ロサンゼルス・ドジャースが、再びメジャーリーグ(MLB)全体を揺るがした。外野手カイル・タッカーと4年総額2億4000万…

ロサンゼルス・ドジャースが、再びメジャーリーグ(MLB)全体を揺るがした。外野手カイル・タッカーと4年総額2億4000万ドルの大型契約を締結したからだ。年俸の一部が後払いとなる契約構造を含めても、年平均年俸は5710万ドルに達し、MLB史上最高水準となる。連覇中の王者がリーグ屈指の強打者を加えたことで、球界では戦力の不均衡を懸念する声が一気に広がった。

 米スポーツメディア『ジ・アスレチック』によると、契約の一報が伝わった直後、あるMLBのコーチは「このままではロックアウトになるのではないか」と漏らしたという。実際、この契約は労使協定(CBA)の期限を目前に控える中、年俸上限制度(サラリーキャップ)導入を求めるMLBコミッショナーのロブ・マンフレッド氏や一部オーナーの問題意識をさらに刺激する形となった。

 もっとも、『ジ・アスレチック』は、今回の議論の責任をドジャース一球団に帰するのは現実を単純化し過ぎていると指摘する。ドジャースはリーグで最も多額の資金を投じる球団である一方、現行制度の下では構造的に不利な条件も抱えている。好成績を収めるほどドラフト上位指名権を得られず、若くコントロール可能なスター選手にアクセスする最も重要なルートが閉ざされているからだ。2015年全体5位指名のタッカーも、ドラフトでは獲得できないタイプの選手に当たる。

 そうした状況下で、ドジャースが選べる現実的な手段はトレードかフリーエージェントしかない。『ジ・アスレチック』は「大谷翔平の存在によって資金的余裕を得た今、ドジャースが最高の選手を獲得するため最善を尽くさない理由はない」と伝えている。多くの球団が「野球は壊れている」と嘆く一方で、収益格差はサラリーキャップ以外の方法でも是正できる可能性があるという見方だ。仮にオーナー側がそれを無視し、キャップ導入を強行すれば、興行が盛り上がりを見せるMLBが丸々1シーズン失われる恐れもあると警鐘を鳴らした。

 ドジャースへの批判が高まる中、その支出がリーグ全体にもたらす実質的な効果にも触れられている。『ジ・アスレチック』によれば、ドジャースは過去2シーズン連続でビジター動員数トップを記録し、同期間に総額2億7240万ドルの贅沢税を納付した。さらに毎年約1億5000万ドル規模の収益分配金も負担しており、これらの資金はリーグや選手、他球団へと分配されている。今季のドジャースの贅沢税対象ペイロールは、ファングラフス算定で約3億9600万ドルと、最高基準を9000万ドル以上超える見通しだ。

『LAタイムズ』は、こうした財政構造の出発点として大谷翔平の契約形態に注目した。大谷は10年7億ドル契約に際し、年200万ドルのみを即時受け取り、残額を後払いとする形に同意した。この契約がドジャースのペイロール運用に大きな柔軟性を与え、タッカーのような超大型契約を可能にした要因の一つだと伝えている。同時に、大谷は球団にもたらす追加収益によって、財政基盤をさらに強化した存在と評価された。

 こうした構造はFA市場にも影響を及ぼしている。短期・高額にオプトアウトや後払いを組み合わせた契約は、ドジャースが長年用いてきた戦略であり、近年はタッカーや抑え投手エドウィン・ディアスといった選手たちがこれを受け入れている。『ジ・アスレチック』はこれを「成功が成功を呼ぶ構造」と表現した。

 結局のところ、タッカーの契約は「ドジャースは本当に野球を壊しているのか」という問いを改めて突き付けている。ただし、『ロサンゼルス・タイムズ』と『ジ・アスレチック』はいずれも、ドジャースは規則を破っておらず、現行システムが許す範囲で最も積極的に勝利を追求しているに過ぎないという点で一致している。問題の本質は一球団の支出ではなく、そうした球団が生まれ得るMLBの構造そのものにある、という指摘だ。

 タッカーの加入はドジャースの戦力をさらに押し上げた一方で、MLBがどのような競争環境を選ぶのかという議論を本格化させた。明確な答えはまだ出ていない。ただ、この契約がその議論を避けて通れない段階へと押し上げたことは確かだ。