新井貴浩監督就任3年目の今季、5位に終わった広島東洋カープ。失速の原因とは何だったのか。投手陣について、新井監督について…

新井貴浩監督就任3年目の今季、5位に終わった広島東洋カープ。失速の原因とは何だったのか。投手陣について、新井監督について、元監督・佐々岡真司さんと元捕手・西山秀二さんが語り合った。(聞き手・TIMレッド吉田さん)

【失速の原因はいったい何?】

レッド吉田(以下、吉田)今季の広島東洋カープは、残念なことに5位という結果でしたけれども、いかがですか?

佐々岡真司(以下、佐々岡)新井貴浩監督になって3年目ということで、本当に期待していました。(監督就任後)1年目は2位、2年目が優勝できるかなというところまでいって、9月に大失速して4位に落ちました。だからこそ、今年は巻き返して優勝を期待していたんですけど、7月に失速をしてしまいました。床田寛樹投手、森下暢仁投手が勝てなくなった原因はなんなのか。昨年もそうなんですが、9月になって先発陣がまったく勝てなくなった......何なんですかね?(笑)

吉田 佐々岡さんもまだ解明できてないんですね(笑)。

佐々岡 昨季もあれだけ順調にピッチャー陣がよくて、監督のマネジメントとしても、そこまで無理をさせていませんでした。9月に「行くぞ!」と号令をかけた途端に失速したわけじゃないですか。それを踏まえて今年は「去年のようなことはないように」としていたら、今度は7月に(ガクンと)来たわけですよ。

吉田 技術・体力の部分なのか、それともメンタルなのか。

佐々岡 体力もあると思うんですけど、僕らの時代はすごく練習をしていて、「これだけやればシーズン持つぞ」という自信を持ってシーズン入りをしていました。なので、今の選手は走り込みや投げ込みが少ないというか、そういう練習方法じゃないというのもあるけど......(足りないのかな)。それが本当に理由なのかはわからないんですけど。

 あとは広島の暑さですかね。試合前の練習がなかなかできないので、短い練習がさらに短くなっていたり、室内でウェイトトレーニングをやることが増えたとか、いろんな要因が重なっていると思います。

【投手陣も大きな問題はない】

吉田 投手陣は2桁勝利がひとりもいませんでした。

佐々岡 森下投手もしっかりとゲームは作っていて、ちょっと噛み合えば、勝ちと負けがひっくり返る試合もありました。そうすると、ピッチャーのメンタル的には、相手を1点、2点に抑えても勝てないとなると、だいぶやられたと思います。 広島にはホームランバッターがいなかったので、あと1本が出なかった。打率的には、6球団のなかで3番目ぐらいだったので、得点力が足りなかったということです。

吉田 そんな状況でも、床田寛樹投手は頑張ったほうではないですか?

佐々岡 いやいや、もっといけましたよ。9勝でしたけど、床田の技術だったら15勝あたりまでいかないといけない。その体力がなかったと思います。

吉田 中継ぎと抑えに関してはどうですか?

佐々岡 栗林良吏投手が今年は球速が落ちたとか、空振りが取れなくなった、変化球のキレがないとか、いろいろ言われながらも1年(頑張っていたと思う)。 あとは、島内颯太郎投手とか森浦大輔投手の中継ぎ陣は、他の球団と比べても悪いと思いません。

吉田 広島カープは投手王国というイメージがあるんですが、この数年、投手の育成についてはどう見ていますか?

佐々岡 先発は、大瀬良大地投手、床田、森下がいて、若い森翔平投手、玉村昇悟投手など数はいますし、まだまだ若い選手が育っているので先発はそこまで困っていないと思います。 中継ぎ陣も栗林がいて、島内、森浦、ハーンなど充実しているので、なぜこの投手陣で負けるのかなと思いました。

吉田 栗林投手が来年は先発に回ると言われていますよね。

佐々岡 そうですね。栗林を取った時も社会人のトヨタ自動車で先発をしていましたし、大学の時には抑えの経験もある。球種も豊富ですし、先発にして時間をあげれば、変わるんじゃないかなと思います。

【選手の育成と指導方法】

吉田 この投手陣でなぜ優勝できないんだとなると、バッターですか? でも、野手もかなり育っていますよね。

西山秀二(以下、西山) 中村奨成選手はようやくですね。

佐々岡 8年目です。

西山 彼は野球への(オン・オフの)切り替えがなかなかできなかったんです。1度その切り替えができたら失敗しない。

吉田 あとは、小園海斗選手が躍動していますね。

佐々岡 いろいろありましたけどね。僕が監督の時に、二軍に落としたこともありました。

吉田 それはどうして?

