RIZIN10周年となる記念の大晦日「RIZIN師走の超強者祭り」。豪華カードの中で最も注目を集める試合がラジャブアリ…
RIZIN10周年となる記念の大晦日「RIZIN師走の超強者祭り」。豪華カードの中で最も注目を集める試合がラジャブアリ・シェイドゥラエフと朝倉未来のRIZINフェザー級タイトルマッチだろう。シェイドゥラエフは10戦10勝(3KO・7S)というパーフェクトレコードを引っ提げて、2024年6月からRIZINに参戦。RIZINでも連勝街道を突き進み、今年5月にクレベル・コイケを右フックでマットに沈めて第7代RIZINフェザー級王座に就くと、9月の初防衛戦でもビクター・コレスニックを右ストレート粉砕した。RIZINでの試合を加えると、ここまで15戦15勝(6KO・9S)とパーフェクトレコードは継続し、圧倒的な強さを見せ続けている。
【大晦日ライジン】RIZIN師走の超強者祭り 対戦カード・大会情報
今年に入って鈴木千裕とクレベルに連勝して復活を遂げた朝倉だが、シェイドゥラエフは過去最強の相手と言っても過言ではない。圧倒的な攻撃力、多彩なテイクダウン能力、強靭なフィジカル……ここまで弱点らしい弱点を見せたことがないシェイドゥラエフをどうすれば攻略できるのか。シェイドゥラエフ・朝倉と肌を合わせたことがある3人のファイターに朝倉がシェイドゥラエフに勝つためのヒントを訊いた。
■「シェイドゥラエフよりも朝倉の方が打撃は荒い。“つまらない試合”をするのが一番の勝ち筋」(平本蓮)
最初のファイターは2024年7月に朝倉を左ストレートでKOしている平本蓮だ。K-1で培った高度な打撃技術はもちろん、格闘IQの高さにも定評がある平本は筆者と対談したYouTubeチャンネル「THE ONE TV」内の動画にて、シェイドゥラエフvs朝倉についてコメントしている。
シェイドゥラエフはレスリング・グラップリングをバックボーンに持ち、過去の試合でも一本勝ちやパウンドアウトする試合が多い。直近2試合=クレベル戦とコレスニック戦でこそスタンドでKO勝ちしているものの、テイクダウン&グラウンドで攻める選手という印象が強く、スタンドの打撃は荒いというイメージを持たれがちだ。しかし平本の見解はそれと異なる。
「よく『シェイドゥラエフは打撃が荒い』みたいに言われますけど、コレスニック戦を見てもシェイドゥラエフの打撃は全く荒くない。普通にシャープで、ワンツーも綺麗に(脇を締めたスタイルから)打っている。それプラス、クレベルを一発で倒して自信がついていると思うし、相当打撃を磨いていると思います。打撃で大事なことは顔がずれるかずれないかで、例えばコナー・マクレガーやフロイド・メイウェザーは顔が全くずれない。シェイドゥラエフは首が太いこともあって顔がずれないんです。だから対戦相手はシェイドゥラエフのパンチが見えないんだと思います。逆に朝倉未来は顔もずれて全力でパンチを振る打撃だから、むしろシェイドゥラエフよりも朝倉の方が打撃は荒い。僕はシェイドゥラエフは打撃もしっかりやばいでしょという印象しかないので、そこに期待を持たない方がいいと思います」
そして平本は「シェイドゥラエフにどうすれば勝てるか?は朝倉未来に限った話ではない。現時点でどうやってシェイドゥラエフに勝てばいいのか分からない」とした上で、打撃ではなく組み技で勝負することがシェイドゥラエフ攻略につながるという持論を展開した。
「僕は朝倉未来が組んでシェイドゥラエフをコーナーに押し付けてコツコツ打撃を入れる。そうやって“つまらない試合”をするのが一番の勝ち筋ではあるのかなと思います。シェイドゥラエフも体が強いから態勢を入れ替えたりするだろうけど、ひたすらコーナーに貼り付けにしてコツコツ打撃を入れる。本当にそれが一番、ベストというかどうなんだろうな…僕は逆に組んだ方がいい、組んでグラウンドに持ち込むのではなく貼り付けにする展開がいいんじゃないかなと思います」
■「シェイドゥラエフはサウスポーのストライカーを攻略するのは得意だけど、サウスポーのレスラーは苦手なのではと思う」(武田光司)
2人目はレスリング出身で、元DEEPライト級王者の武田光司だ。武田は2020年からRIZINを主戦場に戦い、シェイドゥラエフのRIZINデビュー戦の相手を務めた。武田にはシェイドゥラエフと向かい合ったファイターとして、シェイドゥラエフの強さを語ってもらった。
