Jリーグ屈指の名門である鹿島アントラーズのユースチームが、3冠を達成した。偉業であることは間違いない。だが、サッカージ…

 Jリーグ屈指の名門である鹿島アントラーズのユースチームが、3冠を達成した。偉業であることは間違いない。だが、サッカージャーナリスト後藤健生の目には、まだ成長の余地があると映っている。

■足りないバリエーション

 つまり、攻撃面でもっと様々なバリエーションが必要であり、そこで変化を付けることのできる選手が必要になる。相手の守備のやり方を見て攻め方を変えたり、相手の守備陣にとって最も嫌なことをするアイディアを出せる選手だ。

 たとえば、長期離脱中の小笠原央がピッチに立っていたら、攻撃のバリエーションは間違いなく多くなるし、フィニッシュの段階で攻め方を変えるようなことができるはずだ。

 トップ下からゴリゴリと相手ペナルティーエリア深くまで入り込んでいく吉田湊海と、テクニックを使って攻撃に変化を付ける小笠原が並んでいたら、相手チームにとっては非常に対処が難しくなるはずだ。

 チーム全体としても攻撃のバリエーションを増やしていくことが必要だ。

「3冠」を達成した鹿島ユースだが、神戸戦のメンバー表を見ても17歳、16歳の選手が何人もいる。得点に絡んだ吉田と平島大悟も2008年生まれの17歳だし、DFの元砂晏翔仁ウデンバやGKの大下幸誠は2009年生まれの16歳。

 来年、目指すべきは、さらにバリエーションを増やし、攻め切って点を取り切ることのできるサッカーだろう。

■攻め続けずに1冠目

 鹿島は7月31日に行われた日本クラブユース選手権(U-18)決勝でベガルタ仙台を3対0で破って「1冠目」を手にした。

 この試合は、神戸戦よりもさらに一方的な試合で(シュート数で言うと鹿島の18本に対して仙台はわずかに2本)、鹿島は後半の53分(40分ハーフ)までに3点を取って完勝した。

 1点目は左から崩して吉田がシュートし、そのこぼれを福岡勇和が決めたゴール。2点目は高木瑛人のヘディング。そして、ダメ押しの3点目は中川天蒼のダイビングヘッドと、得点のバリエーションも豊かだった。

 得点差が3点に広がったので、さらに余裕を持ってさらに美しい攻撃を見せてくれるかと僕は期待した。

 だが、3点差となった後、鹿島は攻撃をスローダウンし、試合をコントロールしながら3対0のスコアのまま試合終了を待って優勝を決めた。

■クラブを縛りつけるもの

 試合後の記者会見で僕は中野洋司監督に質問してみたが、試合を落ち着かせたのはベンチからの指示だったというのだ。

 たしかに鹿島らしい、手堅い試合運びだとは思った。だが、これは育成段階のゲームなのだ。それでいいのだろうか?

 1点差の状況で残り時間が少なくなれば、当然、ゲームを落ち着かせて試合を終わらせるというのは当然だ。だが、それまでの試合内容を考えれば、「3点差」というのはセーフティーだったように思われる。

 それなら、さらに攻撃を続け、真剣勝負の舞台で様々な攻撃パターンを試してみる絶好の機会だったように思うのだ。

 選手たちが「常勝軍団」という言葉に縛られていた。それを、今シーズンから就任した鬼木達監督が解き放ったというような話を読んだことがある。

 だが、この三ツ沢でのクラブユース選手権決勝での采配を見ていて、僕は鹿島の指導陣も「勝たなければいけない」とか「鹿島らしい手堅い試合運び」といったコンセプトに縛られ過ぎているのではないかと思ったのである。

 改めて言うが、今シーズンの鹿島ユースは間違いなく強かった。そして、素晴らしい個性を持ったアタッカーを輩出していることに敬意を払いたい。

 だが、さらにもっと上を目指していくためには、「鹿島らしさ」からいったん離れてみる必要もあるのではないだろうか?

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