4月27日のシャティン競馬場。曇天のもとで行われたクイーンエリザベス2世Cはタスティエーラ(牡5歳、美浦・堀宣行厩舎、…
4月27日のシャティン競馬場。曇天のもとで行われたクイーンエリザベス2世Cはタスティエーラ(牡5歳、美浦・堀宣行厩舎、父サトノクラウン)の勝利に終わり、記者を含め報道陣は関係者を歓迎ムードで出迎えていた。だが、その朗らかな雰囲気は一瞬で打ち砕かれる。競走中止したリバティアイランド(牝5歳、栗東・中内田充正厩舎、父ドゥラメンテ)が帰ってこず、改めてコースを見渡すと目隠しの黒い幕、馬運車。競馬を長く見ているからこそ、悲劇を悟ってしまった。
その後のタスティエーラの勝利者インタビューは正直、上の空だった。というべきか、彼女の情報が何も入ってこず、それどころではなかった。現地の厩舎地区は報道陣が立ち入ることができず、経過は知るすべがない。「もしかしたら…」という希望もよぎった。しかし、1時間ほどたったのちに記者の前に現れた中内田調教師はひと言「安楽死です」。その張り詰めた表情に、それ以上を聞くことはできなかった。
栗東の馬のため、美浦担当の記者はレース以外のリバティアイランドを香港まで見たことがなかった。走りの力強さ、そして筋骨隆々の馬体から男勝りの素顔を想像していたが、実際に調教している姿を見ると思ったよりもスマート。まさに気品ある姿で、他の日本馬が慣れない海外にピリピリとしている中でも、馬場で静かな存在感を放っていた。正直言って勝てるとは思っていなかったが、やはり名馬だなと直観的に感じさせる、間違いなく特別な馬だった。つくづく残念でならない。
8月には北海道・ノーザンホースパークに設置された墓碑のセレモニーも取材。その場で主戦の川田将雅騎手が語った「リバティが残してくれたいろんなものを次につなげていくことが僕らの役割」という言葉には胸を打たれた。最後の姿を見た報道陣は数少ない。あの気品と悲劇を語り継いでいくことが記者の使命と感じている。(角田 晨)