復活Vで流した涙の裏に何があったのか。畑岡奈紗は昨年11月、日本開催の「TOTOジャパンクラシック」で3年半ぶりのツア…
復活Vで流した涙の裏に何があったのか。畑岡奈紗は昨年11月、日本開催の「TOTOジャパンクラシック」で3年半ぶりのツアー通算7勝目を飾った。歓喜へと至る過程で乗り越えたのは、ボロボロだったルーキー時代に迫るほどの苦悩。日本勢の後輩たちがメジャータイトルを次々につかんでいく葛藤すら力に変えて挑む米ツアー10年目の覚悟に単独インタビューで迫った。<全2回の前編/後編に続く>
<TOTO>「どこか忘れられているような…つらい時間あった」 3年半ぶり勝利の涙の理由
平均ストローク「69.92」に喜びと驚き
「キャリアで一番よかったんですか?」――。聞き返す言葉には、喜びと同じくらいの驚きが混じっていた。2025年シーズンにマークしたツアー8位の平均ストローク「69.92」は、これまで自身唯一の60台でもあった22年の「69.94」を上回った。
5大メジャー後の米ツアー9試合でトップ10入り6試合を占めた終盤戦の手応えは確かにある。一方で序盤から中盤にかけて味わった苦しみを思えば、にわかには信じられない数字と言えた。
24年まで強化ポイントのひとつだったショートパットが、昨年4月頃には深刻な悩みとなって重くのしかかっていた。アドレスの段階で「どこかしっくり来ない」気持ち悪さがぬぐえず、メンタル面にも大きく影響してストロークが安定しない。なかなか思ったところに打ち出せない状況が続き、ついには「手が動かなくなってしまった」と明かす。
地元茨城での国内メジャーにスポット参戦した5月「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」は、まさに試行錯誤の真っただ中。実家に眠っていたクランクネックのパターをバッグに入れ、ラウンド中にクロスハンドの握りを順手にスイッチして打った日もあった。その前週にはグリーン上も左手にグローブをはめたままプレーする変化を加えたばかりのタイミングで、「あの頃は『これ、どうなっちゃうんだろう…』っていう感じでしたね、正直。もう、出口が全然見えないし、本当にいろいろなことをやりました」と振り返る。
<サロンパスカップ>ラスト2ホールでパターの握りを変更「週末は情けないプレー」
「超えるものはない」1年目に迫る苦闘
米ツアー9年目の序盤で訪れた試練。畑岡には苦い記憶がある。高校を卒業して渡米した17年、出場19試合で予選通過はわずか7試合と打ちのめされた。いまでこそ流ちょうに操れるようになった英語も当時は勉強中で、慣れない環境におけるサポート体制も整っていなかった。心身ともに追い込まれた18歳のシーズンだった。
「1年目のつらさを超えるものはないなって思っていたんですけど、それに次ぐくらい、この勝てなかった間の2、3年はしんどかった」。特に25年は、ポイントランキングで出場人数が絞られる秋のアジアシリーズ、最終戦のエリートフィールド進出に春先の段階から危機感をにじませるほど状態が良くなかった。「勝てそうっていう感じも、ゼロでした」。自分への期待を高められないまま戦う試合ほど、もどかしいものはない。
大目標であるメジャーで上位争いすら遠かった。パッティングの悩みの顕在化と重なった4月「シェブロン選手権」は52位。6月「全米女子オープン」で7位と好スタートを切りながら予選落ちを喫し、「KPMG全米女子プロ選手権」は初日103位の出遅れを必死に挽回して4日間をプレー。7月「アムンディ エビアン選手権」も18位から出た3日目に「76」をたたいて失速した。
8月の「AIG女子オープン(全英女子)」は33位で終えた。91位から10位にジャンプアップした2日目の「68」が際立つものの、フィニッシュとしては物足りないはず。ただ、間違いなくターニングポイントになる試合だった。「順位は良くなかったですけど、自分の中では『いい感覚かも』っていうところがあったんです」
<全米女子オープン>初日1打差7位からまさかの「78」で予選落ち
<全米女子プロ>52位→予選落ち→36位 不完全燃焼で終えた米本土メジャー
右手の“向き”でショットもパットも一変
ウェールズから拠点のフロリダ州オーランドへ戻って調整した2週間、フィジカルから技術面までトータルで師事する高田洋平氏にじっくり練習を見てもらう機会があった。全英女子での好感触を伝えると、そのフィーリングを生かしつつ、グリップにおける右手の“向き”だけ微調整するよう指摘されたという。
「あまりにも右手を下から握りすぎていたんです。(グリップで)右ひじを絞りすぎることによって、ダウンスイングにかけてひじを入れて(右腕が外旋して)インパクトしたい人の使い方になっちゃっていた。本来、私は上からかぶせて(内旋して)いきたいタイプ。ひじが入ってきてしまうことで、ただの振り遅れになってしまったり、それをイヤがって(ヘッドを)返しちゃうこともあった」
イメージする動きに対し、前提部分で起きていたミスマッチ。テークバックをフラットに上げてしまうスイング面の悪癖解消につながるヒントが、ずっと悩ましかったパッティングにも大きな効果をもたらす。「やっぱり、ショットもパットも連動している。パターも結構、右ひじを絞る感じで構えていたんですけど、『むしろ、クローグリップみたいな感じでもいいんじゃないか』と。実際にクローでは打たなかったですけど、それくらいの感覚で右脇を締めすぎないようにしました」
<FM選手権>“手を動かした”言葉「何をそこで考えてるの?」
<TOTO>技術コーチは“コーチ”じゃなかった 復活優勝を手繰り寄せたアドバイス
オープンウィーク明け2戦目で7位に入った「FM選手権」を皮切りに好成績を連発した。「そういう(手が動かない)症状であったり、悪いイメージが一回ついてしまうと、払拭するのはすごく大変。成績が出ている中でも“それ”が出てきちゃうことはあった。無理に消そうとするんじゃなく、いま自分がやっていることをもっと強くイメージすることでネガティブなこととも付き合っていくしかないなって」
そう割り切り、「TOTOジャパンクラシック」での勝利へ突き進むきっかけとなった全英女子。しかし、山下美夢有が制したメジャーで得たのは、必ずしもポジティブな感情ばかりではない。日本勢の後輩たちが大活躍したシーズンだからこそ、乗り越えなければならないものがあった。(聞き手・構成/亀山泰宏)
撮影協力/アビームコンサルティング