佐々岡 守っていても、覇気がないような顔をしていたんですよ。

西山 そういう厳しさを経験したのが、よかったんじゃないですか。ドラフト1位でプロに入ってきて、1年目はそこそこやって、2年目は全然上がらなかったでしょ。体が全然できてなかったですもん。ほかのチームから見ていても、「これはあかんな」と思っていました。 2年目、3年目はやっぱりダメで、二軍に落とされたでしょ。その年は全然ダメだったけど、翌年には体つきが変わっていました。「プロらしい体になったな。ここからよくなるんちゃう?」って思っていたら、一気によくなりました。

吉田 (二軍に落とされたタイミングで)気持ちを切り替えられずに、やめていく選手もいますよね。

西山 昔はプロに入って1年目に活躍すると、その伸び出した天狗の鼻をきっちりと一度折られていたんです。そうしたなかで、2、3年やって初めて認めてもらえていました。今は、その鼻をへし折ったら問題になるんですよ。パワハラとかになりかねない。だから、「いいぞ!いいぞ!」って持ち上げなきゃいけないんですけど、そうすると1年目で勘違いしちゃうんです。

吉田 どっちのほうが選手にとってはいいんですかね? 西山 いい意味でミックスされればいいんですけどね......。ただ暴力は絶対にダメです。だけど正直、現場に2、3年前に戻った時にニックネームで選手を呼んだだけで、「それ、まずいですよ」と言われて、窮屈な時代やなって思いました。今の指導者って難しいんじゃないですかね。

吉田 コーチになる人が少なくなってきているっていう話は聞きます。

西山 球団からしたら昔みたいに、ある程度一軍で実績を残した人、経験をした人がコーチにならなくてもいいと思っているところはありますよね。

吉田 そういうなかでも、あえて二軍に落とすという痛い経験をさせたことで今の小園選手がいるということですよね。

西山 それはあると思いますよ。ピッチャーもそうじゃないですか。今年がんばった選手は、緒方孝市監督と佐々岡監督の遺産。新井監督は3年やっているんですから、そろそろ自分の選手を出さないといけないですよ。

【新井監督は優しすぎる】

吉田 新井監督は甘いと思いますか?

西山 甘いというか優しすぎます。「僕は(選手は)家族で信じています」って言うけど、やっぱり2回、3回失敗したら配置転換とかを考えないといけない。この人をここに置けば勝てるって、それを見極めるのが監督の仕事ですから。

 例えば「抑えを出したから俺の役目は終わった。これで負けたらしょうがない」って、それは監督じゃないと思うんですよ。抑えを出したけど、「今日の彼のこの球、状態じゃ無理だ」となったら、じゃあどうしようか考えて、「選手を変えてでも俺は勝ちたいんだ」という姿勢を見せてほしい。変えたピッチャーとは試合後に話をしっかりすればいい。「俺は勝ちにこだわるから、お前がベストの状態に投げてくれるなら、俺は絶対変えない。だから今後また頼む」と、言えばいいんですよ。

吉田 信頼と甘やかしは違うってことですよね。

西山 違う。確かに新井監督の信頼が伝わって、就任1年目は選手みんながいいように動いたからチームも2位になりました。だけど選手は1年で慣れちゃうんです。新井監督の優しさはみんなに伝わっているから、今度はちょっと厳しさと勝ちにこだわる姿勢を見せないかんと思います。

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【Profile】

佐々岡真司(ささおか・しんじ)/1967年8月26日、島根県出身。89年ドラフト1位で広島に指名され入団。プロ1年目から2ケタ勝利と2ケタセーブを挙げるなど活躍し、03年には史上6人目の通算100勝100セーブを記録。現役引退後は15年から広島のコーチ、20年から22年まで監督を務めた。現在は野球解説者、評論家として活動している。

西山秀二(にしやま・しゅうじ)/1967年7月7日、大阪府出身。プロ2年目の87年シーズン途中、トレードで広島に移籍。広島では94年、96年にベストナイン、ゴールデングラブ賞をそれぞれ獲得。リーグを代表する捕手として活躍。引退後は巨人、中日のコーチを歴任。現在は評論家として活躍している。