NTTジャパンラグビー リーグワン2025-26ディビジョン3 第1節2025…

NTTジャパンラグビー リーグワン2025-26
ディビジョン3 第1節
2025年12月13日(土)12:00 厚木市荻野運動公園競技場 (神奈川県)
クリタウォーターガッシュ昭島 27-23 中国電力レッドレグリオンズ

仕事、家庭、ラグビー…。挑戦は星条旗柄のヘッドキャップとともに


独自デザインのヘッドキャップで後半途中から出場し、逆転勝利に貢献したクリタウォーターガッシュ昭島の林田拓朗バイスキャプテン

口の中を切り、歯も欠けたと明かしながらも、林田拓朗の表情はどこか軽やかだった。視線を引きつけたのは、彼の頭にある星条旗柄のヘッドキャップだ。

このヘッドキャップを作ったのは、林田が普段仕事で関わっている「お客さん」だという。昨季のシーズン終了後、林田が毎月お客さんと行なっている報告会が終わったあとに、「ヘッドキャップに何か指定はあるのか」と尋ねられ、「特にないです」と答えると、「じゃあ俺が作ってやるから、かぶってくれ」と申し出てきた。このお客さんは、バイクのヘルメットを自作で塗装するほどの腕前を持ち、制作費用もすべて自腹だった。

「なんでこの柄なのか、みんなが分からないほうがいいんだよ。でも活躍したら目立つだろ」

そう言われて完成したのが、星条旗柄のヘッドキャップだった。

試合後、スタンドにいたそのお客さんに向かって手を振ると、「よく頑張ったな」と声を掛けられた。その方は、そのままバイクで帰っていったという。派手な言葉を交わすわけではないが、そこには確かな信頼関係があった。

林田がヘッドキャップを着け続ける理由は明確だ。

「躊躇せずに頭を突っ込めるし、変なことを考えずに泥臭いプレーもためらわずにできる」

その言葉どおり、後半11分からピッチに立った林田は、積極的なキャリーとコミュニケーションでチームを活性化させた。林田がセンターに入り、ピアーズ・フランシスがセンターからスタンドオフへ移ると、前半のラグビーが嘘のようにボールがスムーズに動き出す。ホームの声援も追い風となり、WG昭島は逆転に成功。リーグワン開幕戦での初勝利を手繰り寄せた。


ピアーズ・フランシス選手

林田は昨年、双子が誕生し、家庭での責任も増えた。一方でチームではバイスキャプテンとして、選手とフロントをつなぐ橋渡し役も担っている。その働きかけもあり、これまで平日は夜のみだった練習は、一部が15時開始へと改善された。仕事、家庭、そしてラグビー。いくつもの役割を抱えながらも、「しんどくても、やるしかない」と前を向く。

星条旗柄のヘッドキャップと開幕戦の勝利とともに、林田の挑戦は、またここから始まる。

(匂坂俊之)

クリタウォーターガッシュ昭島


クリタウォーターガッシュ昭島の内山将文ヘッドコーチ(右)、中尾泰星キャプテン

クリタウォーターガッシュ昭島
内山将文ヘッドコーチ

「多くのファンの前でこのような試合ができ、なおかつ勝利でシーズンをスタートできたことを非常にうれしく思っています。リーグワンに参入してから、開幕戦で勝てていなかったという背景もあり、今回は『まずは勝ちにいく』という点を強く意識して取り組んできました。中尾(泰星)キャプテンを中心に、選手たちが本当に良くチームをまとめ、準備してくれました。その積み重ねが、今回の勝利につながったと思います」

──積み上げてきた中で成果として発揮できた点と、今後の課題を教えてください。

「適切なエリアで戦うことができれば、自分たちのラグビーを表現できると感じています。また、ディフェンスをしっかりとコネクトさせることができれば、粘り強い守りができてくると思います。一方で、中国電力レッドレグリオンズに強いプレッシャーを受けたことで、少し焦ってしまい、ミスが出た場面もありました。そういった部分については、今後しっかり修正していきたいと考えています」

