今季限りでユニホームを脱ぎ、新しい人生に挑戦する男たちの思いを伝える「第2の人生へプレーボール」。8年間の現役生活に別…
今季限りでユニホームを脱ぎ、新しい人生に挑戦する男たちの思いを伝える「第2の人生へプレーボール」。8年間の現役生活に別れを告げ、引退を決めた阪神の楠本泰史外野手(30)は球団プロスカウトの道に進む。2度の戦力外通告を受けながらも、新たな扉を開いた男の決断に迫る。
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苦悩の末に選んだ決断だった。10月末に言い渡された突然の戦力外通告。「時期が時期でしたし、頭の整理が追いつかなかったというのが正直なところ。CS、日本シリーズで一緒に戦う準備もしていたので」。複雑な心境だった。「これ夢なのかな。本当に言われているのかな」と信じられない気持ちもあった。
その際に提示されたのがプロスカウトのポストだった。「少し考えさせてください」と返答。悩んだのは10日間。引退を決意したタイミングで受諾した。
社会人チームからのオファーはあったが、NPB以外では考えられなかった。「プロの世界で野球をやっていたいという強い思いがありました」。NPB以外でプレーするなら引退することは昨年から決めていた。
球団への感謝の言葉も口にした。「在籍1年にもかかわらず、次のポストを用意していただけるなんて幸せ者だなって」。選手としてではなかったが、NPBに残ることはできた。古巣のDeNAからも球団職員としてのオファーがあったが、より現場に近い仕事を選んだ。
誰もがなれる立場ではない。球団は楠本の人柄や姿勢を評価していた。「『ファームの期間が長い中でも手本となって最後までやってくれた。本当にありがとう』と平田2軍監督をはじめ、コーチ、編成の方が頭を下げてくれた。自分は本当に腐らず一生懸命やって良かった」と話した。
「自分の一言が選手の人生を変えるかもしれないというのは肝に銘じてやりたい」。自らがそうだったように、人生を懸けて野球に取り組む選手たちの気持ちが分かる。だからこそ生半可な気持ちでは務まらないと考えている。
「一人の野球人生を伸ばすことができる仕事だと思います。環境が変わって良かったという選手が一人でも多く出てくるように一生懸命やりたい」。2度経験した戦力外というどん底が生きる仕事でもある。球団への恩返しのためにも新たな道で奮闘を続ける。
◆楠本 泰史(くすもと・たいし)1995年7月7日生まれ、30歳。大阪府出身。180センチ、85キロ。右投げ左打ち。外野手。花咲徳栄、東北福祉大を経て2017年度ドラフト8位でDeNA入り。18年3月30日のヤクルト戦(横浜)で初出場。24年オフに戦力外通告を受け、25年に阪神入団。同年オフに2度目の戦力外通告を受け、引退を決断。NPB通算421試合で打率・223、12本塁打、80打点。