2025年は男子バレーボールの世界的な勢力図がガラリと変わった年だった。世界選手権では、東京とパリの五輪を連覇したフラ…

 2025年は男子バレーボールの世界的な勢力図がガラリと変わった年だった。世界選手権では、東京とパリの五輪を連覇したフランスや、ブラジル、日本など世界ランキング上位国が予選敗退し、準優勝したブルガリアや日本を破ったトルコなど、若手の台頭著しいチームが躍進した。

 日本にも、これまで代表チームを押し上げてきた選手たちのさらなる進化はもちろん、レギュラーを脅かす若手の覚醒が必要だ。2026年、その期待がかかるひとりが、身長2メートルのアウトサイドヒッター・甲斐優斗(大阪ブルテオン)である。


大学生ながら2025年のバレーボール世界選手権にも出場した甲斐優斗

 photo by YUTAKA / AFLO SPORT

 甲斐にとって昨年は目まぐるしい1年だった。専修大3年だった1月、特別指定選手としてSVリーグの大阪ブルテオンに加入。5月からは日本代表の活動が始まり、石川祐希や髙橋藍が合流前のネーションズリーグでは出場機会が増え、その中であらためて自身の強みを自覚したようだった。

「高さはこれからもずっと武器になっていくと思います。また、どんな状況でもいつも通りのプレーができるのが、自分の強みかなと思います」

 2023年に日本代表にデビューし、2024年パリ五輪まではリリーフサーバーが主な役割。その時から強心臓を備えていることを証明していた。

 一方、課題と捉えているのはディフェンス面だ。その部分を向上させるためには日本でプレーしたほうがいいと考え、今季、正式にブルテオンに入団した。

 そして甲斐にとって2025年最後の試合は、12月にブラジルで開催された世界クラブ選手権決勝のペルージャ戦だった。石川も所属するペルージャは、昨季の欧州チャンピオンズリーグを制した、まさに"世界一"と言っていいチーム。その決勝は0-3で敗れたが、甲斐は第2セット途中から富田将馬に代わってコートに入り、立て続けにパイプ攻撃を決めるなど存在感を示した。

「想像していたよりも通用した部分があって。本当に収穫があったので、これからもっともっと自信になっていくと思う。すごくいい経験ができたなと思います」

 甲斐は帰国後にそう話した。日本代表で海外と対戦してきた彼にとっても、ペルージャはまったく歯が立たない王者のイメージだったという。

【専修大の主将とエースとしての重責を背負って】

「本当に各国のトッププレーヤーが集まっているチームですから。最初は自信なくプレーしていたんですけど、プレーを重ねていくうちに、通用する部分もあるんだな、と。スパイクはそれなりに決まっていましたし、サーブも効果的に打てていたと思うので、そこはよかった。もっと自信を持っていいのかなと思いました」

 数多く国際舞台を経験した2025年は自身にとってどんな年だったかと訊くと、こんな答えが返ってきた。

「本当に休む暇なくやっていたなかで、できるだけ自分がやりたいように......。今回は大学の試合(全日本インカレ)に出ることが一番、自分の中で優先順位が高かったので、そこで思いきってできたのはよかったのかなと」

 大学2年の頃から、夏場は日本代表、冬場はフランスリーグのパリ・バレーやSVリーグのブルテオンでプレーしてきたため、大学で過ごす時間はわずかだった。それでも専修大の主将として、エースとして、最後の全日本インカレにかける思いは強かった。今年度は甲斐の不在に加え、アウトサイドの堀内大志の怪我なども重なり、春、秋の関東大学リーグで専修大は苦戦。2部との入替戦には甲斐も出場したが、秋は降格を阻止できなかった。

「そこから、より『全カレで』という気持ちが強くなっていたので、その全カレで最終日まで残って試合ができたのはすごくよかったと思います」と振り返った。

 もちろん日本代表やブルテオンで経験する試合に比べれば、大学の試合のレベルは劣る。だがキャプテンとして、エースとして責任を背負い、リーダーシップを発揮してチームを勝利に導いたり、敗れてもチームメイトに寄り添って声をかけたり、前を向かせたりした経験は、甲斐にとってかけがえのないものになった。

