韓国プロ野球(KBO)では2026年シーズンからアジア枠制度を正式導入する。これに先立ち、2025年オフからNPB出身選…
韓国プロ野球(KBO)では2026年シーズンからアジア枠制度を正式導入する。これに先立ち、2025年オフからNPB出身選手の獲得が本格化し、すでに6人の投手が韓国球団への移籍を決断した。総額20万ドルという契約上限の中で、韓国球団は彼らにどのような役割を託しているのか。現地報道を基に、各球団の事情と選手別の期待値を整理する。
KBOでは従来、外国人枠3人のうち2人を投手に充てる編成が一般的で、ドラフトやトレード市場でも投手の価値は高い。一方で、即戦力投手の不足は毎年現場の課題となってきた。こうした状況の中、各球団が目を向けたのが日本だ。豪州や台湾と比べても競技基盤が厚く、選手層と技術水準が安定している点が評価されている。放出対象となった選手にとっても、韓国は一軍舞台で再起を図る新たな選択肢となっている。
【SSGランダース】武田 翔太(元ソフトバンク / 年俸20万ドル=約3100万円)
韓国報道によると、NPB通算66勝、2度の2桁勝利、日本代表経験を持つ武田 翔太は、高いリリースポイントから投じる直球と、落差の大きいカーブ、フォークを武器に、先発ローテーションの中核として起用される見通しだ。昨季はトミー・ジョン手術による離脱が懸念されたが、現地テストを経て、回復に問題はないとの球団判断が下されている。今回の移籍は、選手本人にとっても再起を懸けた「復活を懸けた大勝負」と評価されている。
韓国野球界では、SSGが武田をアジア枠で獲得したことについて「期待以上の成果」との反応が出ている。ソフトバンクが再起の機会を尊重して放出を決断すると、SSGのGMが直接足を運び、「チームに不可欠な存在」として獲得を成立させた過程が話題となった。今オフに発表されたアジア枠選手の中でも最も知名度の高い存在で、状態が戻ればリーグ屈指の戦力になるとの見方が示されている。
打者有利とされる仁川SSGランダースフィールドを本拠地とする中で、武田の豊富な経験に裏打ちされた被本塁打抑制能力が試されることになる。今季3位で上位を固めたSSGは、来季さらなる上位進出を視野に入れているが、ベテラン投手陣への依存度が高いチーム事情を踏まえ、現地では武田が即戦力としてだけでなく、若手投手陣にとっての「メンター役」も担うと期待されている。
【ロッテ・ジャイアンツ】京山 将弥(元DENA / 総額15万ドル=約2300万円)
京山 将弥は、先発と中継ぎの両方を経験してきた点を生かし、ブルペンの過負荷を抑えつつ、先発陣を支えるマルチロールでの起用が見込まれている。NPBでの9シーズンで、一軍・二軍通算1000イニング近くを投げ抜いてきたスタミナ、最速155km/hの直球、落差の大きいスプリットが最大の武器だ。1992年以降優勝から遠ざかるロッテにとって、京山のイニング消化能力が重要な役割を果たすとの分析が出ている。
一方で、9イニング当たりの四球数が高止まりしてきた点や、近年目立つ制球難は懸念材料とされている。これについて韓国野球界では、球団が京山の「球威」を評価し、金尙珍投手コーチと、元阪神の金村暁投手総括コーディネーターによる指導力に期待を寄せているとの見方が一般的だ。剛速球投手の制球矯正に実績を持つ指導陣とのシナジーによって巻き返しを狙う、ハイリスク・ハイリターンの補強との評価が多い。
本拠地の社稷球場は、古巣DeNAの本拠地・横浜スタジアムをモデルに設計されており、外観には共通点がある一方で、フィールドサイズはより広い。現地では、こうした空間的特性が、制球面に課題を抱え被本塁打の懸念がある京山にとって、余裕を持って勝負できる要因になると見られている。また、「韓国の阪神」とも称されるほど熱狂的なファンの声援が生むプレッシャーへの適応も、韓国でのプレーを左右するポイントの一つとされている。
【斗山ベアーズ】田村 伊知郎(元西武 / 総額20万ドル=約3100万円)
田村 伊知郎は、最速150km/hの直球と下半身主導の安定した投球バランス、NPB9年のキャリアを持つベテラン右腕だ。現地メディアは、田村が斗山の慢性的な課題とされてきた終盤イニングの不安定さを解消し、金宅淵を中心とする若手ブルペン陣の過負荷を軽減する勝ちパターンの一角を担うと見ている。今季はNPB二軍で16試合無失点を記録し、昨年11月の宮崎クローザーキャンプ入団テストでは、直球の球威とコマンドの両面で合格点を得たと伝えられている。
斗山のコーチ陣には後藤 孝志、仁村 徹、小野 和義の3人の日本人指導者が在籍しており、田村の早期適応を後押しする環境が整っている点も注目される。中でも西武時代の恩師である小野 和義コーチとの再会は、現地でも話題となった。小野コーチは、韓国独自の自動ストライク判定システム(ABS)の下で、田村の落差ある変化球が大きな武器になると分析し、「シーズンを通して一軍で役割を果たしてほしい」と期待を寄せたという。
