<4団体統一スーパーバンタム級タイトルマッチ>◇27日◇ムハマド・アブド・アリーナプロボクシング4団体統一スーパーバンタ…
<4団体統一スーパーバンタム級タイトルマッチ>◇27日◇ムハマド・アブド・アリーナ
プロボクシング4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(32=大橋)が27日、サウジアラビアでWBC世界同級2位アラン・ピカソ(25=メキシコ)に判定勝ちを収めて、世界戦27連勝の世界記録を樹立。WBA、WBC、WBO世界同級1位の中谷潤人(27=M・T)も同級転向初戦で、WBC同級10位のセバスチャン・エルナンデス(25=メキシコ)との打撃戦を3-0の判定で制した。来年の対戦もうわさされる2人の試合を、日刊スポーツ評論家で元WBC世界スーパフライ級王者の川島郭志氏に分析してもらった。
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井上は試合内容に不満そうだった。力の差を見せつけた上でぶっ倒したかったのだろう。完全ガードで守りに徹したピカソの頑張りで、彼の想定通りにはいかなかった。相手が長身で下から突き上げるアッパーもなかなか届かず、珍しく空振りも多かった。
それでも12回を通じて、多彩なテクニックは十分に堪能させてもらった。ストレートのように強い左ジャブを上下に打ち分け、スキをつくって右を打ち抜く。ワンツー、アッパーのダブル、ボディーからアッパーと連打もスピード十分。あれは体幹がしっかりしていないと打てない。日々の鍛錬はもちろん、幼少期にたたき込まれたものが体に染み付いているのだろう。
年間4試合はメンタルの強さの証しでもある。彼ほどの世界王者になれば試合以外でも常に周囲から注目される。そのプレッシャーは相当なものだ。私でも引退した時に全身の力が一気に抜けて、これだけ疲れていたのかと思ったほどだ。本人は分かっていないと思うが、井上にはもっと大きな重圧がかかっているはずだ。そのプレッシャーの中で日の丸を背負って戦い続ける。そのメンタルはすごいとしか言いようがない。
中谷は序盤から倒しにいって、相手が得意とする打ち合いに巻き込まれた。エルナンデスは無類のタフネスで、ふつうなら倒せるフックやアッパーをまともに食ってもびくともせず、手数も止まらなかった。まるでゾンビみたいで、あの辰吉と激闘を繰り広げたラバナレスを思い出した。
苦戦だったがスーパーバンタム級初戦で全勝の強豪と打ち合い、勝ち切ったことは成長の糧になるはずだ。井上がアフマダリエフを深追いせずに翻弄(ほんろう)したように、ボクシングの幅を広げるにはタフな相手にはジャブを使って展開を変えることも重要。その意味でも中谷にはいい経験になったと思う。
来年5月には東京ドームでビッグマッチが予定されている。井上と中谷が拳を交える可能性もあると聞く。中谷はフック、アッパーが強くて怖い選手だが、現時点では超一流の対戦相手を撃破してきた井上が総合力で上回っているのではないか。私としては井上にはフェザー級にもチャレンジしてほしい。十分にいける。その前にまずは休養して疲れをいやし、英気を養ってほしい。