西武の古市尊捕手(23)は目線をそらさないけれど、感極まりつつあるのは一目瞭然だった。「そうですね、ほんとに。寂しいです…

西武の古市尊捕手(23)は目線をそらさないけれど、感極まりつつあるのは一目瞭然だった。

「そうですね、ほんとに。寂しいですし。まずはつらいって気持ちのほうが今は強いですね」

言葉の隅々にいつもはない微妙な揺らぎがある。10日、埼玉・所沢の球団施設を訪れ、首脳陣やチームスタッフらにあいさつした。

DeNAへ移籍する。FAで入団する桑原将志外野手(32)の人的補償選手として。

「ベイスターズでも頑張れ!!」

ファンの声援がいくつも飛ぶ。「背中押された気持ち、しました。ほんとに、DeNAで活躍しないといけないなと思います」。

拍手と声援に包まれた。きっと忘れない。1日前、3人で過ごした時間も、きっと忘れない-。

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9日、荷物整理に訪れた。体も動かしたかった。朝9時から動いていた育成の是沢涼輔捕手(25)が、午後の練習も付き合ってくれた。

走って投げて、2カゴくらいマシン打撃をこなす。外野に散らばったボールを拾いに行く。

そこに走ってきた人がいた。広池浩司球団本部長(52)だった。

グラウンド1周。一緒に球拾いをしてくれた。

「本当にありがたかったです。なんて言うんですかねー、ここまで育ててもらった側なので。こっちとしては移籍することになりましたけど、本当に感謝でいっぱいなので」

香川大会ベスト8が精いっぱいの高校時代。独立リーグでの努力を発掘してもらい、西武でも鍛えられ、他リーグの球団から「ほしい」と認められるまでに育てられた。

広池本部長は言った。

「守ってあげられなくて、ごめん」

最終的には、編成の責任者である広池本部長が28人のプロテクトリストに「古市尊」と記入できなかったから、古市は選ばれた。寂しいけれど恨みなんてない。

「自分が実力不足だったというのもありますし、それに『愛されてたんだな』って思いましたね」

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古市の推測はたぶん正しい。17年ぶりのFA獲得。広池本部長も苦悩した。

「桑原選手を獲得できたんだから、それは仕方のないことです」

そう受け止めながら、チームとは苦楽を共有し、立場に関係なく輪を強くしていくものだ。28人だけを選ぶ行為は難しい。

「本当に難しかったです。悩みに悩みましたよ。あれだけ頑張って成長してくれた選手、やっぱりベイスターズさんも見逃してくれませんよね…」

広池本部長も正式発表前に古市と電話では話していた。でもやっぱり、会って分かることもある。

「他の用事があって、午後に遅れてベルーナドームに来たんです。そうしたら、古市と是沢がいたんです。ちょうど打ち終わったところみたいで」

迷わずに駆けつけた。2人が球拾いへ向かったから一緒に拾った。

「ごめん、って。本当に今までありがとう、って。これまで本当によく頑張って成長してくれたって、感謝の言葉しか出てこなかったですよね」

是沢もいたけれど、ずっと2人で話していた。

「是沢は、どういう思いで、私たちの会話を聞いていたんですかね。毎朝早く来て、頑張ってますよね。今回、どう感じていたのかな。そしてこれからの練習に生かしていくのか」

15分間ほど、静かなベルーナドームでの3人だけの時間。出会いと別れの繰り返し。広池本部長は「最後にああいう時間を持てて、本当に良かったです」と思いを込めた。【金子真仁】