Jリーグは23日、FC町田ゼルビア黒田剛監督(55)の不適切発言について裁定委員会に諮り、「けん責(始末書を取り、将来を…
Jリーグは23日、FC町田ゼルビア黒田剛監督(55)の不適切発言について裁定委員会に諮り、「けん責(始末書を取り、将来を戒める)」の懲罰決定を発表した。都内で緊急のメディアブリーフィングを開き、監督資格を取り消すようなパワーハラスメント認定には至らなかったものの、Jリーグ側は「不適切な発言であり、暴言だというふうに認識している」と公表した。
黒田監督は2023年頃から所属する選手らの前で、自らの意向に沿わない選手がいれば「造反者」といった表現を用いて排除する意図を持った発言や、練習中に選手及びチームスタッフの前で特定のコーチに対して大声で怒鳴る行為、懇親会の場でスタッフに対する暴言などが確認されている。2月に日本サッカー協会(JFA)の暴力根絶相談窓口に持ち込まれた。4月には一部週刊誌でも報じられていた。
懲罰はJFA規則に沿ったもので併せて同クラブに対しても、同じく「けん責」の懲罰を与えた。その上で、同種事案の再発防止を期すために必要な措置の実施を依頼している。
Jリーグ側は、黒田監督らクラブ関係者11人に対し、合計12回のヒアリングを実施した。懲罰量定に際し参考とした事情は、次の通り5点。
1)黒田監督の本件違反行為に暴力など有形力の行使は含まれておらず、規律違反としての悪質性の程度が極めて高いものとはいえない。
2)黒田監督は、本件違反行為の存在を基本的に認めておらず、真摯(しんし)に反省しているとは言い難い状況に合った上、本件違反行為を含む調査対象となった助言に関し、多くのチーム関係者に真実を語る事を躊躇させるような発言を行った。
3)本件クラブは、本件違反行為を含む調査対象となった黒田監督の助言に関し、弁護士で構成される特別調査委員会により調査を行った。しかしながら、同委員会による当初の関係者のヒアリングに本件クラブの顧問弁護士を同席させ、黒田監督とヒアリング対象となるチーム関係者が通報内容に関してやり取りすることなどを規制しなかったことにより、本件クラブが黒田監督を守ろうとしているとの印象を関係者が持つに至っている。これらは調査対応の不備と言わざるを得ず、チーム関係者の多くに率直な供述を躊躇させる結果となり、真相解明に支障をきたした。
4)本件クラブは、メールによる相談窓口を設置していたが、相談に係わる事実確認は本件クラブの経営陣が行うこととされており、本件クラブの経営陣が関与する事象について相談できる相談体制を構築していなかった。
5)本件違反行為は強化部のメンバーやコーチなどがいるところでなされており、本件クラブには、早期に問題行為を把握して是正する機会があったのに、本件クラブ経営陣及び強化部から黒田監督に対して注意するなどのけん制機能が働かず、外部への通報が行われるまで問題行為が放置、継続された。
これらを踏まえ、過去の事例をもってメディアからは「この内容でパワハラ認定がされないのか?」との質問が相次いだ。優越的な関係を背景にした言動であり、必要な範囲を越えているのでは? と印象を踏まえた意見が多く出た。
Jリーグ・コンプライアンス弁護士を務める金山卓晴氏は「パワーハラスメントが認められるための条件として労働施策の法律で引用されるのは、優越的な地位であるとか、業務上必要かつ相当な範囲を超えているかどうか、労働者の就業環境が害されるということが要件になってくる。この3つの要件をすべて認められなければならない。掛け算みたいな関係で、一定の限度は超えなければいけないという認識しております。今回、特別調査委員会が認めた事実というのがあって、それに加えてJリーグの方でも調査をして認定した事実を基にすると、そこまでの限度を超えている認定は少し難しいという風に判断しました」と説明した。
また、青影宜典執行役員は「ハラスメントに認定されるかどうかといったような法的な側面はありますが、どういう場面、どのような理由があっても今回、黒田監督が行った行為というものは、他者に対しての人権や尊厳の観点からやっぱり不適切な言動であったり、暴言だというふうに認識しております。決してそれは許されるものではないと考えています。クラブに対してもけん責を科していますけど、行為を行った当事者だけではなくて、クラブ組織全体としてもしっかりこの事実は真摯に受けとめていただきたい。組織ガバナンスにも一定の課題はあるというふうに認識しておりますので、再発防止に取り組んでいただきたい」とクギを刺した。
そして、クラブに対応を任せるだけでなく、研修や事例の共有、加えて各クラブとの向き合いなど具体的な枠組みの構築を考えていきたいとした。
なお「けん責」は処分の中で一番下の懲罰に当たる。ただ、これまでパワハラ認定されなかったものには懲罰はなかったことを考慮すれば、それだけJリーグ側も事態を重く受けとめての判断のようだ。