米女子ツアー1年目、山下美夢有はメジャー「AIG女子オープン(全英女子)」を含む2勝を挙げ、平均ストロークは69.81…
米女子ツアー1年目、山下美夢有はメジャー「AIG女子オープン(全英女子)」を含む2勝を挙げ、平均ストロークは69.81(4位)。新人賞を獲得し、年間女王争い「レース・トゥ・CMEグローブ」も世界ランキング1位のジーノ・ティティクル(タイ)に次ぐ2位になった。コーチで父の勝臣さんへの単独インタビュー後編では“精密機械”のような山下のゴルフのベースに迫った。(取材・構成/加藤裕一)
「スイングは5歳からずっと一緒」/コーチの父・山下勝臣さん【前編】
メジャー制覇で上がった新たなステージ「変なプレーはできない」/山下美夢有【前編】
屋内練習場に並べた2つのトロフィ「まだトップにはなれない」/山下美夢有【後編】
■「最初が一番ええスイング」
―始めた時から上手かったとはいえ、なんでスイングを変えないんですか? 多くの選手がより良いものを求めて、大なり小なりスイング改造を試みると思いますが
「変える必要がないんですよ、最初が一番ええスイングをしてるんですから。脱力してとか意識しなくていい。クラブが勝手に動いてくれる。そのままでええのに、段々と力がついてきて『飛ばしたい』とかいろんなことを考え始める。みんなは『もうちょっと飛ばすためには』とか考えて変えていくでしょ? でも、それをやると(最初に)戻せんくなるんですよね。前の、最初のスイングができんくなる。たいがいそうやと思うんです。だから、変えないってことです」
―山下プロはスイングのリズムのことをよく口にします。そのリズムも始めた時のものやと
「リズム。それ以外のことを考え出すと、絶対に悪なるんで。手がこうなったりとか、ヒジがこうなったりとかやり、自分で考え出すと絶対にろくなことがない(笑)」
―そうなりかけたこともあった
「ありました。そうなりかけて、いろんなスイング(動画)とか見たりしとったんやけど『もう見るな』『絶対に』と。そんなんスイングなんて、人それぞれちゃうんやからね。ジュニアの時も、プロなった時もありました。やっぱりどうしても(他人のスイングを)見てまうんですよね、飛距離が出るとかいろんな人のを。でも『見ても一緒やで』と。『その体で飛ぶわけないやろ? 飛んでる方やで。230、240ydは飛んでる方やと思うで。あと身長が15cmあって、骨格ももっとしっかりあったら、もっと飛んでるやろ?』と。ウチはミート率だけ意識してるから。それ考えたら、飛んでる方やし、ひたすら精度を磨くしかないんやから」
―それって親子の信頼があるからこそできる話ですね
「そうです、そうです。ほかのコーチの言うことは絶対に聞かんし。ウチの場合、(男子プロで弟の)勝将は横にいい見本(美夢有)がいてる。練習量もそうやし。うまくいかへんのやったら(コースから)一番最後に帰るぐらいじゃないとね。『練習は量じゃない。質が大事』と僕も言うけど、できてへん時は量こなすしかないんやから。それ(質)はできてる人が言うことですからね」
■最大の武器は「1yd刻みの距離感」
―彼女の上達理由は「素直さ」や「練習量」なんでしょう。では最大の武器はなんですか? なんであんな小さな体で世界トップレベルの結果を残せると思いますか
「縦距離ですね。毎回同じように縦距離を合わせられるようにならんとあかん。ウェッジであろうが、アイアンであろうが、ウッドであろうが」
―大きいクラブになれば当然、横のブレは大きくなります
「でも、縦の距離感はクラブが小さかろうが大きかろうが関係ないんです。ウェッジやからって絶対に合う訳やない。大きいクラブも一緒です。クラブの大小で変わることは絶対にないんで」
―ミートさえしっかりしていたらいい
「そうです。むしろウェッジほど狂ったりするし(笑)。ちゃんと打っとったら、ユーティリティでもフェアウェイウッドでも変わりません。だから、美夢有はすごい数字書いてるでしょ? テレビ中継とかでよく紹介される『クラブごとの距離』。1yd単位で書いてるんです。多くの人は多分、5yd単位で末尾はだいたい5か0。ウチは2とか7とか(笑)。『7番アイアンの飛距離は?』とか聞かれたら、普通みんな『140』とか『150』って言う。『143』とか『147』とか言えるんは、ウチだけやと思います」
■父が“トラック野郎”になって
―1yd刻みの距離感を身につけるなんて大変でしょう
