高額契約も予測された中で、条件が下がる形となった村上(C)Getty Imagesメジャーでのポテンシャルに懸念が示され…

高額契約も予測された中で、条件が下がる形となった村上(C)Getty Images
メジャーでのポテンシャルに懸念が示されたという現実
村上宗隆がホワイトソックスと結んだ2年3400万ドル(約53億7000万円)という契約は、大方の予測よりも小さなものだったことは否定できない。
今オフの開始当初、村上は総額1億ドル(約157億円)以上の契約を得る史上初の日本人野手になると目されていた。高卒から8年に及んだNPBでのキャリアを考えれば、それも当然だったのかもしれない。
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まだ、25歳という若さで、すでに年間56本塁打(2022年)を放った経験があり、ケガに苦しんだ昨季ですらも56試合で22本塁打、出塁率.392、長打率.659という優秀な成績をマーク。116.5マイル(約187.4キロ)という打球速度はMLB屈指のパワーヒッターと同等の水準だった。それらの実績は、メジャー入りを表明すれば、争奪戦が勃発した上で高額契約を得ることを指し示しているように思えた。
ところが――。村上が締結したのは、最終的に23年の吉田正尚(5年9000万ドル)、22年の鈴木誠也(5年8500万ドル)よりもはるかに低い金額での短期契約だった。
再建中のホワイトソックスならプレッシャーは小さく、そこで経験を積んだ上で2年後にFAで再びマーケットに売り込めること、さらに今春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)出場にも許可が得られそうなど、少なからずメリットのある契約なのは確かではある。その一方で、これだけ条件が抑えられた背景に、村上のメジャーでのポテンシャルに懸念が示されたという現実があるのも確かなはずだ。
それが何なのかについては、すでに盛んに語られてきた通りである。米スポーツ専門局『CBS Sports』のクリス・タワーズ記者は、自身のコラム内で“三振の多さ”と“速球への弱さ”といった村上の弱点をこのようにまとめていた。
「MLB.comによると、ムラカミは過去2シーズンで空振り率が約36%に達し、その間に三振率は29%まで跳ね上がっている。これは非常に厳しい数字だ。さらに深刻なのがゾーン内コンタクト率で、25年は72.6%にとどまった。22年の77.1%から低下し、MLB平均の82.5%を大きく下回っている。ムラカミは球速の高い速球に明確な弱点を示しており、MLBではNPBよりもはるかに多くそういった球を見ることになる」
つまり日本でプレーしていた間でさえも、ストライクの球を空振りする確率が極めて高かったということ。この72.6%という数字をどう判断すればいいかというと、26年のMLBでこれを下回ったのはラファエル・デバース(71.4%)だけだった。しかも村上のそれはMLB未満のレベルの投手を相手にした数字。メジャーではさらに悪化すると予測されるのは仕方ないことなのだろう。

打撃では三振の多さ、守備では不安定さなど課題が少なくない村上(C)産経新聞社
「これほど判断が難しい選手は初めてだ」某強豪球団スカウトが漏らした言葉
もっとも、これらの懸念材料をすべて並べたあとでさえ、村上がアメリカでは活躍できないと決まったわけではもちろんない。そもそも成功の確率が著しく低いと目されたとすれば、年俸にして1700万ドル(約26億6900万円)も払うチームが現れるはずもないのだから。
パワーはメジャーに通用してお釣りが来るほど。それでも現時点ではメジャーにアジャストできるのか、さらなる伸びしろがどれだけあるのか、とにかく判断が難しい選手だという。昨年12月にフロリダ州オーランドで行われたウインターミーティング中、ナ・リーグの某強豪チームのスカウトが頭を抱えていたのは象徴的だった。
「ムラカミはスターになるかもしれないし、ほとんど成功できないかもしれない。これほど判断が難しい選手は初めてだよ」
結局、すぐに勝ちにいかなければいけない位置にいるチームには、その不確定要素が敬遠され、相対的に条件も下がったのだろう。
ただ、繰り返しになるが、安全な補強策ではないからといって、新天地で開花するのが不可能という意味ではない。空振りの多さに関する比較対象として、ラファエル・デバース(現ジャイアンツ)の名前が出てきたことも興味深い。
パワー、打球の速さ、三振の多さ、三塁守備の不安定さなど、村上はデバースと似た長所、短所を数多く備えている。そして、デバースは目に見える欠点がありながらも、メジャー通算235本塁打を放ち、23年にはレッドソックスと10年3億1350万ドル(約453億円)という大型契約を結んだ選手でもある(注・その後にトレードされ、現在はジャイアンツ所属)。
デバースは空振りの多いスラッガーの中では例外的な存在で、どんな打者にも「デバースになれ」と期待するのは無理がある。ただ、それは不可能なわけではなく、村上には将来を夢見させるだけの若さと稀有なパワーがある。それゆえに、未来に期待する楽しさがある。
ホワイトソックスへの入団会見時のことだ。56本塁打を打った時のようなスイングにどう戻すかについて問われ、村上はこう答えていた。
「言葉で説明するより結果で残していきたいと思っています。試合が始まって、僕が打席に立つようになって、また同じ質問をしてくれたら詳しく話せるのかなと。こっちで感じてみたこともトライしたいので、(後で)また同じ質問をしてくれたらいいなと思います」
その言葉からは、負けん気の強さと根底にある自信が感じられた。メジャーで成功するため、そして一部からの懐疑的な声を吹き飛ばすため、このような意志の強さは必要だろう。たとえ足りない部分があっても、明白な長所があればそれに特化させてくれるのが、アメリカのカルチャー。村上には合っている世界にも思え、あとは結果を出すだけ。もともとのポテンシャルの大きさを考えれば、この未完のスラッガーが2年以内に力を発揮し、リスクへの不安の声を吹き飛ばしても誰も驚くべきではない。
[取材・文:杉浦大介]
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