クリタウォーターガッシュ昭島
中尾泰星キャプテン

「勝ち切ることができたという点は、チームにとって非常に大きな収穫だと思っています。これまでの開幕戦では、ここ2、3年ほど、なかなか自分たちの力を出し切れずに終わってしまうことが続いていました。そうした中で、内容はともかく、まず『勝ち』という結果を手にできたことは素直に良かったと思います」

──逆転勝利となりましたが、その要因はどう考えていますか。

「ハーフタイムにまず振り返ったのが、ペナルティの数でした。前半だけで9個のペナルティがあり、この数ではエリアでも相手に主導権を渡してしまい、試合が苦しくなるという話をチーム全体で共有しました。後半もペナルティが完全になくなったわけではありませんが、前半よりは意識してプレーできたと思います。自陣では我慢強く守り、敵陣に入ったらしっかりとプレッシャーを掛ける。その意識をもてたことで、ピンチの場面でも脱出でき、敵陣でプレーする時間を増やすことができました。そこが後半に試合の流れを変えられた要因だと感じています」

中国電力レッドレグリオンズ


中国電力レッドレグリオンズの岩戸博和監督(右)、西川太郎主将

中国電力レッドレグリオンズ
岩戸博和監督

「前半については、われわれが狙っていたゲームプランを選手たちがしっかり理解し、ピッチ上で体現してくれたと思います。その結果として、前半のスコアにはつながりましたし、準備してきた形は出せたと感じています。一方で後半は、クリタウォーターガッシュ昭島(以下、WG昭島)が的確に修正してきたことに加え、われわれ自身のペナルティの多さ、そしてディフェンス面での小さな綻びが重なってしまいました。そこが相手に流れを渡す要因となり、結果的に試合がひっくり返るような展開になったのではないかと思っています。ただし、すべてが悪かったわけではありません。スクラムなどのセットプレーでは、われわれが主導権を握れた時間帯もありましたし、敵陣に入った際にしっかりスコアして戻ってくるという点については、評価できる部分だと考えています。次節はホストゲームでヤクルトレビンズ戸田戦がありますので、今回明確になった課題を一つひとつ修正し、良い結果につなげていきたいと思います」

──後半にWG昭島のスタンドオフがピアーズ・フランシスに変わりましたが、どう振り返りますか。

「ピアーズ・フランシス選手は、試合の流れを変えられる非常に厄介な選手です。特にキックを使ったエリアの取り合いにおいて、後半は完全に主導権を握られたという印象があります。本来であれば、こちらが確実にタッチに出さなければいけない場面で、相手に走られてしまうシーンもありました。こうした展開自体はある程度想定していましたが、思っていた以上にキックゲーム、エリアの攻防で後手に回ってしまったことは反省点です。そこへの対応力が、今後の課題だと感じています」

中国電力レッドレグリオンズ
西川太郎主将

「開幕戦に向けて、プレシーズンで積み上げてきたことをすべて出し切ろうという気持ちで試合に臨みました。前半は、自分たちのやりたいラグビーができた時間帯だったと思いますし、ゲームの流れをつかめた場面もありました。ただ、後半は自陣でプレーする時間が長くなり、そのぶんディフェンスに費やす時間が増えてしまいました。そこでタックルミスがいくつか出てしまい、さらにペナルティも重なったことで、失点につながったと感じています。(岩戸博和)監督とも話しましたが、やはりディフェンスの精度が落ちたことが大きかったです。とはいえ、チームとして良い部分も多く見られました。そこは自信を持って伸ばしながら、試合後にもう一度全員でしっかり分析し、修正していきたいと思います。15試合あるシーズンのまだ1試合目なので、次につながる試合にしていきたいです」

──勝ち切るために必要なことはどんなことだとお考えですか。

「勝ち切るためには、一つひとつの局面での選択や判断を丁寧に行い、それぞれの場面で勝っていくことが重要だと思います。自分たちはディフェンスを軸にチームカラーを作っているので、そこにほころびが出ると試合を進めるのが難しくなります。アタックで圧倒するタイプのチームではないぶん、まずはタックルの精度をもう一度見直すことが必要です。タックルが安定すれば、結果的にペナルティも減ってくると思います。前半にできていたことを、80分をとおしてやり続けられるようにしていきたいです」