「ウチはちっちゃい時からずっと1yd単位で『自分の距離はなんぼ』ってやってきたんで。だから試合の時も(弾道測定器の)トラックマン見て『今日はなんぼ飛んでる』と、朝の数字を見ながら自分の状態を把握してます」
―トラックマンを買ったんはプロになってからでしょ? 弾道測定器が出始めたんは最近やないですか
「そこはコースに行ったら、俺がグリーンとか前の方におって美夢有が何球も打って。打ちっ放し練習場とかも、俺が前に出て行って。練習場はもちろん人少ないとことかに限りますけど、練習場さんに断って。僕がどこにキャリーしてるか全部チェックして『この風やったら何ydやで』とやっとったんで。下の硬さで何ydランが出るとかも含めて」
―トラックマンやなくて、お父さんが「トラック野郎」になって
「こうやって(爆笑して気をつけの姿勢で)立って『はい、ここに打って』とかね。距離測定器がないちっちゃい頃は、僕が歩測してました。歩測していって『はい、ここで70yd』とか」
―しかし、1ydがこの歩幅ってなかなか決めきれんのでは
「だから『1ydってどんだけやねん』と調べました。実際に歩幅で測って『これで狂いないか』とかやってみて。どんだけの感覚で歩いたやつが、どうなるかというのを調べました。ドライバーはさすがに無理でしたけど、小学校の頃ってウッドでも150ydぐらいやったからいけましたよ。コースに行っても、グリーンでピンと全然違うところに立って、決めた距離を打つ。そんな練習ばっかりさせてました」
■正確な距離感がバーディを呼ぶ
―話は変わりますけど、お父さんは以前、基本的な考え方として「フェアウェイに置いて、グリーン狙うショットはセンター狙い」と言ってました。それは今も一緒ですか
「基本はそうですね」
―ただ「センター狙いのゴルフ」で育つと「バーディをとるゴルフ」ができずに悩む選手もいます。ところが、彼女はバーディ奪取力が高い。日本で平均バーディ数1位(24年は4.3394)になってる。今年のアメリカでも高い数字(バーディ奪取率を18ホール換算して4.1886の12位)。どこかで方針転換したんですか
「いや、基本は今も逃げるときは相当逃げるし、絶対に無理はしません。よっぽど自信あるときは(ピンを)狙うけど。でもね、縦距離が合っていたら、結構ピンにつくんですよ。結局、ウチで言うセンターは“縦距離を合わしてのセンター”やから。でっかいグリーンで奥にピンが切っているときに真ん中を狙うんじゃなくて、距離は合わせるから、ウチのいうセンターは基本ピンに近いんです。例えば右手前ピンやったら、左のセンター。奥のセンターやったら、チャンスじゃなくなってしまうから、横のラインは合わせる。だから、どのコースでもたいがい合わせてると思いますよ」
―お父さんは彼女がバーディをとるときの肝として「ウェッジよりむしろ6番アイアンとかユーティリティ」とも言ってましたが、そのあたりに理由があるんですか
「本人も意識してない部分と思うんですけど、ウチは(グリーンを狙うショットは)ウェッジより、ユーティリティとかで打つことが多いから。ウチは基本、パー4、パー3のスコアがええんですよ。パー5よりも圧倒的にいいんです」
―今季の米ツアーのスタッツではパー3のスコアが5位(2.92)、パー4が10位(3.98)、パー5が18位(4.62)。全体の順位を見たら、ほんまにその通り
「それがなんでか言うと縦距離が合ってるからです、絶対に」
■チェックポイントはシンプル
―ところで、彼女が日本ツアーで戦ってた頃は、スタート前の練習とかでお父さんが後方に立ってチェックしてましたね。今年はほぼスマートフォン越しで“テレビ電話”のやり取りやったと思います。その時はどこをチェックしてたんですか
「基本は良かった時と悪い時との違い。リズムが速くなったり、遅くなったりとかもそうやし、バックスイングの大きさとか。バックスイングの大きさとかが変わったら、スイングも変わるんで」
―基本はアマチュアもそうですけど、トップと切り返しのタイミングですか
「そうです。ほぼそれだけです」
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■今後の目標は世界ランキング1位?
―日本で2回、女王になって、アメリカの1年目でメジャーに勝って。ものすごいペースで目標をクリアしていってます。次の目標はなんですか
「まあとりあえずほかにもメジャーはありますし」
―世界ランク1位とか
「あ、そっちの方がええかな。そっちの方が難しいかなと思いますんで」(完)