ちょうど1年前、ゴルフ界のビッグカップルは人知れず人生の節目を迎えていた。PGAツアーを主戦場とする男子プロ・金谷拓実…

金谷拓実と吉本ここね夫妻。昨年1月に入籍した2人にインタビュー

ちょうど1年前、ゴルフ界のビッグカップルは人知れず人生の節目を迎えていた。PGAツアーを主戦場とする男子プロ・金谷拓実は、国内ツアーで戦う女子プロ・吉本ここねとの学生時代からの交際を実らせゴールイン。米国と日本、一年を通じて各地を転戦するアスリート夫婦が新婚生活2年目のシーズンに向けて意気込みを語った。

シーズン最終戦で予選落ち

2025年シーズンの最後の最後に今季のシード獲得を決めた

昨年11月、米ジョージア州から金谷は失意のまま帰国の途に就いた。PGAツアーの最終戦「ザ・RSMクラシック」で予選落ち。99位だった年間ポイントレース(フェデックスカップポイントランキング)で、翌シーズンのシード獲得となるトップ100からはじき出されるのを覚悟した。

「もう、外れた…と思って、日本へのフライトを早めました」と決勝ラウンドが行われた週末には米国を発ち、気持ちを懸命に整理。「やれることはやった。シードが獲れなくても、来年も限られた数で少しは試合に出られる。その中で良い結果を出せるように頑張ろう」――。

しかし、機内で外界との通信が絶たれた帰国中、予想は良い方に裏切られた。下位選手の追い上げが少なく、金谷はランク99位をキープ。最終結果を知ったのは日本に降り立った直後の羽田空港。「ホッとしました。良かったな…って。来年もまた、プレーできるんだと思って」。到着ロビーには、数時間前、先に吉報を受け取っていた吉本が迎えに来てくれていた。

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金曜日の壁

PGAツアーのメンバーとして味わった難しさがあった

日本ツアーの賞金王に輝いた2024年末、金谷は米ツアーの2次予選会、最終予選会を突破してPGAツアーの出場資格をもぎ取り主戦場を移した。待望のルーキーイヤーは苦難の連続。6月半ばまでに4試合連続予選落ちを3回も喫した。シード争いが本格化する秋季シリーズ(フェデックスカップ・フォール)開始前のポイントランクは134位と低迷。一時帰国した9月の国内ツアー「ANAオープン」で優勝しても、ポジションが上がるはずがない。

「目の前の一打に集中する」がインタビューの常とう句であり、信条でもある。ただ長いシーズンを戦うにあたって、それが揺らぐ場面が何度もあったという。「予選を通ることの難しさを本当に感じました」。週末への扉にかけたはずの手が、最後に滑る。25年、ラウンド別の平均スコアを振り返ると実に分かりやすい。

R1/69.57(ツアー43位)
R2/70.32(127位)
R3/69.15(16位)
R4/69.00(16位)

決勝ラウンド進出をかけた金曜日の壁は自らが作り出したもの。「だからもう中盤戦くらいから試合中にリーダーボードを見ないようにしました。PGAツアーは(他のツアーに比べて)多くのホールにあるんですけど…」と行動を変えた。

吉本は物腰柔らかな人柄で知られる

実質的にシード獲得の決め手となったシーズンの最後から2番目の試合、11月の「バターフィールド バミューダ選手権」でも詰めの甘さを悔しがる。同大会で金谷は3位タイに入り、大会前のポイントランクを120位から99位に上げてトップ100の“シード圏内”に初めて足を踏み入れた。だが、最終日の最終18番で1m強のパーパットを沈め、1打少ない2位タイで終えていれば、当確ランプがともっていた。

「もちろん優勝を目指していた中で、いろんな要素が、『最低限、ここは守りたい…』という気持ちも絡んでいたので難しかった。最後も『入ればシードが決まる』と理解していたんです。体(腰)の状態も少し悪くて、『これでシードを決めて、最終戦(RSMクラシック)にはもう出ずに日本に帰ろう』というくらいの気持ちでした」。ショートパットは北大西洋の強風に煽られカップの左へ。「そうやって…、欲まみれで打ったら外れました」。PGAツアーでのベストフィニッシュには悲哀が満ちていた。

夫婦でギリギリの闘い

ともにプロゴルファーして転戦生活を送る

金谷は米国、吉本は日本。プレーする場所が違っても、昨季終盤戦、夫婦の心境は似たものだったかもしれない。夫同様、妻もシード争いに苦心した。金谷は「連絡はほぼ毎日、取っていました。自分が早朝、練習ラウンドに行く前に電話をかけると、(日本は)夕方から夜で。試合期間中はなかなかできないですけど、月・火・水(曜日)にはよくかけていました」と明かす。

