ぎっくり腰のように身動きがとれなくなってしまうほどの激痛から、なんとなく腰がだる重いといった程度のもやっとした痛みまで。その差はあれど、多くの人が一度は「腰痛」を経験したことがあるのではないでしょうか。 実際に腰痛は「80%の人が人生で一…

 ぎっくり腰のように身動きがとれなくなってしまうほどの激痛から、なんとなく腰がだる重いといった程度のもやっとした痛みまで。その差はあれど、多くの人が一度は「腰痛」を経験したことがあるのではないでしょうか。

 実際に腰痛は「80%の人が人生で一度は経験する」と言われているそう。では、継続的なスポーツは腰痛にどんな影響を与えるのでしょうか。スポーツは腰痛にいいの? 悪いの? 今回はそんな意外と知らない「スポーツと腰痛」の関係について、専門家の先生にお話を伺ってきました。

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腰痛と決別するためには自前の"体内コルセット"を鍛えよ!┃意外と知らない「スポーツと腰痛」の関係(後編) | 健康, トレーニング×スポーツ『MELOS』

腰痛ってどうして起きるの? どんな症状なの?

 スポーツと腰痛の関係を考えるまえに、そもそも「腰痛」って、どんなメカニズムで起きているのでしょうか?

「一般的に『背骨』と呼ばれる脊椎は、椎骨という小さな骨が縦に連なってできています。そのうちの腰の部分は、お腹側に骨と骨の間でクッションの役割を果たす軟骨=椎間板があり、背中側は関節によって骨と骨が連結されていて、その周りを筋肉が覆っているんです。ですから前屈姿勢は椎間板に、腰をそらす姿勢は背中側の関節に負担がかかるわけですね。その負担が大きくなりすぎると椎間板や関節が傷んで痛みがでるのです」

 そう答えてくれたのは、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、日本障害者スポーツ協会公認障害者スポーツトレーナーの資格を持ち、東京有明医療大学保健医療学部柔道整復学科で准教授を務める小山浩司先生。

 このように腰骨そのものに問題があると明確に特定はできないけれど、おそらく使いすぎで腰周辺の筋肉が痛んでいるのだろうと思われる症状全般は「筋・筋膜性腰痛症」と呼ばれるそうです。

「腰回りの筋肉がパンパンに張っていて、伸ばそうとすると痛みがでるのが『筋・筋膜性腰痛症』の特徴。筋肉の強度以上に動きが大きくて負担がかかりすぎているか、あるいは姿勢が悪かったりするせいで、本来は筋肉を使う必要がないところで使っている。要するに筋肉の使い方が悪いために起こる症状です。いわゆる筋肉痛といっていいと思いますね」

 ということは腰痛の原因は腰骨そのものに原因があるか、腰周辺の筋肉が傷んでいるか。そのどちらかなのでしょうか?

「いえ、そうとも言いきれません。実は腰痛の原因は画像に写らないものが85%と言われるほど、お医者さんでも特定するのが難しいんです。心因性腰痛というストレスからくる腰痛も多いですし、稀にですががんなどの腫瘍が原因で起きる腰痛もあります。皆さんびっくりするかもしれませんが、たとえばぎっくり腰って具体的に痛んでいるのが筋肉なのか椎間板なのか関節なのか、まだわかっていないんですよ」

 なんと! これだけメジャーな病名にもかかわらず、原因がはっきり分かっていないというのは驚きです。では、痛みの種類から原因を推測することは難しいということ?

「基本的に前にかがんだときに腰が痛い場合はおそらく椎間板がよくない状態で、反対に体を後ろに反らせると痛みがでる場合は、背骨の後ろ側の関節が傷んでいるのではないかと考えられます。足に痺れがでる場合は椎間板ヘルニアの可能性が高いなど、症状から原因が推察できる場合もありますが、それが正解かはいろいろ調べてみないとわかりません。結論から言えば“ここが悪い”と明確に診断しにくいのが腰痛の特徴ということですね」

腰痛とスポーツの関係

 では、腰痛になりやすいスポーツというのはあるのでしょうか?