「簡単に言うとシェイドゥラエフは怖いもの知らずなんですよ。子供って無邪気で色んなことにトライするじゃないですか。で、物事の怖さを知らないから、大人からすると『危ない!』と思うようなことでも躊躇なくやっちゃう。シェイドゥラエフはそういう感じです。しかも試合で負けなしだから、常に自信満々の自分を出せる。シェイドゥラエフからするとフルスロットルで自分のことを出せば、誰が相手でもイージーファイトでしょ? みたいな感覚だと思います。あとはシェイドゥラエフの場合、テクニックだけじゃなくて荒さもあって、その荒さの使い方が上手いんですよ。荒さのテクニックというか、どういうシチュエーションだったら自分の荒さが活きるのかを分かって戦っていると思います」
そして武田にどうすればシェイドゥラエフを攻略できるかについて聞くと、意外にも平本と同じく組み技に活路を見出すべきという答えが返ってきた。
「あんな負け方をした僕が言うのも変な話ですが、シェイドゥラエフはサウスポーのストライカーを攻略するのは得意だけど、サウスポーのレスラーは苦手なのではないかと思います。あくまで対オーソドックスと比べた場合の話ですが、僕がシェイドゥラエフと戦った感じではサウスポーのレスラーはちょっと苦手だろうなと。それは試合前の準備の段階からそう思っていて、実際に試合の時にも感じたことです。
朝倉選手がどんな準備をしているか分からないですが、ここ最近の試合では組み技で試合を進めるようになって、前回・前々回と同様の試合の展開に持っていければ可能性はあると思います。シェイドゥラエフは基本的にどんどん前に出てくるスタイルだから、朝倉選手としてはパンチや蹴りを必ず返して勢いに飲まれない、下がらないことですね。そして組みでもしっかり勝負する方がいいと思います」
■シェイドゥラエフの厄介な点は「パンチを打つ時に全く“殺気”がない」こと(久保優太)
最後は初代K-1ウェルター級王座をはじめ、キックボクシングで輝かしい実績を残し、現在はRIZINで活躍する久保優太だ。久保は昨年大晦日にシェイドゥラエフと拳を交え、朝倉とは練習パートナーという間柄でもある。久保はシェイドゥラエフと対峙した時、爆発力や勢いよりも技術のきめ細かさ・殺気のなさを感じたという。
「僕はシェイドゥラエフは荒いイメージがあったんですけど、打撃でも寝技でも動きが精密でしたね。打撃の時は細かいフェイントが上手かったですし、常に自分にとって有利な立ち位置やポジションを取る感じです。寝技になっても押さえ込みのプレッシャーのかけ方が絶妙で、ここを押さえれば相手は立ち上がることが出来ないというポイントを確実にキープしてくるんですよね。その状態からパンチを打ってくるので、すごく理にかなった動きをする選手だと思いました。
あと僕は相手がパンチを当てたい時とパンチをフェイントにしてタックルに入りたい時、殺気の違いで分かるんですよ。仮にフォームや動きが全く一緒だったとしても、殴ろう・倒そうという気持ちを持っているかどうか分かるものなんですよね。でもシェイドゥラエフの場合はパンチを打つ時に全く殺気がない。それもあって僕は右ストレートをもらってしまいました」
シェイドゥラエフ・朝倉両者の強さを肌で知る久保はこの一戦をどう見ているのか。久保は朝倉の練習パートナーという立場のもと「朝倉選手は視野が広くて頭が柔軟。しっかり勝つための準備をしている」と語っている。
「朝倉選手とは一緒に練習しているので細かい話は出来ないですけど、すごく自信を持っている感じはしますね。朝倉選手は頭のいい方で、格闘技においても視野が広いんです。格闘家は固定概念や一つのことに固執しちゃう選手が多いと思いますが、朝倉選手は頭が柔軟で、切り替えるところはすぐに切り替えるし、損切するときはパッと損切りする。そういう点は凄いなと思いますね。今回のシェイドゥラエフ戦も何も考えずに試合を受けた感じはしないですし、しっかり勝つための準備を続けている印象を受けます」
打撃のエキスパートの平本とレスリング出身の武田、バックボーンもファイトスタイルも異なる2人から出たシェイドゥラエフ攻略の鍵は意外にも“組み技”。そして久保は朝倉の格闘技における柔軟な思考について言及した。一か八かの打撃勝負にかけるのではなく、組み技ベースのシェイドゥラエフに対して組み技で勝負する。そこにシェイドゥラエフ攻略のヒントがあり、固定概念に捕らわれない自由な発想が出来る朝倉未来だからこそ、シェイドゥラエフに勝つ可能性を秘めているのかもしれない。
©︎RIZIN FF
取材・文/中村拓己