夏のインターハイ制覇に大きく貢献した桜花学園2年生の竹内みや photo by Kato Yoshio後編:「ウインター…



夏のインターハイ制覇に大きく貢献した桜花学園2年生の竹内みや photo by Kato Yoshio

後編:「ウインターカップ2025女子」ここに注目!

チームをゼロから高校バスケ界の超名門に育て上げた井上眞一先生が逝去した後、新たな歴史を刻むべくスタートした桜花学園高(愛知)。今夏の全国高校総体(インターハイ)では決して下馬評が高くないなか、4年ぶり26回目の頂点に。12月23日から始まる第78回全国高等学校バスケットボール選手権大会(SoftBank ウインターカップ2025)では、夏以降の成長をコートで証明すべく、貪欲に頂点を狙う。

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【白コーチの投げかけに選手たちの表情は−−】

 桜花学園が4年ぶりにウインターカップ・女子の第1シードに入る。今年度が始まるまでに夏のインターハイで25回、国民スポーツ大会(以下、国スポ。旧・国民体育大会)で22回、そしてウインターカップで24回の全国制覇を成し遂げてきた同校だが、ここ3年は苦戦を強いられてきていた。特に「真の日本一を決める大会」とも言われるウインターカップでは、3年連続でメインコート(一面で行なわれる準決勝・決勝)に立てていない。

 むろんその3年のなかでインターハイは1度、国スポは2度、決勝戦まで勝ち上がっている。一般的に見れば「それで十分だろう」と思われるかもしれない。しかし髙田真希(デンソー)や渡嘉敷来夢(アイシン)、最近で言えば田中こころ(ENEOS)といった日本代表選手を多数輩出してきた同校からすれば、3年間もメインコートに立てていないことは由々しき事態なのである。

 さらに事態を深刻にさせたのは、同校を高校女子バスケット界きっての名門に築きあげた井上眞一氏が昨年末に逝去したことである。

「桜花学園は大丈夫なのか?」「これで桜花学園は落ちていくだろう」。そんな声も聞こえてきていた。

 それが今夏のインターハイでは26回目の優勝を果たした。その後の国スポでも愛知県代表として23回目の優勝。開設して4年目となる「U18日清食品トップリーグ」こそ3位に終わったが、それらの結果からウインターカップでは第1シードに収まることになったのである。

「久々に全国大会の第1シードで臨めるよ。これは本当に光栄なことだし、桜花学園として(あるべきところに)帰ってきたなという感じだね。でも、それはみんながインターハイや国スポなどで頑張ったからだよ」

 恩師の後を継ぎ、桜花学園の指揮を執ることになった白慶花(ペク・キョンファ)コーチは、ウインターカップの組み合わせが決まったとき、選手たちにそう告げた。同時に釘を刺すことも忘れなかった。その瞬間の選手たちの表情が忘れられない、と白コーチは言う。

「『第1シードには魔物が憑りつくというか、第1シードほど気を引き締めないといけないよ。夏のインターハイのときも第1シードだったチームが男子も女子も準々決勝で負けているよね?』という話をしたときの選手たちのギラつきが忘れられないんです。その瞬間に彼女たちのキュッとした表情を見たとき、強くなったなって思いました」

 インターハイでの優勝は、むろん力があればこそだが、一方でどこか勢いに乗ったことも勝因だったと認める。その1カ月前に行なわれた東海ブロック大会では、準決勝を3点差で逃げきり、決勝戦は残り2秒からのスローインプレーで3ポイントシュートによるブザービーター。逆転優勝の勢いをインターハイにまで持ち込んだというわけである。

 しかし、その効力はすでに夏で切れている。国スポやU18日清食品トップリーグ、もちろんウインターカップの愛知県予選を含めて、チームをさらにステップアップさせる必要があった。そこで「インターハイで優勝したから」、あるいは「ウインターカップでは第1シードだから」と浮かれているようなら、白コーチもあるいは「今年のチームはここまでか」と思ったに違いない。だが、そうはならなかった。選手たちが自らを律し、鼓舞できる力こそ、桜花学園が高校女子バスケットボール界の「女王」と呼ばれる所以であり、今年のメンバーが取り戻した「桜花学園のメンタリティ」なのである。

