この秋、話題を呼んだテレビドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS系)に登場する「ロイヤル」の競走馬たちは、北海道・日…
この秋、話題を呼んだテレビドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS系)に登場する「ロイヤル」の競走馬たちは、北海道・日高地方の牧場で生まれた。太平洋に面した北海道の南部、浦河町、日高町、新ひだか町、新冠町、様似町などを指す。
明治時代から馬の生産・育成が盛んだった。戦後に発展した日本競馬界に多くの一流サラブレッドを送り出した歴史がある。
史上初の無敗の3冠馬で「皇帝」の異名をとったシンボリルドルフ、その子で皐月賞、日本ダービーの2冠を達成したトウカイテイオー、昭和末期~平成初期の競馬ブームをつくりあげたオグリキャップなど、挙げればきりがない。
現在も国内産の競走馬の約8割が生まれる、一大生産地だ。しかし、中小規模の牧場がほとんどで経営体力が十分とは言えず、平成のバブル崩壊後には経営難に陥るケースが相次いだ。働き手不足や後継者問題が苦境に拍車をかけた。
代わって目覚ましい成績を出し始めたのが、北海道安平町にあるノーザンファームだった。
豊富な資金力で良質な種牡馬(しゅぼば)、繁殖牝馬(ひんば)をそろえ、大規模な自前のトレーニング施設での育成も充実。競り市に出された子馬は軒並み高額で売買され、次々とGI馬へと成長していった。
有馬記念では、ノーザンファームの生産馬が2018年から7連勝中だ。日高の馬が優勝したのは17年のキタサンブラックが最後。1強ぶりが鮮明な現状だからこそ、「日高の再興」を夢見る競馬ファンがいる。
今年は、日高生まれの一頭がファン投票4位の期待を背負って出走する。6月の宝塚記念を制したメイショウタバル(牡(おす)4歳、栗東・石橋守厩舎(きゅうしゃ))だ。その誕生の裏には、日高を支え続けた名物オーナーの存在がある。
「メイショウ」の冠名で親しまれ、日本馬主協会連合会の名誉会長を務めた松本好雄さん。1974年に馬主資格を取得し、メイショウサムソンやメイショウマンボなど数々の名馬を所有した。
座右の銘は「人がいて 馬がいて そしてまた人がいる」。血統の優れた高額馬を購入するわけではなく、マイナーな種牡馬の子でも、つながりのできた日高の生産者を信頼して馬を選んだ。たとえ、売れ残った不人気な馬であっても、こつこつと買い続けた。そして、所有した牝馬が引退すると、繁殖のために牧場に預けた。
メイショウタバルの母・メイショウツバクロは、石橋調教師が騎手として最後に勝利を挙げた騎乗馬だった。厩舎開業以来、なかなかGI勝利に手が届かなかった石橋調教師に、子のタバルが初タイトルをもたらした。人の「縁」を大切にする松本さんらしいエピソードだ。
8月、松本さんは個人馬主として史上初めて、中央競馬2千勝の快挙を達成した。その直後、がんのため亡くなった。87歳だった。
生前、好きなレースに有馬記念を挙げていたという。馬主としては2着が最高で、勝つことはできなかった。
「有馬記念のパドックで一緒にいられたらな、という思いがある。オーナーの願いを感じて、良い状態で出すことだけを考えている」と石橋調教師。遺志を継ぎ、タバルとともに年の瀬の大一番に挑む。(松本龍三郎)