第70回有馬記念・G1は12月28日、中山競馬場の芝2500メートルで行われる。早見和真氏原作の大ヒットドラマ「ザ・ロ…
第70回有馬記念・G1は12月28日、中山競馬場の芝2500メートルで行われる。早見和真氏原作の大ヒットドラマ「ザ・ロイヤルファミリー」で注目を集めた北海道・日高地区出身の馬。昔ながらの伝統ある牧場出身で、有馬記念を制した名馬を5回にわたって取り上げる。最終回は17年に制したキタサンブラック(武豊騎手が騎乗)。
強い気持ちが表れた。「悔いの残る競馬はしたくない」。4コーナー過ぎ。武豊は逃げ切りを狙うキタサンブラックの手綱を押した。勝負どころの直線。外からシュヴァルグラン、スワーヴリチャードが迫ってきた。「頑張ってくれ」。祈りを込めた右ステッキを連打すると、後続を突き放していった。
クリスマスイブに詰めかけた10万720人の大歓声がひと際大きくなった瞬間、2着のクイーンズリングに1馬身半差をつけてゴールへ飛び込んだ。人馬一体の独壇場となったラストラン。キタサンブラックの競馬を最後まで貫き通した。「最高にうれしいです」。武豊が高々と右手を上げると、地響きに似た「ユタカコール」が巻き起こった。
絶対に負けられない―。歌手・北島三郎オーナーの所有馬で常に注目を集めてきた現役最強馬。「この馬は国民の馬」と称した武豊は大きな重圧と闘ってきた。ファンファーレが鳴った瞬間、名手の顔が引き締まった。「一番、ゲートが緊張しました。楽観するところは一つもありませんでした。丁寧に1メートル、1メートルをクリアしていくという感じだった」。この日の騎乗馬はキタサンブラックの一頭のみ。「一鞍入魂」で挑んだ27度目の有馬記念で、90年オグリキャップ、06年ディープインパクトに続く「引退レースV」を飾った。
これでG1・7勝目。獲得賞金は18億7684万3000円となり、テイエムオペラオーを抜き、当時の歴代トップに踊り出た。「今まで勝ったG1が全部すごいG1。こんな馬出ない。騎手冥利に尽きます」。16年大阪杯からコンビを組んだ12戦でG1・6勝。キタサンブラックを歴史的名馬まで押し上げたのは武豊だった。
レース後のお別れセレモニーでは競馬場で北島三郎オーナーが、1年間封印していた「まつり」を熱唱。「これが有馬の まつり~だ~よ~!」。サブちゃんが涙ながらに絶唱し、愛馬の“有終7冠”に花を添えた。ゴールの瞬間、サブちゃんはイスに座りながら数秒間、放心状態に。「3コーナーあたりから涙がポロポロでした。一生のうちにこんな感動する日が81歳になって(来るとは)と、感じました」。馬場へ下りると、ブラックの鼻を左手で4度なでて、最後の激走をたたえた。
北島オーナーが12年に北海道・日高町のヤナガワ牧場で初対面した時の印象は決してよくなかった。「やたら脚が長い馬だ」。だが、牧場から空港に向かう車中で直感が働いた。「愛らしくていい目をしてる」とすぐに牧場に連絡。所有することを決めた。「筋肉もついて、顔も二枚目。石原裕次郎さんみたい」。大きなけがもなく、誰もが知る名馬に大成した。
生産したヤナガワ牧場の梁川正晋代表はしみじみと最後の勝利を味わった。「終わった瞬間は、安堵(あんど)感と同時に、何とも言えない寂しい気持ちになりました。こんなにすごい馬は、一生に一度もお目にかかれない。生産できて幸せです。牧場時代は手がかからなくて、悪いところを見せなかった。それが一番の印象ですね」と、当時の取材に感慨深げに振り返っていた。
引退後は北海道の社台スタリオンステーションで種牡馬になり、イクイノックス、クロワデュノールなど最強クラスの強さを誇る産駒を送り出し続けている。