【成長を止めなかった桜は冬に咲くか】



ウインターカップ制覇のカギを握る桜花学園のセンター、ディバイン photo by Kato Yoshio

「女王」がその「メンタリティ」を取り戻したとしても、それだけでつかめるほど日本一は容易ではない。特に近年は高校女子バスケット界にも高さのある留学生が増えてきている。どれだけ優れたコーチであっても、「身長」は伸ばせない。褒めても、叱っても、これだけはどうしようもできないのである。身長の低いチームは相手の高さに苦しめられてしまう。

 今年の桜花学園は、むろん全国大会の上位を争うチームと比較すればという意味だが、まさにその「身長の低い」チームである。本稿執筆時点でウインターカップのロスター(登録メンバー)は不明だが、今年度の「U18日清食品トップリーグ」の選手リストを見ると、180センチを超える選手はふたりしかいない。そのうちひとりはインターハイのロスターだが、ベンチスタートの控えメンバー。スタメンを予想される選手で最も大きいのは177センチである。180センチを優に超し、多くが190センチ前後の留学生を前にすると、身長的に見劣りすることは否めない。

 特に高さの不利を最も感じるのはリバウンド――漫画『SLAMDUNK』で「リバウンドを制する者はゲームを制する」と言われた、あのリバウンドである。白コーチもそこがウインターカップに向けた一番の課題だと言う。

「一番の課題はリバウンドのところです。やはりウチは180センチを超す大きな主力選手が少ないので、留学生など高身長の相手に対して、いかにリバウンドを取るか。トップリーグでの数字をすべて洗い出して、対戦相手とはこれぐらいの差があるんだよと選手たちに見せました。リバウンドはほとんどのところで負けています。リバウンドを取らないと自分の攻撃権を取れないわけだから、そこはチームで課題を徹底しようと伝えています」

 リバウンドだけではない。桜花学園のオフェンスはセンターを中心につくられている。いわゆる「インサイドバスケット」と呼ばれるものだが、これは故・井上氏が築き上げてきた桜花学園のスタイルであり、強さの象徴である。自身も桜花学園の卒業生で、186センチのセンターとして鍛えられた白コーチもその考え方を踏襲している。

「桜花学園にとってセンターは花形ポジションというか、中心のポジションになるんですよね。ただ今年はサイズがないので、桜花学園が基本にしているハイローのプレーはちょっと現状難しいかなと。だからセンターがスクリーナーに回る役割をさせているんですけど、ウチのガード陣は突破力があるので、その子たちを生かすのも、やっぱりセンターなんだよと言い続けています」

 チームの大黒柱であることに変わりはないが、その役割がこれまでとは異なるというわけだ。スクリーナー、つまりは壁役となってチームメイトを生かすのだが、だからといって、これまでの"日向"から"日陰"に回されているわけでもない。そこにウインターカップを控えた桜花学園の強さ、成長があると白ヘッドコーチは言う。

「(今年のセンターであるイシボ)ディバインがトップリーグを通じて、安定して2ケタの得点を取れたことは本当に手応えを感じています。身長は177センチと決して大きくはないけど、インサイドの中心選手になるので、あの子が得点を取ってくれたら、ウチのアウトサイド陣、濱田(ななの)や竹内(みや)、勝部(璃子)らも生きてきます。そこは今、大きな手応えを感じているところです」

 絶対的な高さこそないものの、自らの個性を生かしたイシボの成長で、今年の弱点になりかねなかったポジションが、今はむしろ強みになってきたと言うのである。

 彼女の成長だけではない。「チームでも勝負どころがわかってきた」と白コーチは認める。

「近年は1点差で負けるなど、勝負どころの弱さで苦しんできましたが、今はチームで『ここが大事な場面だよ』という認識を持てるようになってきました。何より苦しくなったところでも下を向かなくなったんです。それは指揮する者として、苦しい場面で『ウチはまだまだいけるな』って思わせてくれるので、そこが一番の手応えを感じているところです」

 絶対的な女王だった頃の桜花学園は、まさにそうだった。たとえ不利な状況になっても下を向くことはなく、ひとつのプレーで流れを変えると、桜花学園のバスケットを貫くことで形勢をひっくり返していた。その感覚を「U18日清食品トップリーグ」を通じて得ることができたと言うのである。

 加えて、インターハイのときはケガでロスターに入れなかったキャプテンの棚倉七菜子と金澤杏も順調にリハビリを進められている。彼女たちがロスター入りすれば、それも大きな追い風となる。

 3年間、苦杯を嘗めさせられたウインターカップで満開の桜を咲かせられるか。冬の桜花学園は、夏の桜花学園とはひと味違う。