広尾晃のBaseball Diversity第3回の「日本野球学会」が、12月13、14日、広島大学で開催された。これは…
広尾晃のBaseball Diversity
第3回の「日本野球学会」が、12月13、14日、広島大学で開催された。
これは、各大学や企業、研究機関などで「野球」に関する研究を行っている研究者が一堂に会して研究成果を発表したり、交流を深めるものだ。
511人の研究者が参加
野球に関する学問にはバイオメカニクス(生体力学)、スポーツ生理学、スポーツ栄養学、スポーツ心理学、スポーツ医学、運動力学(物理学)、さらには社会学的なアプローチなど、多岐にわたる研究分野が含まれている。
野球学会には、全国の大学、企業、研究機関、プロ野球チームなどから511人が参加した。
日本野球学会の重要なパートに「研究発表」というものがある。
これは、企業や学校などがポスターサイズに研究結果をまとめ、発表するというものだ。一般的に「ポスター発表」と言われる。日本野球学会では、大学、一般企業などの学会員による「一般研究発表」と、高校生による「高校生研究発表」の2つがある。このため「学会」としては珍しいことに学会員の教師に引率された高校生も会場に来ている。多くは野球部員だ。
鹿児島商2テーマで発表
鹿児島商業高校は、春12回、夏13回の甲子園出場を誇る。夏はベスト4まで進んだことがある強豪校。中日ドラゴンズの井上一樹監督もOBの一人だ。
昨年から「高校生研究発表」に参加し、アスリートスポーツ科に所属する選手が研究した成果を発表している。
今年の発表は2テーマ
「新基準バット導入が高校野球に与えた影響-用具既定の変化がもたらす適応と進化-」
「血糖値をコントロールする-血糖値を知ることがパフォーマンス向上へのヒントとなるー」
ともに非常にユニークな発表だった。

九州地区でアンケートを実施
ここでは「新基準バット」の発表について紹介する。
2024年センバツ高校野球から導入された「新基準バット」が、高校野球界に与えた影響について、調査を行い、考察を加えたもの。
導入から約2年が経過し、新基準バットの影響によって、練習メニューやトレーニング内容にどのような変化が生じたのかを明らかにする。
「練習内容の変化」「打撃技術への影響」「筋力トレーニングの変化」と言う主要項目に焦点を当て、九州地区8件の高校野球部を対象にアンケートを実施し、186校から回答を得た。
アンケートの要旨は
①新基準バットに代わったことで練習メニューに変化はあるのか(守備面・攻撃面)
②新基準バットの導入後の飛距離の減少を補うため、効果的だと考えられる筋力トレーニングについて
③新基準バットの導入により、導入前と試合の展開に変化はあると思うか?

アンケート結果
①新基準バットによる練習メニューの変化
守備 ある48.5% ない50.5%
攻撃 ある58.1% ない41.9%
変化があると回答した高校は、
(守備面)外野と内野の連携確認や、試合を想定した各ポジションの守備位置の確認など
(攻撃面)遠くに飛ばすだけでなくランナーを進めるためのバントやゴロを打つ練習、点差や試合状況を意識して取り組む打撃練習
などに変化が見られたと言う。
練習量は、
守備面では全体練習が増えた学校が3.9%、減った学校が1.7%、変化なしが59.3%、個人練習が増えた学校は19.7%、減った学校が0.5%、変化なしが79.8%。
攻撃面では全体練習が増えた学校が27.9%、減った学校が5%、変化なしが67.1%、個人練習が増えた学校は20.2%、減った学校が1.1%、変化なしが78.7%だったと言う。
②新基準バットの導入後の効果的な筋力トレーニング
・BIG3(ベンチ・スクワット・デッドリフト)を軸にした筋力効果 27校
・体幹系トレーニング 18校
・瞬発系、スピード系トレーニング 15校
・スイング系の技術練習 12校
・変化なし 14校
・メディシンボール系 5校
・柔軟系、可動域向上 4校
・サーキット系 6校
・その他 3校
BIG3や体幹トレーニングはスイングの安定性とパワー向上に、瞬発系トレーニングはスイング速度向上に効果が見られた。
新基準バットは反発力が小さいため、筋力やスイング速度の向上が打球飛距離に直結する傾向があった。
また技術練習や柔軟性トレーニングはフォームの安定化に寄与し、視力トレーニングは打球感覚の補助効果が示唆された。
総合的に、新基準バットでの打撃では、筋力・体幹・瞬発力の向上が重要であり、技術や柔軟性のトレーニングと組み合わせることで、パフォーマンスの向上が期待できる。
との見解だった。
③新基準バットの導入による試合の展開の変化
試合展開に「変化がある」と回答した学校は153校 「思わない」は33校、82%が変化があるとした。
具体的には
・ロースコア化、接戦の増加
・長打、ホームランの減少
・バント、走塁、小技の重要性が上昇
・守備力、投手力の重要性がさらに増す
・ビッグイニングが激減
・試合時間が短縮、試合のテンポが遅くなる
・導入当初より「慣れてきた」と言う声も多かった

総合的な向上が求められる
総合的な見解として、新基準バットの導入により高校野球はロースコア化し、長打よりも守備力、走塁、状況判断が重視される競技へと変化しているのではないか。
また新基準バットでは、筋力・体幹・瞬発力の向上が飛距離やスイング速度に直結し、さらなる技術練習や柔軟性、筋力トレーニングが試合で成果を上げるために最も重要であると考察。
「新基準バットの時代」には「フィジカル強化」と「打撃技術」の総合的な向上が、選手が試合で成果を上げるために最も重要であると考察し、
「新基準バットの導入により筋力・瞬発力・打撃技術・状況判断力の総合的な向上が求められ、これらの力を伸ばすことは、将来の大学・社会人・プロ野球での活躍にもつながると考えられる」
と締めくくっている。
塗木哲哉監督のコメント
今回の研究を指導した塗木哲哉監督は、鹿児島大学を経て筑波大学大学院で学び、その後、鹿児島県内で高校野球指導者としての経験を積んだ。2022年には大島高校で春の甲子園に出場した。
「始まりは高校1年生の時、『みんなが『新基準バットはボールが飛ばない』と言うけれど、それは本当なのだろうか?』という素朴な疑問を実際に確かめてみようとしたことでした。
体育教諭であり硬式野球部副部長でもある冨山良人先生の指導のもと、アスリートスポーツ科の専攻授業の研究としてスタートしました。
現在の高校2年生は、入学時から新基準バットを使用していますが、中学硬式野球をしている生徒は、旧規格の高反発バットを使用していた経験があります。だからこそ、新基準バットをどのように扱うかに対して関心を持ったのだと思います。
ただ、調べていくうちに、新基準バットの扱い方だけでなく、試合や練習、トレーニングまで変化していっていることに気付いたのです。そこで、自分たちが抱いている疑問について『指導者の方々はどう考えているのか』を知るために、アンケート調査を実施することにしました」

筆者は昨年来、日本高野連に取材を重ね、今回の新基準金属バットが「高校野球でしか通用しない打撃」からの脱却と「(木製バットに持ち替える)大学、社会人、プロなどでも通用する打撃」への進化を促すものだ、との回答を得ている。
鹿児島商業の研究は、現在のところ、新基準バットの導入が功を奏していることを物語っている。
