「現状は、勝てない」――。松山英樹はそう言った。スコッティ・シェフラーを打ち負かすことができるのか?「自分が“マックス…
「現状は、勝てない」――。松山英樹はそう言った。スコッティ・シェフラーを打ち負かすことができるのか?「自分が“マックスの状態”で戦って、相手が60%、70%で勝てるだろうか、というところ」。目下の世界ナンバーワンゴルファーはそれほど強大な存在だ。
開幕戦「ザ・セントリー」で優勝した2025年シーズン。「目標のハードルが上がった」視線の先にはもちろんシェフラーの存在があった。ことしの「全米プロ」「全英オープン」を含むメジャー通算4勝。29歳にしてPGAツアー19勝をあげ、23年5月から守り続けている世界ランキング1位の座は揺らぐ気配すらない。
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衝撃の一打の記憶
松山のゴルフに関する記憶力は恐ろしく高い。シェフラーとの同組ラウンドで見た、忘れられない一打を詳細に説明できる。「去年(24年)の“フェニックス”。8番ホールのセカンドショット」に衝撃を受けたという。
毎年2月にアリゾナ州のTPCスコッツデールで行われる「WMフェニックスオープン」は松山が2016年から、シェフラーが22年からそれぞれ2連覇を達成した。予選ラウンドをともにした24年大会の2日目、後半8番は緩やかな左ドッグのパー4。ティショットをともにフェアウェイに置いた後の状況を松山が回想する。
「ほぼ同じところにボールがあったんです。彼が残り193ydで、僕が192ydだったかな。つま先上がり、左足上がりのライで風はアゲンストか…右からだった。スコッティはそれを6番アイアンのカットボール(フェードボール)で“吹かせて”、ピンそば3mに寄せてきた。左に飛ぶ要素しかない状況で、あれだけカットをコントロールできて、(グリーンの)傾斜も利用してスピンをかけて…あのライ、あの弾道で190yd近い距離をピンそばにつけられるとは」
松山は同じ状況から7番アイアンで低いドローを打ち、2mのチャンスを作った。「自分の方が内側につけたけれど…。『スゴイ。あのショットを打たれたら、ちょっと厳しいな…。それをやられたら、どこでもピンに寄せられる能力がある。ムリだと感じるシチュエーションがないよな』と思った」
その姿は今や、少年時代から憧れ続けるタイガー・ウッズにも重なるという。「僕は全盛期のタイガーとは一緒にプレーしていないけれど、(シェフラーは)見方が一緒になっているかもしれない。球の飛び方、“種類”はタイガーと同じだなと。ロリー(マキロイ/北アイルランド)は昔の方が“そっち寄り”。いまはティショットでドッカンと行って、誰よりも短い番手でピンそばにベタっとつける感じ。まあ、シェフラーもめちゃくちゃ(1Wショットが)飛ぶんですけどね。あえてその飛距離を落として、コントロールして、アイアンの精度で勝負する。すべてがコントロール重視なので、やっぱり頭ひとつ抜けている感じはします」
「アプローチ、パターもうまい。特にアプローチ(チッピング)は何回チップインをするんだというくらい多かった。そういうショートゲームの強さもあって、全体的にレベルが超、高い次元にいる。自分が絶好調じゃないと勝てないのかな…と感じる」。スコアへの貢献度を示すストロークゲインドでは、シェフラーはティショットが全体2位(+0.748)、グリーンを狙うショットが1位(+1.291)、パッティングが22位(+0.382)。パーオンを逃した時のセーブ率であるスクランブリングも3位(68.69%)とスキがない。
シェフラーに勝ったマッチ
水をあけられている松山がシェフラーを倒すにあたって、「バロメーターになる」というゲームがある。2024年9月の対抗戦「ザ・プレジデンツカップ」。敗色濃厚だった世界選抜の一員として、最終日のシングルス戦で米国選抜のエースを1アップで退けた。
「チームの勝利は厳しい状況で、自分もそれまでのマッチでうまくプレーできなかった。『どうせ砕けるなら、あれだけ勝っている世界一と当たって砕けたい』と思って、気合を入れて行ったら勝てちゃったっていう感じで」
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前日3日目のダブルスマッチで別の選手を相手に2連敗。シェフラー撃破は意地だった。持ち前のアイアンショットでピンを攻め続け、1アップで迎えた最終18番で1mのパーパットを震える手で沈めた。
「まあ、彼が絶好調ではなかったんですけどね。でも、常にこういうプレーができたら勝てるチャンスもあるんだなというのは分かった。もう1年以上経ちますけど、あの時のようなプレーがしばらくできていなかった。ただ、その回数がこの秋口にちょっとずつ増えてきているので、良くなってきているのかなとは思う」。2025年の自身最終戦となった「ヒーローワールドチャレンジ」でシェフラーの3連覇を阻止したのは、松山だった。
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快進撃を加速させた「スパイダー」 松山はどうする
シェフラーは2019年に米下部ツアーで年間最優秀選手に輝き、翌20年はPGAツアーの新人賞を手にした。22年「WMフェニックスオープン」で初優勝、同年「マスターズ」でメジャー初制覇を遂げた。24年の勢いはすさまじく、「パリ五輪」の金メダルを含めて“年間9勝”をマーク。その強さを支えたひとつが、パターのスイッチだったという見方がある。
ショットメーカーで知られたシェフラーはかつて、スコッティキャメロン製のピン型(ブレード型)モデルを使用。テーラーメイドのマレット型「スパイダー」に替えた直後の24年「アーノルド・パーマー招待」で優勝し、当時唯一の弱点と言われたグリーン上のプレーを充実させた。マレット型の愛用者はPGAツアーでも非常に多く、今季46大会を制した47人(ペア戦含む)のうち35人が使用。しかし松山には今のところ、エースモデルをピン型から変更する考えはないという。
「僕がそれ(マレット型)で勝てるように見えないからです。シェフラーと同じスパイダーを使ったとしても勝てることが想像できない。練習ではマレットやセンターシャフトモデルも試しますけど、それで勝つイメージができないんです」
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松山は2017年の「WGCブリヂストン招待」でテーラーメイド製のマレットモデルで優勝した経験があるが、やはり勝負どころではスコッティキャメロンのピンタイプをバッグに入れる。そこにはパターも“14本のうちの1本”という信念がある。
「パターを替えることで、他のショットやアプローチに影響が出るかもしれないという問題もある。すべての技術がシェフラーみたいにしっかりしていればいいんですけど、自分はまだそこまでではない。トータルバランスで考えた時に、例えばスパイダーを握ったことで自分のゴルフ全体が壊れるリスクもある。ツアーではドライバー1本を替えただけで、壊れてしまう選手もいますよね」
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裏を返せば、その問題がクリアされれば、新しいスタイルが生まれるかもしれない。「勝てるイメージができたら、マレットも使うと思います。勝つ想像ができるパターが現れれば。もう(来年2月に)34歳になる。もっと勝たないといけないから、そういう選択肢も出てくる」
メジャー2勝目をはじめ、まだ達成したい目標がある。PGAツアー13年目の2026年は“打倒シェフラー”もひとつの見どころだ。「ティショットとグリーン上での精度を上げないといけない。そこが上がれば、可能性は広がる。まずはドライバーショットを“枠内”に収められるようにならないと」。開幕戦「ソニーオープンinハワイ」(1月15日~/ワイアラエCC)までは3週間を切った。(編集部・桂川洋一)