイのタッチオブデスティニーといった、これまでになかった南米の強豪馬が来日に前向きな姿勢を現地で示していた。
これらの経緯の裏には、JRAによる努力がある。
まずは、国際交流競走における破格のインセンティブ(褒賞金)の設定だ。外国調教馬は招待であることもさることながら、指定された海外GIの勝ち馬に対しては、レースの着順に応じたボーナスが設定された。たとえば、ジャパンカップではレースの賞金と別に、1着300万ドル(約4億5000万円)、着外でも20万ドル(約3000万円)が得られることになっていた。
ちなみに、2026年にはその金額がさらに上乗せされ、海外の特別指定競走の勝ち馬であれば、ジャパンカップ優勝で500万ドル(約7億5000万円)のボーナスが得られる。1着賞金5億円と合わせれば、トータル約12億5000万円も獲得できることになる。
お金だけではない。外国招待馬の陣営から好評を得ているのは、2022年に新設された東京競馬場の国際厩舎だ。
以前は、ジャパンカップなど国際競走の出走馬は、千葉県白井にある競馬学校などで検疫のために短期滞在が強いられ、そこから各競馬場に移動する必要があった。滞在する競馬学校にもダートコースの走路はあるものの、調教にはやや不向きで、遠征してきた厩舎関係者からの評価は決して芳しいものではなかった。
しかし、東京競馬場の国際厩舎がオープンしてからは、日本に到着後、そのまま東京競馬場に入厩できるようになった。国際厩舎は設備、JRAのホスピタリティもよく、東京競馬場で開催されるレースであれば移動もないため、外国招待馬の関係者からの評価は非常に高い。
実際、ジャパンカップを制したカランダガンの調教スタッフとして来日したジェレミー・ロベル氏は、シャレータが出走した2011年にもスタッフとして来日しているが、国際厩舎に入厩後、「当時と比べて格段にすばらしい」と絶賛していた。しかも、こうした評価は彼らから世界各国の関係者に口コミで広がっているとも聞く。
そして、JRAの努力のなかでも最も大きいのは、海外事務所の駐在員による地道な勧誘活動だ。JRAは、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シドニー、香港の5カ所に海外事務所を置いているが、それら所属スタッフによる日々の奔走がなければ、世界的な大物の来日など実現できるはずもない。
海外において、競馬は「社交」だ。先述した好条件を並べて「招待状を送る」だけでは、大物の馬主や調教師の心には刺さらない。
そこで、海外事務所の駐在員たちは、現地の競馬場や厩舎、セリ会場などに直接足を運び、有力馬の馬主や調教師と頻繁に接触。日本の馬場の特性、国際厩舎の快適さ、輸送の安全性などを丁寧に説明し、相手側の不安をひとつずつ取り除くべく、日常的にコミュニケーションを図ってきた。
そうした交流のなかで、相手の条件もいろいろと受け入れてきた。帯同馬を認めたこともそのひとつ。先に触れたカランダガン、ゴリアット、オーギュストロダン、ロマンチックウォリアーらは、いずれも帯同馬を伴っての来日だった。
カランダガンについては、最初のコンタクトは2024年だったという。そこから地道なプレゼンを続け、昨秋のジャパンカップ出走へとつながった。
陣営の出走会見ではインセンティブに関する質問にも答えていたが、世界的な大馬主であるアガ・カーンスタッドからすれば、"ゼニカネ"だけの話ではなく、交渉に当たったJRA側の心意気などを通して、ジャパンカップというレースを評価し、出走を決断したことは間違いない。
こうしたJRAの海外スタッフによる取り組みは以前から行なわれていたが、より顕著に、積極的になったと感じたのは、コロナ禍の真っ只中だ。
コロナ禍初期に海外事務所へ赴任したある駐在員は、最初の半年は現地主催者の意向もあり、競馬場への立ち入りにも制限があって、赴任初年の秋頃には「調教師の誰とも知り合いになれていない」と肩を落としていた。
ところが1年もすると、その駐在員が赴任先の言語をほぼマスターし、すっかり現地の競馬サークルの輪のなかに溶け込んでいる姿を目にした。少しずつ制限が解かれると同時に、積極的な活動を開始。持ち前のコミュニケーション能力の高さによって、多くの関係者の信頼を勝ち取っていたのだ。
海外赴任の任期は、最大でも3年。そのため、当時海外で活動していた面々はすでに日本に戻って別の業務に就いている。だが、ヨーロッパにしろ、香港にしろ、アメリカ、オーストラリアにしろ、さらにこれまで話題にもならなかった南米からも日本へのプレゼンスが高まっている。それは直近の成果だけでなく、彼らが地道に撒いてきた種が芽吹いた証にほかならない。
現地時間1月20日に発表された2025年のワールドベストレースホースランキングでは、カランダガンが1位。ジャパンカップでカランダガンに次ぐ僅差の2着だったマスカレードボールが2位タイとなった。カランダガンの来日と勝利がなければ、この評価もなかっただろう。
「世界に通用する強い馬づくり」という目的は一見果たされているが、それは「世界が目標にする競馬づくり」にも言い換えられる。今年も日本の馬が世界中で活躍することと同時に、世界各国の強豪馬たちが日本に来てすばらしい走りを見せてくれることを期待したい。