かつて井上と拳を交わしたフルトン(C)Getty Images「追い出してください」――井上が苛立ったピカソ戦 絶対王者…

かつて井上と拳を交わしたフルトン(C)Getty Images
「追い出してください」――井上が苛立ったピカソ戦
絶対王者にしてみれば、予期せぬ“いちゃもん”だった。
物議を醸したのは、現地時間12月27日、サウジアラビアのリヤドで開催されたボクシングの興行「NIGHT OF THE SAMURAI」のメインマッチ、世界スーパーバンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が、WBC世界同級2位アラン・ピカソ(メキシコ)に3-0で判定勝ちを収めた一戦を前にした騒動だ。
【動画】井上尚弥がイライラ爆発 波紋を呼んだピカソ陣営のクレームシーン
いつも通りに緊張感を高めながら、控室で淡々と準備を進めていた“モンスター”は、バンテージを巻いていた。ここに現地コミッションをはじめとする関係者が集結。絶対王者の一挙手一投足を凝視する中で、ピカソ陣営の担当者と思われる男性が「これはダメだ」とケチをつけると、別の関係者が「これは単純なこと。ルールはバンテージを3本、ガーゼ、テープで仕上げる。それだけだ」と指摘した。
井上陣営にとっては青天の霹靂とも言える事態だった。前日のルールミーティングでコミッション側はもちろん、ピカソ側とも了承を得た巻き方をしていたからである。ゆえに本人も通訳者に対して「コイツ、追い出してください」と苛立ちを隠そうとはしなかった。
そんなピカソ陣営の行ったクレームの模様は、英大手プロモート企業『Matchroom』社の公式Xで世界的に拡散され、様々な反響が相次いだ。五月雨式に流れたリプライの大半は「明らかな妨害行為だ」「イノウエへのリスペクトに欠けている」といった怒る井上を擁護するものだった。一方で「フルトン戦もそうだった」といった意見も散見された。
23年7月に行われたスティーブン・フルトン(米国)との対戦が引き合いに出されたのは、当時も井上はバンテージの巻き方を巡って、敵陣営からクレームを入れられていたからだ。
フルトンを支えたワヒード・ラヒームトレーナーは公式会見の場で「我々は、この試合をクリーンにやりたいと思っている。選手たちのレベル、質を下げることのないことを祈る」と切り出し、「安全な方法でテープ(バンテージ)が巻かれることを願っている」と異論を唱えたのである。
その時も井上は真っ向から反論した。「自分は24戦やって、全試合で正々堂々と試合をしている。何の記事を見たのかわからないけど、こちらも正々堂々と戦いたい」と返答。なおも「パンパンのグラブで試合をするのは公平ではない。試合に公平さを求めるためにここで発言をした」と繰り返したラヒーム氏を意に介さなかった。
「ボクシングで文句を言ったことなんて一度もない」
この時のやり取りを記憶しているボクシング・ファンは少なくない。ゆえに今回のピカソ戦の騒動の際にも、一部でフルトンの名が持ち上がったのだろう。
ただ、一連の話題にフルトン本人は興味深い持論を展開している。X上で自分の名が取り上げられていると知った31歳は、井上とのやり取りを回想しつつ、「おいおい。念のために言っておくが、俺はハンドラップ(バンテージ)について一言も言ったことがないし、気にしたことすらない」と強調。「お前らは、まるで俺がずっとその件で文句言っていたみたいに話しているけど、コーチが記者会見でその話してた時も、俺は呆れた顔で見てたんだ」と“アンチ”に反論し、井上へのリスペクトを暗に示した。
さらにフルトンは、別の投稿で、こうも発信している。
「ボクシングで文句を言ったことなんて一度もない。俺が何かに口を出すのは、誰かが失礼な態度を取ろうとした時か、俺自身が侮辱されたと感じた時だけだ」
フルトンの言及によっても、明確になった井上陣営の正当性。試合直前の緊張の場で、不可解なクレームを飛ばしたピカソ陣営の“真意”は何だったのだろうか。
[文/構成:ココカラネクスト編集部]
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