米女子ツアー1年目、山下美夢有はメジャー「AIG女子オープン(全英女子)」を含む2勝を挙げた。平均ストロークは日本勢13…

米女子ツアー1年目、山下美夢有はメジャー「AIG女子オープン(全英女子)」を含む2勝を挙げた。平均ストロークは日本勢13人でトップの69.81(4位)をマーク、新人賞獲得だけでなく、年間女王争い「レース・トゥ・CMEグローブ」も世界ランキング1位のジーノ・ティティクル(タイ)に次ぐ2位になった。身長150cmの小さな体に秘めた強さに、コーチで父の勝臣さんの単独インタビュー前後編で迫った。(取材・構成/加藤裕一)
メジャー制覇で上がった新たなステージ「変なプレーはできない」/山下美夢有インタビュー【前編】
屋内練習場に並べた2つのトロフィ「まだトップにはなれない」/山下美夢有インタビュー【後編】
■「予想がついた」米ツアー1年目のメジャー制覇
―米ツアー参戦1年目でメジャー「全英女子」に勝った。正直驚きですが、こんな活躍は予想できましたか?
「それ(予想)はついてました。こんな言い方したら、また…ねえ。でも、要は『無理な勝負は絶対にしない』というのが昔からウチの方針なんです。どの舞台でも『優勝できる力がついてから出よう』というのが基本ですから」

―そう言えば、2年連続年間女王を獲得した2023年、メジャー初戦「シェブロン選手権」に出場権があったのに出なかった。彼女は「まだ準備できてへんのに出ても…」と理由を説明していました
「そうです。だから最初にメジャーの出場資格を得た全英(2021年AIG女子オープン)もスキップした。やっぱり優勝できへんのに行ってもねえ…。『出たことが経験になる』とよう言います。それは確かにあるかもしれんけど、ウチはそうは思わんくて。『力つけてから勝負しよう』という考え方は昔からです」
―徹底しているんですね
「昔の話ですけど、兵庫にあるダンロップゴルフコースのパー3コースで、小学校1年から6年まで世代分けなしでやる大会に出たことがあったんです。その大会で確か2年の時に予選落ちしましてね。そこから1年間、他のどの試合にも一切出ずに練習だけやった時期がありました。周囲から見たら、完全に姿を消した形になったんで『あの子、ゴルフやめたんちゃう?』と噂されてたみたいですけどね。それで同じ大会に1年後に出て、優勝したことがありました」
■成長の裏に「素直さ」と「練習量」

―山下プロの何に驚かされるかと言うと身長が150cmってこと。はっきり言うて飛びません。なのにプロ3年目の2022年から日本でも2年連続年間女王になって
「そこはまず本人の練習量やと思います。僕は美夢有と同じころにゴルフを始めたんですが、早くにやめました。なんでやめたんかと言うと、美夢有を見るためではあったけど、もう一つは自分が一生懸命になってまうから。家にも帰らんとずっと練習するようなタイプやから(笑)。だから、あの子のことがようわかります」
―教え方はスパルタやったんですか
「いや『やるんやったら、やるで』と。『ほんまにプロなりたいんやったら、それなりのことをちっちゃい時からやっていくし』と。うまくなるためには練習です。だからゴルフ場で(回って)もスコアをつけません。練習ラウンドのスコアなんて、何の意味もない。練習でやってるんやと。美夢有は競技以外でつけたことないはずです」
―だから放っておいても練習すると
「今でも多分一番やってんちゃいます? 小学校の時は仕事を終えた僕か妻が車で練習場に連れて行く。午後6、7時頃から夜10時ぐらいまで。土日は朝7時とかから練習場、その後にコース。練習→ラウンド→練習。プロと一緒です。これを当たり前のようにずーっとやってました。土日はさすがに午後7時、8時とかぐらいまでかな。でも、休む時は休む。プロになってからも月火はクラブを握らんようにして、コース入りは水曜日とか遅いけど、やる時にはやるスタイルで」
―親から見て、そんな彼女の“一番の才能”はなんやと思いますか
「素直さですね。昔から素直。練習量をこなすんも素直ってところ。プロなったばかりの頃は朝6時ぐらいに家出て、お世話になってた(兵庫の)宝塚ゴルフ倶楽部さんの練習場で球拾いして、そのあとに練習させてもらって。社員さんとかみんなが先に帰って、最後は自分で門を閉めて帰ってくるぐらいやってました」
■フィギュアやバレエもやっていて…