「どのスポーツが腰痛になりやすいかということも、実はデータ的にはまだはっきりわかっていないんです。というのも、そもそも腰痛の定義がバラバラだから。単純に『腰痛はありますか?』と自覚症状を聞くだけの調査方法もあれば、痛みで1日練習を休んだら腰痛と判断するところもあるというように、ガイドラインがひとつではないんですよ。ただし腰骨は構造的に前と後ろへの動きだけに対応していて、『ひねり』には弱い部位です。また前後の動きも負荷が大きくなると傷みやすい。ですから『前屈・後屈・ひねり・ジャンプ』などの動きが多い種目は腰によくないと言えるでしょう」

 たとえばバレーボールは構えの姿勢が前傾であることや、アタックするときの腰を折り曲げる動作やジャンプによる衝撃、レシーブの際の腰のひねりなどが原因で椎間板を傷める人も多いそうです。また野球も体のひねりと前傾の構えで同じことが言えるのだとか。ちなみにピッチャーよりも、常に前傾姿勢で守っている外野手の方がその確率が高いのだそう。全身運動といわれる水泳も、平泳やバタフライなどは腰に負担がかかるため患者数が多いそうです。

 とはいえ、スポーツが腰痛を引き起こしやすいというわけではなく、逆に体を動かすことが予防につながることもあるそうです。

「実はわたしたちの研究チームでは、陸上の長距離選手300人ほどのデータをとってきたのですが、その中に椎間板を傷めたり、腰痛持ちはほとんどいません。なので、これまでランニングは腰痛予防にいいのではないかと思っていたんです。ところが最近、フィンランドのデータでアマチュアランナーには椎間板を傷めやすいというデータがでてきてしまったんですよ。ただ、このデータは長距離走が腰痛によくないということではなく、むしろフォームなどの走り方に問題があると痛みがでて、プロ選手のようにきちんと筋肉を鍛えて正しいフォームで走れば腰痛にはなりにくいということの証明とも考えられます」

 基本的にスポーツによって腰痛がでるのは、どこかで動きに無理があったり、負荷が大きすぎるせい、と考えていいようです。

腰痛がでたらスポーツはやめるべき? 病院に行くタイミングは? 

 趣味のスポーツでも大会などの目標があると、痛みがでてもだましだまし練習を続けてしまうことがあると思います。それってやっぱりよくありませんか?

「これはあくまでも僕の考えですが、仮に痛みが軽くても、一度症状がでてしまったら、我慢して続けずに原因となっているスポーツを一旦やめた方がいいと思います。腰痛というのは非常に慢性化しやすいうえ、特効薬はありません。なんとなく治っていって、またぶり返す。それを繰り返していくことで、症状はどんどん悪化してしまうんです」

 スポーツだったら練習を、あるいは日常生活の中でこれが原因かな? と思う動作があればそれをやめても1週間ほど痛みが消えなかったら病院へ行くことをお勧めします、という小山先生。その理由はふたつ。

「まずひとつは痛みの原因を特定しなければいけないということ。どんな腰痛でも、普通はしばらく安静にしていると痛みは治まってくるものです。それでも痛みが引かないのは、内臓的になにかよくないものの可能性がある。きちんと診断を受けて、そこを見極めておく必要があります」

「原因が腫瘍などではないことがわかったら、今度は痛みの原因となる動作をつきとめていきます。仮に痛みが治まっても、それを引き起こす動きが改善されていなければ、いずれまた痛みはぶり返します。重いものを持つときに、膝を曲げずに前かがみになって持ち上げてしまうなど日常の何気ない動作が原因なら、それを改善する。スポーツをやめたら腰痛が治ったという人は、やはり体の動かし方がよくなかったんでしょう。ですから、まずは正しいフォームを身につけること。それと同時に体幹をしっかり鍛えたり、ストレッチをして体の柔軟性を高めるなどのケアをしていけば、スポーツを再開しても腰痛になりにくくなるはずですよ」

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[監修者プロフィール]
小山浩司(こやまこうじ)
研究分野は健康・スポーツ科学。東京有明医療大学准教授。博士(体育科学)(日本体育大学)。柔道整復師、日本体育協会公認アスレティックトレーナー、日本障害者スポーツ協会公認スポーツトレーナー

<Text:岩根彰子 / Edit:アート・サプライ(京澤洋子)/ Photo:Getty Images>

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