本拠地・蚕室球場はリーグ最大級の広さを誇り、現地の分析では、田村が心理的な負担を抑えながら自分の投球を展開できる環境と評価されている。広い外野によって被本塁打のリスクが相対的に低い点も追い風となり、フォークと直球を軸にした積極的な投球が見込まれている。
【キウム・ヒーローズ】金久保優斗(元ヤクルト / 総額13万ドル=約2000万円)
韓国メディアの報道によると、3年連続最下位に沈み、慢性的な投手力不足に悩まされてきたキウムは、金久保 優斗の獲得でマウンド再建を図っている。主力野手・宋 成文のメジャーリーグ挑戦によって戦力空白が広がる中、金久保が投手陣の新たな支えとなることが求められている。現地では、エース安佑鎮の復帰までは先発ローテーションの一角、あるいは手術を受けた朱勝宇に代わるクローザー役を任される可能性も取り沙汰されている。
元ヤクルト監督・高津 臣吾以来、17年ぶりにヒーローズのユニフォームを着る日本人投手となった点も話題となった。最速152km/hの直球を軸に、スライダーやフォークなどの変化球も交えた投球が特徴とされている。球団は、NPBで先発とロングリリーフの両方を経験してきた点に注目し、「停滞する投手陣に即効性をもたらす存在」と評価している。本拠地の高尺スカイドームは韓国唯一のドーム球場で、天候の影響を受けないことから、金久保が安定した投球を続ける上で理想的な環境とされている。
一方で、日本時代の私生活を巡る騒動については、依然として懸念の声も残っている。球団が公開した入団式には両親も同席し、異国で新たなスタートを切る息子を見守る母親の姿が韓国ファンの間で話題となった。ファンからは「家族のためにも野球で示してほしい」との声が上がっている。 また、金 河成、李 政厚、金 慧成らを輩出してきたポスティングの名門球団で、金久保が再起を果たせるかに現地の視線が集まっている。
【NCダイノス】戸田懐生(元巨人 / 総額13万ドル=約2000万円)
戸田 懐生は、昌原の本拠地球場での直接テストを経て、先発と中継ぎの両方をこなせる即戦力として評価された。巨人で育成コーチを務めた経験を持つ李虎準監督の下、名門球団で培った基礎を若手投手陣に伝える役割も期待されていると、現地メディアは伝えている。戸田は、NC球団創設以来、選手・指導者を含めて初の日本人メンバーとなった。
李監督が来季の成績の鍵として「先発野球」を挙げたことから、韓国では戸田の先発起用が積極的に検討されているとされる。巨人時代に磨かれた制球力と奪三振能力を踏まえ、外国人投手と並ぶローテーション上位を形成する可能性も指摘されている。身長170cmで、KBOリーグ最小身長の投手とされており、スタミナ面を不安視する声もあるが、球団は育成段階の新人とは異なり、即戦力としての「現在の完成度」を高く評価したとの見方だ。
現地報道によると、こうした補強の背景には、国内先発陣の深刻な戦力不足という事情がある。今季は外国人投手2人を除き、規定投球回に到達した韓国人先発投手がいなかった。戸田の獲得は、その状況下での最適解と受け止められている。
MLB級の施設を誇る昌原NCパークは、天然芝、硬く管理された米国直輸入のマウンド土、打球の飛距離を抑える気流条件がそろい、精度の高い制球を持つ戸田にとって、積極的な投球を展開しやすい環境とされている。
【ハンファ・イーグルス】王彦程(元楽天 / 総額10万ドル=約1500万円)
台湾代表左腕の王 彦程は、今ストーブリーグのアジア枠市場で最も注目を集めた存在だったと、現地メディアは伝えている。楽天二軍でチーム最多となる10勝を挙げ、KBO複数球団が獲得に関心を示したほど、評価は高かった。ハンファは、最速154km/hのフォーシーム、鋭いスライダー、攻撃的な投球スタイルに加え、100球を超えても球速が落ちにくいスタミナが、左腕先発不足のチーム事情を補うと見ている。
ハンファの戦略チームが、約9か月にわたり10回以上日本を訪れて調査を重ねた獲得プロセスは、現地でも大きな話題となった。獲得発表後には、楽天時代の同僚だったコディ・ポンセが「才能と誠実さを兼ね備えた投手」と評価し、成功の可能性に言及した。現地報道によると、王は当初、若手投手との5番手争いやロングリリーフでの起用が想定されていたが、来年3月のWBC代表招集を巡る状況などから、シーズン序盤から先発ローテーションの一角を担う可能性が高まっていると伝えられている。
今季、韓国シリーズ進出を果たしたハンファは、優勝争い定着を目指す再建の最終段階にある。今オフ、主力外国人投手がMLBへ復帰したことで生じた戦力空白を埋める上で、王彦程の獲得は不可欠な補強だったとの見方が強い。
戦略的な球場相性も注目点だ。2025年完成の新本拠地は、右翼までの距離が短い一方、約8メートルの高いフェンス「モンスターウォール」が設置されている。左腕投手として左打者に有利な条件を持つだけでなく、右打者が流し打った打球もフェンスが抑える形となり、王彦程が被本塁打を抑えつつ、より積極的な投球を展開できる要素になると分析されている。