扇の要としてチームを文字通り司った今季の坂本(C)産経新聞社相手バッテリーの警戒も強めさせた「打者・坂本」 2年前とは、…

扇の要としてチームを文字通り司った今季の坂本(C)産経新聞社

相手バッテリーの警戒も強めさせた「打者・坂本」

 2年前とは、また違った達成感を阪神の坂本誠志郎は感じていた。

 9月7日の広島戦でチームはNPB史上最速となるリーグ優勝を達成。ライバルを寄せ付けず、独走したシーズンで、正捕手として2年ぶりの戴冠に貢献したのが、他でもない坂本だった。

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「自分の中で正捕手とかはあまり考えたことはない。正捕手の基準も分からない。でも、元々試合に出続けたいって思ってやってきたので。今(これまでのキャリア)までで一番試合に出てると思いますし、ちょっと成績もついてきているなと思う」

 球界屈指のフレーミング技術に、投手陣の好投を引き出すインサイドワークは「坂本誠志郎」という捕手の大きな長所としてこれまでも語られてきた。それらに加えて今季、存在感を示したのは打撃面。本人が強調した「成績」言葉にも打撃での貢献という手応えがにじむ。

 自己最多の117試合に出場し、打率.247、84安打は当然ながらキャリアハイで、19本を数えた二塁打にいたってはこれまでのシーズン最多5本から4倍近くも増産した。さらにMLBでは、野手の打力を推し量る上でスタンダードな指標となっているOPS(出塁率+長打率)もセ・リーグの捕手では最上位クラスの.684。どちらかと言えば、ディフェンス面が際立っていた坂本だが、相手バッテリーにとって「打者・坂本」にも警戒を強めなければいけない場面が多くあった。

 本人にとって打撃面での分岐点となったのは、開幕前の3月。ドジャースとのプレシーズンゲームでマスク越しに観察したのが、相手主砲のテオスカー・ヘルナンデスだった。

「テオスカー・ヘルナンデス選手を後ろから見て“うわ、これだ”と感じたんです。僕の目の前をバットが通ったんですよ」

 遠回りするように半円を描いて自身の目の前を通ったバットの軌道は、およそ最短距離とはいえないスイングだ。振り遅れるデメリットも生まれるように感じるが、坂本の着眼点は違うところにあった。

「振り遅れても加速をつけられているから、逆方向にも強い打球がいく」。インパクトまでにいかに右手で加速をつけられるか。春季キャンプから新たな理論を基に、強化に着手してきたスイングのお手本を思わぬところで目にしたというわけだ。

 OPSが.700を超えていた8月、坂本は「いかにスイングに加速をつけるか。今はもうインパクトより後ろ(加速をつけるスイング)のことばっかり考えています」と明かしてくれた。二塁打が格段に増えた要因は間違いなくヘルナンデスを参考にした加速型のスイングによるものだった。

捕手として坂本がマスク越しに見つめていたのは、ピッチャーだけではない。野手たちも同様に一挙手一投足を見定めていた(C)TakamotoTOKUHARA/CoCoKARAnext

主砲たちが「審判と戦っているように見えた」あの日

 今年の坂本が存在感を見せたのは、攻守だけではない。今年は精神面でも「リーダー」として仲間をけん引した。

 象徴的な出来事が交流戦期間中だった6月17日のロッテ戦(甲子園)。当時の阪神は、敵地で行われていた直近2カードで、西武、楽天に1つも勝てず6連敗。本拠地に戻って仕切り直したかったこの試合も投打がかみ合わず今季ワーストの連敗は「7」まで伸びていた。

 この日、スタメンを外れ、ベンチスタートだった坂本の視線は投手だけでなく、野手陣に向いていた。「みんなフラストレーションが溜まっているように見えた」という中で、とりわけ目に留まったのは中軸を担う森下翔太と佐藤輝明の2人。背負うものの大きさゆえ、チーム状態が自身の精神面に直結するように苛立ち、審判の判定に不服そうな表情を浮かべているのが分かった。

「あの日、翔太と輝が審判のストライクゾーンの判定に対して態度に出していたんです。僕にはそれがピッチャーと戦ってない、審判と戦っているように見えました」

 試合後、野手最年長の梅野隆太郎、そして代打の切り札である糸原健斗の先輩たちに「ちょっと僕から話をしていいですか」と了解をもらい、坂本はベンチ裏に野手陣を集めて話をした。

「(ベンチの)裏に来て(言いたいことを)言うのはいいと思う。でも、それが仲間に見えているところだったり、プレーをしている時にあからさまに出してっていうのは、俺は良いことないと思うから。そこじゃなくて、俺たちは結果で勝負せなあかんし、これだけ負けているのは誰も面白くない。ただ、俺たちはそれも含めて試合に勝って結果を出して評価される。連敗しているけど、何とか明日頑張って結果を出そう」

 森下、佐藤輝はもちろん、ナインにも思いは伝わった。もう一度、優勝という目標へ心を1つにするきっかけになる時間だった。

 渇望してきた出場機会を増やし、課題でもあった打撃面での進化。そして、自らの言葉でチームは勝利というシンプルかつ大事な目標を見つめ直した。その先に待っていたのが最速優勝という大きく、そして尊い勲章。単なる「女房役」や「正捕手」という言葉では収まらないチーム内での大きな存在として坂本誠志郎は頂点まで駆け上がったのだった。

[取材・文:遠藤礼]

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