【3大会連続の五輪代表内定】「北京五輪のあとに『4年後を目指す』と言った時点で、そういえば日本の女子で3回目の五輪出場は…

【3大会連続の五輪代表内定】

「北京五輪のあとに『4年後を目指す』と言った時点で、そういえば日本の女子で3回目の五輪出場はいないなと思って。これは絶対に達成したいなと密かに思い、お姉ちゃんには『ひっそり目指すわ』と言っていたんです。そこから世界選手権で優勝できたり、いろんな経験を積んで自信もついたので、本当に3回目を叶えられるかもしれないと、ギアをゆるめずやってこられたと思います」

 こう話す坂本花織(シスメックス)が、五輪代表一発内定の条件である優勝を狙って臨んだ全日本選手権。12月21日のフリー最終滑走で圧巻の滑りを披露し、その目標を達成した。

「今まで何回も最終滑走をやってきた経験があと押ししてくれたと思います。今までやってきたことは無駄ではなかったとすごく感じたし、何度も経験するのは大事なことだと思いました」



全日本選手権5連覇を達成した坂本花織(右から2番目)と活躍を支える中野園子コーチ(右)ら

 大会初日12月19日のショートプログラム(SP)は、最初の3回転ルッツがエッジ不明瞭と判定されたが、ほかは高いGOE(出来ばえ点)を得る滑りで、非公認記録ながら今季最高得点となる79.43点を獲得する1位発進。しかし、0.1点差で17歳の島田麻央が追いかけ、同じく17歳の中井亜美も1.93点差につける安心できない状況だった。

「ショートは比較的リラックスできるくらいのいい緊張感で挑めた」と坂本は言うが、フリーは前に滑った島田が合計228.08点にしていて、優勝のためにはひとつのミスも許されない状況。SPとは段違いの緊張感に襲われ、「不安が90%で、すごくしんどかった」。

「演技前には中野園子先生に『花織がここでやらないと日本が大変なことになるから、しっかりやらないとダメなのよ』と言われました。それでちょっと泣いたら、『泣いている場合じゃないから』と喝を入れられ、『そうだ、やらなきゃ』という気持ちに切り替えました」

 そのフリーは、スピードに乗った大きな滑りで前半のジャンプはしっかりと決め、中盤のステップでは表情も柔らかくなっていた。

「最初の3本のジャンプが終わったあたりからは、感覚や体の動き、思考が本当に練習どおりだったので、『これはうまくいけるかも』と思いました。そこからは本当に雑念も何もなく、一つひとつに集中できました」

 後半の3回転フリップ+3回転トーループは、4分の1の回転不足と判定され、前半の3回転ルッツもエッジ不明瞭となったが、ほかは加点もしっかり稼ぎ、演技構成点でも3項目とも9.5点台の高評価で154.93点を獲得。合計得点は2年前の全日本以来の230点台に乗せる234.36点にして、危なげなく大会5連覇を果たした。

【個人・団体ともに銀メダル以上を狙う】

 3大会連続五輪出場を決められた要因について、坂本はこう話した。

「基本、自分に甘いので、なかなか自分だけではここまで来られなかった。やっぱり先生の力とかトレーナーさんのアドバイスなど、いろいろな人の支えがあったからこそここまで来られたと思います。自分ひとりだったらどんな成績であれ、『こんなもんか』と思ってしまうけど、携わってくれている人がたくさんいるから、『ここ一番は決めておかないと』という気持ちになれる。そのおかげで強い自分でいられたのかなと思います」

 優勝決定の瞬間の気持ちはこうも話す。

「初めてだった平昌五輪の時は、本当に選ばれるかわからない状態だったし、選ばれたら奇跡だなと思っていた全日本だったので、選ばれた時点で達成感がすごくありました。2回目の北京五輪は『一発内定を決める』と挑んだ全日本で、『よっしゃ、決まった』という達成感がすごくありました。でも、今回は全日本をやりきったという気持ちのほうが大きすぎて、一瞬、五輪シーズンだったことを忘れてしまうような。五輪が決まったというより、『これが最後なんだ』という気持ちが強すぎて、ちょっと寂しさが出てきてしまいました」

 現役最後のシーズン。「一つひとつの大会で悔いを残さないようにしたい」と話していた彼女だが、やはり全日本はそのなかでも特別であり、集中して臨んだ大会だったということだ。

 昨季世界選手権優勝を果たしたアリサ・リュウ(アメリカ)だけではなく、ロシア選手権3連覇のアデリア・ペトロシアンも中立国枠で出場してくるミラノ・コルティナ五輪。五輪に向けてはこう語った。

「私の戦い方が、今できる要素のクオリティを上げるところなので、そこをもっともっと。本当にクリーンな演技でGOEがたくさんもらえる演技ができるように、自分で自分に喝を入れて、先生からも喝を入れてもらって、『これで悔いはない』と思うくらいの練習を積めたらなと思っています。

 シーズン前から目標にしていた個人と団体で銀メダル以上というのは変わりません。個人は(北京五輪で)銅だったので銀以上がほしい。団体も最初3位だったのが繰り上がりで2位になったので、今回は正真正銘の銀以上がほしいです」

 坂本は、全日本選手権優勝でGPファイナル3位の悔しさも吹き飛ばし、スッキリとした気持ちで五輪へ向かえることだろう。