米ツアー挑戦中の石川遼がフロリダ州で開催された試合の前、練習場でタイガー・ウッズに“いじられた”ことがあった。石川は「…
米ツアー挑戦中の石川遼がフロリダ州で開催された試合の前、練習場でタイガー・ウッズに“いじられた”ことがあった。石川は「うれしかったです」と満面の笑みを浮かべていた。スーパースターからいじられる喜び。それを私も感じたことがあった。スポーツ紙のゴルフ担当記者だった2015年10月の「ブリヂストンオープン」。尾崎将司さんとのやり取りを思い出す。
大会開幕前日のことだった。その日、ジャンボさんは当時ツアー1年目の川村昌弘と一緒に18ホールをラウンドした。帰り際に川村のプレーについて質問しようと尾崎さんの後を追い、駐車場まで詰めかけた。
ジャンボさんは入り口の縁石に腰を下ろし、煙草をふかし始めた。こちらが質問を投げるや否や、「オマエ、まぶしいんだよ。帽子をかぶるか、今どきはいいカツラもあるだろう」。西日の“照り返し”は、確かにまぶしかったと思う。車に乗り込むと、こちらを見てニヤリ。ただ、そういじられたことが、たまらなくうれしかった。
スーパースターからのいじりをメーカーのプロ担当者たちに伝えると、爆笑された。そして、あるスタッフからキャップではなく、サンバイザーを手渡された。「帽子をかぶって行ったら、ジャンボさんに失礼だ」と。
迎えた大会初日。尾崎さんは、午前8時50分スタートだった。私は練習場に行く前のジャンボさんを捕まえようと、7時頃から待ち構えた。もちろん、頭にはサンバイザーといういで立ちで。“ベアグラウンド”のような頭頂部をさらけ出したまま…。
ついに、その時が訪れた。スーパースターがトイレから出てくるのを見計い、朝のあいさつをすると、次の瞬間「オマエ、そりゃあ“逆目”だよ」と最高の返しが来た。“狙って”もらえたいじりに、私は「ありがとうございました」とうれしくて敬礼をした。頭を上げると、ジャンボさんは再びニヤリとして練習場へ向かった。
はたから見れば、なんてことはない一幕だろう。それでも私にとっては、生涯にわたって忘れることのない、スーパースターと分かち合えた最高の瞬間のひとつだ。ベアグラウンドではなく、逆目と表現してくれたのは、ジャンボさんの優しさだったのかもしれない。もう、あの笑顔を見られないし、あのウィットに富んだ言葉を聞けないと思うと、寂しくて、寂しくて仕方がない。(営業部/元スポーツ紙記者・稲垣博昭)