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クリス・ポールの現役ラストイヤーは、愛すべき故郷であるロサンゼルス・クリッパーズへの復帰により、誰もが望んだ引退ツアーとして語られるはずだった。
しかし、現実は無情だった。球団はロードの最中、突如としてポールに帰宅命令を下す。“フランチャイズ史上最高の選手の一人”とまで言わしめたポイントゴッドを、チームはわずか21試合で切り離したのだ。
開幕前には今シーズンのダークホースと称されたクリッパーズだが、成績は芳しくなく、ウェスタンカンファレンス14位に低迷。全ての歯車が噛み合っていない中で起きたこの騒動の裏側では、一体何が起こっていたのだろうか。『ESPN』のラモナ・シェルバーン記者が、その一部始終をまとめている。
球団内部では、“役割のズレ”と“文化の衝突”が段階的に積み上がっていたという。
原因は、加入時点における選手と球団の期待値の乖離だった。球団が想定していたポールのポジションは、最低限の出場時間でロッカールームの落ち着きを担うベンチ端のベテランリーダー。ローレンス・フランク球団社長も、ポールが控えになることを明言しており、周囲の選手にも起用が限定的になることを説明していたとされている。ポール自身もその立場を受け入れる姿勢にあったが、一方で競争する機会や、コーチングスタッフの延長としてチームに関与する余地を求め、名誉職ではなく、できる限り勝利へ貢献する姿勢を示していた。
幸先は良好だった。チームメイトをワークアウトや試合観戦に誘い、試合後には選手やスタッフを招いたパーティーも主催。メディア対応でも信頼できるベテランリーダーとして前に立つことを辞さなかった。しかし、その圧倒的なリーダーシップは次第に状況を歪ませていく。選手へのトレーニングの助言には「スタッフの権限を侵さないように」と警告され、コートの内外で口調がきついことに、選手とコーチの双方から不満が漏れ始めた。
ティロン・ルーヘッドコーチの起用法も裏目に出た。プレシーズンでのプレータイムは当初の想定より大きくなり、ポール自身の期待値も上がったと関係者は見る。だがチームは失速が顕著になり、試合後に話し合いを促しても、静かなロッカールーム文化の前では空振りに終わり、DNPも増えていく。フランクは面談で、ポールがチーム文化の希薄さを指摘したことに対し、そのリーダーシップが有益ではなく“分断的”に受け取られていると伝えたという。
だが、これがクリス・ポールという男であり、その個性が一朝一夕で確立されたものではないことは誰もが知っている。他球団の某幹部は「彼は人を疲弊させるが、実際は正しいことが多いから余計に腹が立つ」と語り、「チアリーダーが欲しいだけだったなら、そもそもクリス・ポールを獲る必要なんてなかったはずだ」と続ける。
ポールにも悪意はなかった。面談後、12度のオールスターはチームの前で「ネガティブ、分断的に見えたなら謝罪したい」と述べた。しかし11月時点で成績は2勝13敗。引退発表後、球団は「故郷でキャリアを終える」というキャプション付きのトリビュート動画を公開するが、その数日後には崩壊を迎えることとなる。
決定打となったのは、遠征機内での衝突だった。終盤の起用や守備判断をめぐり、ポールとコーチ陣、とりわけジェフ・バン・ガンディとの緊張が頂点に達した。ポールは許可なく守備を変えたと責められたが、「提案しただけだ」と反論。通路では実際に選手たちに確認して回る公開検証にまで発展し、球団はこの一件で“限界”と結論づけた。フランクはアトランタのホテルでポール本人に帰宅を通告し、支持するチームメイトが同席しても決定は覆らなかった。
善意の再会は、機能不全と不振のなかで閉幕。この電撃解雇は、単なる人間関係の亀裂ではなく、クリッパーズの組織文化の設計そのものが問われる一件として内情を浮き彫りにすることとなってしまった。
文=Meiji
【動画】クリッパーズでのクリス・ポールのプレー集