国内女子ツアーで2度の年間女王となった山下美夢有は米ツアー1年目の2025年をいかに過ごしたのか。24年に日本でしのぎ…
国内女子ツアーで2度の年間女王となった山下美夢有は米ツアー1年目の2025年をいかに過ごしたのか。24年に日本でしのぎを削った竹田麗央、プロテスト同期の西郷真央らに続く米ツアー初優勝は8月のメジャー最終戦「AIG女子オープン(全英女子)」だった。11月「メイバンク選手権」で2勝目を挙げて年間ランキング2位、日本勢3人目の新人賞を受賞したルーキーイヤーを単独インタビューで振り返る。 (取材・構成/石井操)
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用意周到で臨んだ大舞台
待ち望んだ米ツアーでの初優勝は、シーズン最後の大舞台で巡ってきた。「もちろん、平場の試合も気合は入るけど、やっぱりメジャーはまた違って“特別”。いい方向に行ってくれたら、という期待はあるし、緊張が良いパフォーマンスにつなげられるだろうか…そんな感情が湧き出る」と言うものの「まさかメジャーで1勝目っていうのは、想像していなかった」と白い歯を見せて笑った。
初優勝への流れは前週の「スコットランド女子オープン」から始まっていた。初日に「74」の86位と出遅れたが、2日目「69」で38位と巻き返して予選通過し、3日目は「67」で15位まで浮上。最終日も「70」で10位に。「ショットがいいフィーリングで。悩むことも、考えることもなくメジャーに入れた」と振り返る。コース攻略だけに専念する状態で臨めた。
過去、何人かの先輩プロがスコットランドの空港でロストバゲージに見舞われた話を聞いていた。つまりキャディバッグの紛失。スコットランドには全英女子の3週前開催だったメジャー「アムンディ エビアン選手権」が行われたフランスから向かった。「怖くて。メーカー(住友ゴム工業)の方に頼んでスペアを現地に送ってもらった」。万が一に備え、初めて予備クラブを準備した。用意周到だった。
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培ってきた信頼と実績
メジャータイトル奪取には欠かせぬ相棒がいた。横峯さくらや渋野日向子らを担いだ経験を持つベテランキャディのジョン・ベネット氏だ。「私は攻めていきたいっていう気持ちが強くなっちゃう。そこを止めてくれたりして良いバランスでできているんですよね」と全幅の信頼を置く。「私も意見は言うけど、無理せず、確実なマネジメントを考えてくれながらコースチェックをしてくれて。中には予選落ちもあったけど、それも含めていい関係だった」と山下は言う。
昨年のQシリーズからタッグを組み、冗談を言い合えるほどの関係性を築けていた。「ジョーク?関西のノリで言いますよ。良い時も、悪い時もテンションが変わらないのが私には大事」。業界で「JB」の相性で知られるベネット氏は頼もしかった。「私はボギーの後、次のホールで切り替えられるように空気を持っていこうとするけど、JBもそう思ってくれていると思う。最初は性格が分からなくてお互い探り合いというか、どういう感じで話してくるか分からなかったけど、(6月の)全米女子オープンの前ぐらいから徐々に人となりが分かり始めた」。「優勝」という結果が出るまでのもどかしい時期も、他のキャディを使う考えは一切生まれなかったという。
「全英女子」の最終日も支えてもらった。1打リードの単独首位から出て、前半の3バーディで後続に3打差をつけてサンデーバックナインへ。10番以降でスコアが動いたのは、17番のボギーだけで逃げ切れた。そんな苦しい時間でもベネット氏はいつも通りだった。
「安心させてくれるような言葉はなくて、このホールをどう攻めるか、どんな一打を打てばいいのかだけを考えてくれた。『大丈夫』とか言われていたら逆に不安になっていたと思う」。
プレーに集中できる空気を作ってくれる。変に気を遣い合うのではなく、互いの意見をぶつけ合う。米ツアー2勝目も「ずっとキャディしてもらっているから息が合っている、合っていないも感じなかった。いつもと違うな、と思うことがなかった」。あうんの呼吸は確かにあった。
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メジャー覇者になって生まれた重圧
思えば最初は無我夢中だった。シーズン初戦の2月「ファウンダーズカップ」を4位で少しゆとりを持てたが、初めて回るコースばかり。不慣れな海外の食事、転戦による疲労…未知の環境が続く。「もう分からないことしかなくて。慣れるのが大変でした。ルーキーで出られない試合もあったので、順位は特に気にしていた」。
一方で、4月「JMイーグルLA選手権」3位、6月「ショップライトLPGA」5位と上位に食い込みながら、手の届かない初タイトルに自問自答する日々。コーチで父の勝臣さんによるスマートフォン越しの“遠隔チェック”を「続けていけばいい成績は出る」と安心材料にしながらも「なかなか結果がついてこなくて悩むことは少しあった」ともどかしさと闘った。
そんな心情がメジャー覇者になって一変した。未勝利の不安から解放される反面、新たなプレッシャーも生まれた。「優勝して注目選手として見てもらえるようになったのは良かった。だけど、あんまり変なプレーはできないなって。全英のタイトルを取ってそういう気持ちが生まれた」。大きな成果は山下美夢有を、さらなる高みを目指すステージに押し上げることになった。(後編に続く)
協力/THE APOLLO