―山下プロがゴルフを始めたそもそもの話を聞かせてください。お父さんが仕事の付き合いでゴルフを始めて、その練習に彼女を連れていったんが始まりということですが
「そうでしたけど、それ以前にフィギュアスケートとかクラシックバレエもやってました」
―弟の勝将プロは極真空手をやっていたみたいですね
「まあウチは勉強でっていう家系じゃないし(笑)。勉強を教えることもできへんし、親としてね」
―お父さんのベストスコアはどれぐらいですか
「ベストスコアも何もスコアをつけるようなアレじゃないから…今は100なんぼとかです。昔は100切ったことありますよ。最初の頃はひたすらゴルフやってたから。美夢有が始めたんは5歳。幼稚園の年長ぐらい。僕もゴルフがおもろいと思ってやってたんで。そのころはそれなりのスコアで回ってました。一緒にコース回ってたし。80ぐらいちゃいますかね。でも、子どもが『やりたい』言うて試合に出だすと、自分の時間が結構なくなるんですよ」
―独学で始めたゴルフを娘に
「とりあえずは自分で教えようと。最初は本とか買って読みましたよ。独学と言うか…ずーっと上手い人のスイングを見たり、(ボールとフェースの)当たり方を見たり、いろんなことをしてると『ああ、こういう当たり方はあかんな』とか。それはプロコーチとかも同じやと思います。自分で見たり、経験したりしてね」
―お父さんがマネしたプロとか、理想としたモデルはあったんですか
「具体的にこの人っていうのはないですね。プロはみんな、そこそこのスイングでやってますから。本を見たりしたのも、僕が最初に始めたときのことで、教えるためやなくて、自分がうまくなるために。そんな本はしょっちゅう買っとったけどね。雑誌とか見て、自分もやってみて覚えていきました」
■山下美夢有は「最初からうまかった」

―山下プロはゴルフを始めた頃、どんな感じでした
「最初からうまかったですね。ちっちゃい時は試合とかには出てないですけどね。世間では世界ジュニアに出たとかいう子もいましたけど、僕らがそこまで裕福やなかったんで。親がついてアメリカ行ってとかは考えられんかったです。それに『いま出てもしゃあないし』と。ちっちゃい時になんぼ世界で活躍しようが関係ないですから」
―やっぱり将来、世界一目指してとか、日本一目指してって考えやったんですか
「そう思ってたんは僕だけで、美夢有はまだ子どもやったし、そこまでわかんないやないですか。口では『プロ目指して』とか言うててもね。あの子がほんまに『プロ』を意識したんは自分がプロの試合に出てからちゃいます? 中学の時(2016年・マンシングウェアレディス東海クラシック)に」
―ただ「やるなら一番にならんと」という考え方はずっとあった
「僕はそうでしたね」
―山下プロがゴルフを始めた頃の写真を見ると、びっくりします
「そうですよね。ちっちゃい頃って、みんなきれいなスイングするんですよ。クラブが重たいから(当時のクラブは地クラブメーカーの大人用を短く切ったもの。アイアンはマッスルバックで、スチールシャフト)。でも、それをみんな変えていくんですよね。あの子は多分、小学校の時からずっとスイングは一緒。始めた時のスイングをずーっと変えてない。ほとんどの子はみんな、変わっていくんですけどね」(後編に続く)