どこからともなく差し出されたイスにドカッと腰を下ろす。ホールアウト後のインタビューで、ジャンボさんの嘆き節をきょうは聞…
どこからともなく差し出されたイスにドカッと腰を下ろす。ホールアウト後のインタビューで、ジャンボさんの嘆き節をきょうは聞けた。質問を黙殺されても、決して意図した答えが返ってこなくても、そんな日はラッキーだった。
生涯現役を誓ったキャリアの晩年、尾崎将司氏は腰痛などから試合を途中棄権することがほとんどで、報道陣が肉声を聞けたのはクラブハウスから迎えの車に乗り込むまでのわずかな“ぶら下がり”のあいだだけ。小僧記者の私は、ジャンボさんと馴染みの先輩が聞く、おこぼれをついばむばかりだったが、大きな背中はいつも年齢を言い訳にするでもなく、決まって悔しそうに見えた。
やはり棄権となった2019年の「ダンロップフェニックス」が、ジャンボさんの最後の出場試合。50歳以上の選手で戦うシニアツアー参戦を拒み、レギュラーツアーに没頭する様子を揶揄されることもあった。ただ、その姿があったからこそ、2度のエージシュート(66歳だった2013年つるやオープン第1ラウンドで「62」、70歳だった17年「ホンマ・ツアーワールド・カップ第2ラウンドで「70」)という快挙は成し遂げられた。
「自分自身、ゴルフしかないから。ゴルフを追求していくのは自分にしかできない。クラブを置くのは簡単だけど…。なんかの目的に向かって歩いていくことをしないと」。ゴルフが生涯スポーツであることを、第一線で、体を張って人々に見せ続けてきた。「イヤだよな、健康のために…とかそういうのは。そういうのはなんか自分のあれ(性分)に当てはまらないんだ」と、あくまで競技にこだわって。
そのレジェンドを表舞台から急速にフェードアウトさせたのが2020年の新型コロナ禍だった。千葉の邸宅にこもりがちになり、パタリと公の場に姿を見せなくなった。代わりに存在感を示したのが、女子プロを中心とした弟子たちである。女子メジャーを制した笹生優花、西郷真央、今季の日本女子ツアーで年間女王に輝いた佐久間朱莉らはみな、自宅のそばにあるゴルフ練習場を拠点とするアカデミーから巣立った選手たちだ。
多くの報道陣の前に最後に姿を見せたのは昨年1月、アカデミーの選手選考会。ジャンボさんは練習場に設けられたベンチにドカッと腰を下ろし、中高生が打つボールに目を凝らしていた。時代の変化を感じており、「怒鳴り散らかすんだ」という普段の指導法を「(今なら)すぐ訴えられそう」と優しい目をして笑っていた。
仮に本当に“怒鳴り散らかしていた”とすれば、次世代を担う若者たちに心配なことがあったから。選考会で「球を打つことばかりが練習だと思っている」と苦言を呈し、ジュニアの行く末を案じていた。「今の子どもはやっぱりスコア(重視)だからな。結果、(良い)スコアが出ないと手を上げてしまう」。目先の楽しさ、快適さばかりに心を奪われてはいないか? コストとパフォーマンスを天秤にかけてばかりではいないか?「やる人間、続ける人間は、はっきりとした目的や目標がある。ただ、夢で終わる子が多い。目標は越えなければいけないものだと自分で考えないといけない」。トレーニングをはじめとする、地道な鍛錬を軽視する一部のゴルファーを頭に浮かべ、残念そうに語った。
闘病生活はおよそ1年前から続いた。アカデミーで汗を流した弟子たちがそれを知らないはずがない。タイトルを手にするたびに報告に出向いた佐久間を筆頭に、彼女たちが吉報をひとつでも師匠に届けようとしたのも想像に難くない。「粘れるように。基本を、ひとつのことを続けることが成長には必要」。生涯を通じて伝えたかった想いは、それを実践した孫世代の生徒たちが受け継いでいく。(編集部・桂川洋一)