■日本高野連の元事務局長が語る「高校野球半世記」 若手指導者の育成を目標に2008年に始まった「甲子園塾」では、初代塾長…
■日本高野連の元事務局長が語る「高校野球半世記」
若手指導者の育成を目標に2008年に始まった「甲子園塾」では、初代塾長を箕島(和歌山)元監督の故・尾藤公(ただし)さんにお願いしました。
1度は塾長の打診を断られましたが、「高校野球の底辺を盛り上げることができるなら」と受諾してもらいました。1979年に公立校として初めて甲子園で春夏連覇を果たした技術指導もすごいですが、人間性にひかれました。
尾藤さんに「普段、どのように選手とコミュニケーションを取っているのですか」と聞くと、こう教えてくれました。
「野球の話はせん。例えば、前日に交通事故があったとすると『お前、新聞を読んだか。あの事故があってどう思う?』と社会で起きていることを題材に話しかける」と。独特ですよね。
甲子園塾では指導者の暴力根絶に重きを置いています。参加者には、このテーマについてレポートの提出してもらった上で、班別討議もしてもらいます。そのなかで、今でも覚えている出来事があります。
1回目の甲子園塾で班別討議を終えたときに、京都から来た若手監督が「これまでは、体罰がアカン、と何となくしか考えてなかった。なぜダメなのか、腹の底からわかりました」と言いました。
それを聞いた尾藤さんが言います。「指導は作物を育てるのと一緒や。急いだらアカン。耕して、肥料をまいて、水をやる。芽を守り育てて、やっと実になる。生徒とはそういうものや」と。
そして、続けました。「私も生徒に手を出したことがある。でも、その結果は決して良くなかった。部員とコミュニケーションが良くなったとかは一切ない」
会議室はシーンとしていました。「だから、みんな、体罰はやるな」。尾藤さんは泣きながら訴えました。
自らの失敗を語るのは勇気が必要です。ただ、100点満点の人に講義してもらっても心に染みないのも事実なのです。
指導者は、つい即効性を求めてしまいます。「おれがこれだけ目をかけて言ってるのに、わからないのか」と。指導者のアップデートが必要なのです。
昨夏、広陵(広島)で部内の暴行問題が明るみに出るなど、暴力根絶は道半ばです。大人が子どもたちのために、どれだけ動いてあげられるかが大事なのではないでしょうか。(構成・室田賢)
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日本高校野球連盟の事務局長や理事などとして半世紀にわたり、運営に携わってきた田名部和裕さん(79)が、高校野球の歴史を振り返ります。