青学大の絶対的なエースとして存在感を発揮する黒田朝日 photo by SportsPressJP/AFLO前編:青山学…

青学大の絶対的なエースとして存在感を発揮する黒田朝日 photo by SportsPressJP/AFLO
前編:青山学院大、9度目の総合優勝へのシナリオ
過去11大会で8度の箱根駅伝総合優勝を果たしてきた青山学院大学。前回の優勝メンバー6名が卒業した今季は出雲駅伝、全日本大学駅伝で勝利をつかむことはできなかったが、学生界屈指の強さを誇る黒田朝日を中心に、今季も高い総合力を誇ることは間違いない。
一方で不安要素は例年以上にある。他校との差を広げてきた山区間、駅伝における経験不足......これまでもそうしたマイナス要素を走りで覆して結果を残してきたが、果たして今回はいかに?
【ここまで無冠も泰然自若の姿勢は変わらず】
出雲駅伝、7位。
全日本大学駅伝、3位。
ふつうなら、慌てそうなものである。
しかし、青山学院大にとって箱根駅伝に向けての不安材料にはならない。むしろ、箱根に向けての安心材料が勝る。
全日本のあと、原晋監督に「残り2カ月でやるべきことは?」と質問をすると、涼しい顔で、こんな答えが返ってきた。
「これまで培ってきた、青学メソッドを粛々と進めるだけ。それ以上でも、それ以下でもないです」
青学大の年間計画において、あくまで箱根駅伝がターゲット。10月の出雲、11月の全日本はその過程にある大会。やるべきことは見えている。だからこそ、それほど慌てる必要はないという構えだ。
泰然自若。それが青山学院大の姿だ。
青学大の最大の安心材料は、2区にキャプテンの黒田朝日(4年、岡山・玉野光南)が控えていること。前々回は2区で区間賞を獲得し(タイムは1時間06分07秒)、総合順位を9位から2位へと引き上げ、前回は区間新に相当するタイムで(区間3位)、10位から3位へと反攻のきっかけを作った。
つまり、1区がどんな展開で来たとしても、黒田が必ず上位に引き上げてくれるので、前後の選手たちが安心して走ることができるのだ。
前回の黒田のタイムは、1時間05分44秒。今回は区間新記録の更新(東京国際大のリチャード・エティーリが持つ1時間05分31秒)、そして1時間4分台への突入にも期待がかかるが、黒田自身は飄々としたものだ。
「(11月の)MARCH対抗戦の10000mで自己ベストもマークしましたし、自分の走力は上がっているので、チャンスはあるかと思います。タイムが出るかどうかは、どちらかといえば気象条件とか、コンディションによると思います」
黒田は間違いなく3区の選手に、上位でたすきを渡すだろう。
【エース黒田の後を受ける3・4区が大きなカギ】
さて、問題はそれをつないでいく選手たちが、実力をしっかり発揮できるかどうかだ。
青学大の不安材料、それはメンバーの経験不足だ。
前回の箱根駅伝の優勝メンバーから6人が抜けたことが、出雲と全日本では如実に表れ、綻びが見えた。
出雲では2区で折田壮太(兵庫・須磨学園)、3区で飯田翔大(鹿児島・出水中央)という期待の2年生が、それぞれ区間10位となり、早々に優勝戦線から脱落してしまった。
そして全日本では2区・荒巻朋熙(福岡・大牟田)、3区・宇田川瞬矢(埼玉・東農大三)、4区・塩出翔太(広島・世羅)、5区・佐藤有一(東京・拓大一)と安定感のある4年生を並べたはずだったが、ライバルとなる中央大、國學院大、駒澤大の後塵を拝し、4年生がインパクトのある走りを見せられなかった。
黒田の安定感は別格のプラスアルファの要素だが、この2本の駅伝を見た限り、前回、前々回と比べると全体的な安定感には欠ける。また、3年生は今季の出雲、全日本、そしてこれまで箱根を走った経験を持つ選手がいないこともあり、上級生として安定感をもたらすことができないでいる。
この不安を払拭するためには、やはり距離が延びる箱根で、全日本で振るわなかった4年生が上級生らしい走りを見せること、そして折田、飯田が往路の主要区間で「駅伝力」を見せることが必要になってくる。
青学大にとって、カギとなるのは黒田からたすきを受ける3区と4区のランナーだ。おそらく、将来の青学を背負う折田、飯田がこれらの主要区間を担うと予想されるが、果たしてどのような走りを見せてくれるのか。
折田はMARCH対抗戦の10000mで27分43秒92の自己ベストをマークして調子は上向き(折田は1区の可能性もある)、飯田は全日本の6区で区間賞を獲得して、強さを見せている。ふたりが実力を発揮すれば、総合優勝の可能性は高まる。
【山の特殊区間は1年生の秘密兵器!?】
そしてもうひとつ、今年の青学大は5区、6区でどれだけの結果を残せるのか、という疑問は依然として残っている。
やっぱり、前回までは強かった。4年間で3度、山を上った若林宏樹(区間記録保持者)、そして下りで快走した野村昭夢(現・住友電工)のふたりが抜けた穴は大きい。若林は1時間09分11秒で上り、野村は超速の56分47秒で下っている。この両区間は、経験がモノをいう。一度走れば最短の"経済コース"を取ることができるし、メンタル的な備えも可能だ。
原監督は、「山には1年生の秘密兵器を用意してます」と話しており、5区の候補として松田祐真(大牟田)、上野山拳士朗(和歌山北)といった新人の名前が耳に入ってくるが、果たして誰が起用されるだろうか。
また、6区については4年生の佐藤有一が夏場から意欲を示しており、「野村さんの記録をターゲットにしていきたいです」と抱負を語ってくれた。佐藤は全日本の5区でも区間4位でまとめており、安定した力を発揮することだろう。
ただし、前回の若林・野村の両輪は強力すぎた。前回と比べ、5区、6区の2区間で少なくともプラス2分半は見積もっておかなければならないのではないか。
ライバルとなる駒大、中大、國學院大、そして山上りに前回区間2位だった工藤慎作(3年)を擁する早稲田大が、青学大に対して特殊区間でどのような仕掛けをしていくのか、優勝に向けて最大のヤマ場となるだろう。
青学大が山で守勢にならず、主導権を握れるようであれば、総合優勝の確率は高まる。