 大会連覇を目指す専修大に対し、相手は打倒・専修、打倒・甲斐優斗と意気込んで向かってくる。サーブで徹底的に甲斐を狙って揺さぶり、スパイクに食らいついて拾う。それでも甲斐は崩れず、ギリギリのところで相手を跳ね返す勝負強さを見せた。

 対戦相手が試合を振り返り、"怖さ"という言葉を発していたのが印象的だった。

 2回戦で対戦した中央大は、前年も3回戦で専修大に敗れており、リベンジに燃えていた。第1セット、中央大はミーティング通りに甲斐をサーブで揺さぶり、ディフェンスから切り返して5連続ブレイクを奪ってリードした。しかし終盤、専修大は甲斐のスパイクで24-24とデュースに持ち込むと、甲斐がサービスエースを奪って25-24と逆転。最後も甲斐のサーブで崩し、26-24でセットを奪った。これで主導権は専修大へ。中央大は第3セットを取り返す意地を見せたが、1-3で敗れた。中央大の野沢憲治監督は語る。

「いろいろ工夫はしてきましたが、やっぱりコートの中に入っている子たちが、こちらが思っている以上に怖かったと思う。『まくられるんじゃないか』と、リードしてもリードしている気がしなかったんじゃないか。あれだけリードしていてもミスが出てしまうということは、終始、怖さがあったんだと思います。やはり、いるだけでプレッシャーがかかるようなメンバーですから」

【「あれがあの子の本当の姿です」】

 3回戦で、フルセットの末に専修大に敗れた法政大の高橋慶帆も、「今回初めて優斗と対戦したんですけど、あらためて、優斗が相手にいる時の怖さをすごく感じる試合だった」と話していた。

 相手に与える怖さとは対照的に、味方に与える安心感は絶大だった。どんなに苦しい展開でも、甲斐はコート内で笑顔を絶やさず、周囲に声をかけ続けた。それはチームメイトの気持ちを楽にする声掛けから、戦術的な細かい指示まで多岐に渡る。

 もともとはシャイで周囲に声をかけるタイプではなかったが、日本代表に加わり、ハイレベルな技術や知識、練習方法に触れたことで、大学に戻った時に余裕と自信が生まれ、得たものを仲間に還元するようになった。代表で海外遠征に行っていても、大学の試合はすべて観て、気づいたことがあれば大学のアナリストなどに連絡していたという。

 日南振徳高時代から甲斐と対角を組んできた堀内はこう語っていた。

「以前はコート内であまりしゃべらなかったけど、徐々にみんなに声をかけるようになりました。優斗が『ここはこうだよ』といった指示をすると、みんながその通りに動いて連続得点したり、チームがいい方向に行くので、そういう声掛けはすごく助かります。優斗がいるとチームが明るくなるので、自分としてもめちゃくちゃ楽しく試合ができます」

 3回戦の法政大戦に続き、準々決勝の順天堂大戦も2セットダウンから3セットを連取する逆転勝利で、2年連続のベスト4入りを果たした。6連戦という無茶なスケジュールのなか、準決勝、3位決定戦では疲労を隠せず敗れたが、それでも最後までチームメイトを楽しませ、自分も楽しむバレーを貫いた。3位決定戦のあと、2年生セッターの森田慶は、次のように甲斐に感謝していた。

「『最後だから楽しんでやろう。自分は指示しないから、お前が楽しくバレーの展開を作れ』と言われて。負けたんですけど、楽しかったという思いが一番です」

 甲斐が見せた責任感の強さとキャプテンシー、そして包容力。専修大の吉岡達仁監督は、「あれがあの子の(本来の)姿です。むしろ日本代表やブルテオンでは、まだ遠慮してるのかなという感じがするんですよね」と苦笑した。

 プレーのスケール感だけでなく、リーダーとしてのポテンシャルも証明した22歳。ここからはもう、遠慮はいらない。