「(吉本の成績は)速報でいつも見ていました。お互い、最後の方はギリギリの戦いをしていたので。『もう、やりきるしかないよね』みたいなことをずっと言い合っていた感じがします」(金谷)。「普段からやれるだけのことやっているから、本当にそれを出し切るだけだと思って。私も本人ではないので、分からないことばかりですけど、『本当にもうやるだけやってきな』と話していました」(吉本)。半日以上の時差をまたいだところにいても、心を通わせる一番のサポーターがそれぞれにいた。

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「仕事」と「家庭」の両立は

1月途中からはそれぞれの戦いが始まる

新婚生活1年目がまもなく終わる。振り返れば、シーズン中に顔を合わせられたのは1カ月程度に過ぎなかったという。「シーズン中、私がアメリカには行けないので、日本に帰ってきたタイミングで2、3試合、会場に観に来てもらいました。(会うためには)その方法しかなかったかなって」(吉本)。

ふたりは金谷が大学1年生、吉本が高校3年生だったナショナルチーム時代に知り合い、交際に発展した。プライベートでゴルフをすることもしばしばあるが、「ラウンド中は2人ともに勝負に徹するので徐々にしゃべらなくなる」のもツアープロのカップルらしい。結婚指輪をそろってするのは、今のところコースの外だけ。「自分が指輪を付けたままプレーできないタイプなんです。妻は付けてしたいみたいで。そこはちょっとケンカの種になっています(笑)」(金谷)

フェアウェイキープ率で金谷は昨季、PGAツアーで全体トップ(74.07%)、吉本は日本ツアーで2位(79.63%)とプレースタイルもよく似た2人。ゴルフクラブを置いたときの夫婦の時間はどうだろう。妻から見た夫の「自分の持っているものがブレないところはあるかなと思いますね」という人柄は、試合中に見せるそれと大きなギャップはなさそう。とはいえ、家庭にまで仕事を持ち込こむ男は今や、もれなく“夫・失格”の烙印を押されるそうで…。

金谷「自分は『結果に引きずられて、持ち込んでいるな…』と反省することが多くて。でも、妻は同じ職業なのに、結果が悪くても、そういう愚痴を一回もこぼしたことがないとずっと思っていました」
吉本「え、そう?」
金谷「不機嫌になって試合から帰ってきたり、逆にやけに機嫌よく帰ってきたりすることもなく、変わらずに家で過ごすなあっていつも。すごく感心してます」
吉本「私も(金谷に対して)あまり思ったことないけどなあ」
金谷「いやいや、(自分は)『最終ホールのあのパットが…』って、ネチネチ、ネチネチ言いながら帰ってきたりするから…」
吉本「それを私に言って発散できるならば、それはそれでいいことだと思うんです。ちょっと楽しくなるかもしれないし、空気が悪くなることもないので、何かあったら、話すことでスッキリしてくれればいい…みたいな感じです」

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PGAツアーで勝つ日は来るか

おしどり夫婦

夫婦としての2年目も、結婚生活のほとんどは遠距離が続きそうだ。国内女子下部ツアーをメインに戦う吉本は23年「ルートインカップ」以来の優勝と、レギュラーツアーへの道を再び探る。シーズン終了後の年間レーストップ2が27年シーズン序盤戦の出場権を得られる。「精いっぱいやって、積み重ねていけばできるんじゃないかなと信じています」と意気込み、「とにかく健康に気を付けてほしい」と夫を海の向こうに送り出した。

2年目のPGAツアー。金谷は15日(木)に始まる開幕戦「ソニーオープンinハワイ」(ワイアラエCC)からスタートダッシュを決めたい。松山英樹久常涼、公傷制度で復帰の星野陸也のほかに、今季は下部コーンフェリーツアーから昇格した平田憲聖、そして盟友・中島啓太がDPワールドツアー(欧州ツアー)からレギュラーメンバーに加わった。

「アマチュアの時からずっと一緒に行動してきた仲間。啓太もヨーロッパで本当に厳しい戦いを終えて、一緒にPGAツアーで戦える。時々会うと、年々たくましく、強くなっているのが分かる。そういった姿でまた競い合えるのがすごく楽しみ」

目指すべきものは明確だ。「初優勝?できると信じてます」と、うなずいた。「(昨年は)序盤戦でなかなか良い成績を残せなくても、1年間を通して、日々少しでも成長することをテーマにやってきた。それで徐々に良いプレーができるようになった手応えもあった。そういう姿勢で臨めば、知らないうちに積み重なって、良い選手になっていける、優勝できる選手になっていけるんじゃないかなと感じています」。隣で妻が口にした「はい、勝てるんじゃないかなと思います」という言葉が、何よりも心強い。(編集部・桂川洋一)