南野拓実が負った「前十字靭帯断裂」。ニュースで聞いたことはあっても、具体的にどんな怪我なのか、どれくらい深刻なのか、わか…
南野拓実が負った「前十字靭帯断裂」。ニュースで聞いたことはあっても、具体的にどんな怪我なのか、どれくらい深刻なのか、わからない人も多いのではないだろうか。
サッカー選手にとって最も恐れられる怪我の一つとされるこの負傷について、膝の構造から治療法、復帰までのプロセスまで、初心者にもわかりやすく徹底解説。
- 膝関節の4つの靭帯 前十字靭帯の役割
膝関節は、太ももの骨である大腿骨と、すねの骨である脛骨をつなぐ関節である。これらの骨がズレないように安定させているのが、関節内部・周囲に存在する靭帯や半月板、筋肉である。
膝関節には主に4本の靭帯が存在する。
前十字靭帯(ACL:Anterior Cruciate Ligament)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、**外側側副靭帯(LCL)**の4つである。
このうち前十字靭帯は膝の中心部に位置し、脛骨が前方にずれるのを防ぐ役割を担っている。太さは約1cmほどと細いが、膝の前後方向および回旋方向の安定性に大きく関与しており、膝の安定性を保つ上で極めて重要な靭帯の一つである。
膝の中心で脛骨が前方に滑らないよう制動する「ブレーキ」のような存在と考えると、その役割が理解しやすい。
- 膝の安定性を保つ仕組み 断裂するとどうなる?
前十字靭帯は、急な方向転換やジャンプの着地といった動作で大きな負荷を受ける。断裂すると膝関節の安定性が低下し、「膝が抜ける」「ガクッとする」ような不安定感が生じることがある。
特に横方向への動きや切り返し動作で不安定になりやすく、サッカーのようにストップ&ゴーを繰り返す競技では致命的な影響を及ぼす。
また、前十字靭帯が断裂した状態で競技を続けると、半月板や関節軟骨を損傷するリスクが高まることが知られている。そのため競技レベルが高い選手ほど、早期に適切な治療方針を選択する必要がある。
- サッカー選手に多い理由 発生メカニズム
接触型と非接触型の2種類 多くは非接触型
前十字靭帯断裂は、大きく接触型と非接触型に分類される。
接触型は相手選手との衝突やタックルなど、外力によって生じるものである。一方、非接触型は自分自身の動作のみで発生する。医学研究や競技分析によると、全体の多く(約7割前後)が非接触型とされており、サッカー選手にとって避けがたいリスクである。
接触プレーがなくても起こり得る怪我であることを理解しておくことが重要である。
- 方向転換とジャンプ着地のリスク
ドリブル中の急なカット、相手をかわす瞬間の切り返し、ジャンプからの着地時に**膝が内側に入る動作(ニーイン)**など、サッカーには前十字靭帯に大きな負荷がかかる場面が数多く存在する。
膝がねじれた状態で体重が一気に乗ると、前十字靭帯に過度なストレスがかかり、断裂に至ることがある。断裂の瞬間に「ブチッ」という音を伴うケースも報告されている。
- 治療法と復帰までの道のり
手術が選択されるケース 靭帯再建術
前十字靭帯は血流が乏しく、自然に元通りの機能を回復することは難しいとされている。特にサッカーのように膝への負担が大きい競技で高いレベルへの復帰を目指す場合、靭帯再建術が選択されることが一般的である。
再建には主に、
・ハムストリング腱(太ももの裏)
・膝蓋腱(膝のお皿の下)
など、自身の腱が用いられる。関節鏡を用いた低侵襲手術が主流であり、手術時間はおよそ1〜2時間である。
- リハビリ期間はおよそ9〜12カ月
術後の回復は段階的に進められる。
術後〜1週:松葉杖歩行、腫れと痛みの管理
術後1カ月前後:装具なし歩行、日常生活復帰
術後3カ月:軽いジョギング開始
術後6カ月:ランニング、方向転換を含む練習
術後9〜12カ月:実戦復帰を視野に入れた調整
近年は単なる「期間」ではなく、筋力や機能テストをクリアすることが復帰の条件とされており、焦った早期復帰は再断裂のリスクを高めるとされている。
- 過去の事例 同じ怪我から復活した選手たち
宮市亮 度重なる断裂を乗り越えた復帰
横浜F・マリノスの宮市亮選手は、キャリアの中で複数回の前十字靭帯断裂を経験している。それでもリハビリを重ね、J1の舞台に復帰し、チームの成功に貢献している。その姿勢は多くのファンに勇気を与え続けている。
ファン・ダイク 世界最高峰DFの完全復活
リバプールのフィルジル・ファン・ダイク選手は、2020年に右膝前十字靭帯を断裂したが、約9カ月のリハビリを経て復帰した。その後も世界最高峰DFとして活躍を続け、2024年には主将としてEFLカップ優勝に貢献している。
適切な治療とリハビリによって、トップレベルへの復帰が可能であることを示す好例である。
- まとめ
前十字靭帯断裂は、サッカー選手にとって大きな試練となる怪我である。長期離脱やパフォーマンス低下の不安が伴うのも事実である。
しかし、医学の進歩と体系化されたリハビリによって、多くの選手が再びピッチに戻っている。重要なのは、正しい知識を持ち、焦らず回復を待つことである。
ファンにできるのは、長い目で選手の復帰を見守り、支え続けることである。その先に、再び輝く瞬間が訪れるはずである。