「来年はエース級になってほしいですよね。今年の時点でもエース級の力はありましたけど。すばらしいボールを持っているのは一目…

「来年はエース級になってほしいですよね。今年の時点でもエース級の力はありましたけど。すばらしいボールを持っているのは一目瞭然ですし、誰もが認めるはずです。故障さえなければ、ピッチャーの中心になってくれると思います」

 大学日本代表の鈴木英之監督(関西国際大)の口をついたのは、賛辞のオンパレードだった。


最速154キロを誇る青学大・鈴木泰成

 photo by Kikuchi Takahiro

【自己評価は「まだまだ粗削り」】

 12月5日から愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補強化合宿。初日の練習開始前に鈴木泰成(青山学院大3年)と親しげに挨拶を交わしていた件について聞くと、鈴木監督は冒頭のコメントを発した。大学日本代表監督が来年の代表の中心投手として期待を口にするのは、異例と言っていいだろう。

 鈴木は今夏も大学日本代表に選出され、日米大学選手権ではリリーフで3試合に登板。4イニングを投げ、8奪三振、無失点の快投を披露している。来年のドラフト1位候補として、プロスカウトやメディアからの注目度も日増しに高まっている。

「最上級生になるにつれて、期待していただくことが増えてきたと感じます。もっと期待に応えないとな......と思います」

 鈴木はそう言ってはにかんだ。

 身長187センチ、体重85キロの本格派右腕。最速154キロの快速球はホームベース上でも失速することなく、捕手のミットを押し上げる。変化球は高精度のスプリットとフォークを投げ分け、ゲームメイク能力も高い。

 しかし、鈴木の自己評価は「まだまだ粗削り」と辛口だ。身近な「お手本」から学ぶなかで、自分の力がまだ足りないことを自覚している。

「中西さん(聖輝/中日ドラフト1位)の背中を見てきて、自分の完成度はまだまだだと感じています。中西さんは3年生の時から2年間、エースとして結果を残してきましたから。自分はもっと向上心を持って、まだまだ鍛えていかないといけないです」

 1学年上の中西はリーグ通算17勝3敗をマーク。青山学院大のリーグ6連覇の原動力になった。今秋の明治神宮大会決勝では、立命館大から17三振を奪ったうえで2安打完封。名実ともに学生ナンバーワン右腕として、プロの世界へ進んでいる。

 中西の偉大さはどこにあるのか。そう尋ねると、鈴木はこう答えた。

「中西さんは自分をコントロールするのがうまいです。体を思ったように動かせますし、球種はどれをとっても一級品でした。リーグ戦では第1戦で当たり前のように勝って、第3戦までもつれ込んでも、エースとしてチームに流れを持ってきて勝ちきる。チームのなかで、中西さんに対する絶対的な信頼感がありました」

 言葉を継ぐように、鈴木はこんな思いも吐露した。

「自分も中西さんのような『勝てるピッチャー』になれるのかな......というワクワク感と、やらないといけない使命感と、両方ありますね」

【今秋のリーグ戦で浴びた東都の洗礼】

 鈴木は東海大菅生高時代から「日本を代表するピッチャーになりたい」と高い志を口にしていた。しかし、高校2年の冬に右ヒジを手術。3年夏には復帰したものの、不本意な内容で高校野球を終えている。こうした経緯もあり、青山学院大に進学後は安藤寧則監督が「順番を間違えないように」と語ったように、慎重を期して育成された。

 大学2年時まではリリーフとして起用され、リーグ戦初先発は3年春の終盤だった。安藤監督や中野真博コーチが鈴木の体調を慮ってきたことは、鈴木本人も理解している。

「安藤さん、中野さんに大事に使っていただいたおかげで、ここまで成長させてもらったと感じています。来年は勝つことで恩返しをしたいです」

 今秋のリーグ戦では、大学で初めて「試練」と言える経験をした。中西が右ヒジの炎症で登板を回避した東洋大戦。鈴木は第1戦の先発を任されたが、2回に満塁弾を浴びるなど3回5失点で敗戦投手に。さらに第3戦で再び先発するも、3回2/3を投げて3失点で敗戦投手になっている。

 鈴木は「調整の難しさを感じた」と振り返る。

「初戦が悪くても、中1日で修正できたらベストだったんですけど......。試合での切り替えや修正は難しいなと感じました」

 東洋大戦の試合後、安藤監督に「鈴木投手は初めて東都の洗礼を浴びたのでは?」と聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ピッチャーは再現性が大事だと思うんです。いかに修正できるかどうか。大学選手権でも東北福祉大さんに満塁の場面でボール先行からの真っすぐを打たれ、東洋さんにもボールカウント先行から打たれた。本人からすると、わかっていて自分のいいボールを再現できなかった悔しさはあると思います。でも、このように『なんとかならない』のが東都の厳しさ。本人もそれを感じていると思うので、次につなげていくしかないです」

【追い込まれて真価発揮】

 続く亜細亜大との初戦ではエースの中西が復帰して好投するも、延長10回の末に0対1で敗戦。負ければリーグ優勝の可能性が消える第2戦で、鈴木が先発した。鈴木は不敵に笑い、こう語る。

「追い込まれた場面になると、自然と気合いが入るんです」

 じつは今春のリーグ戦でも、「負けたらV逸」という大事な亜細亜大戦で先発し、完投勝利を収めている。鈴木は秋の亜細亜大戦でも9回を投げきり、3安打完封。息を吹き返した青山学院大は逆転優勝を遂げている。鈴木は「東洋に負けても、亜細亜戦で修正して投げられたのはひとつ自信になりました」と明かす。

 来年は中西が抜けるだけでなく、中軸の小田康一郎(DeNAドラフト1位)など野手陣の顔ぶれも大きく入れ替わる。同じく来秋のドラフト1位候補でバッテリーを組む渡部海が残るとはいえ、来春のリーグ7連覇のハードルは高い。さらに、鈴木には大学日本代表のエースとしての期待ものしかかる。

 それでも、鈴木が初志を曲げることはない。

「世代ナンバーワンになる。日本を代表するピッチャーになる、という目標は変わっていません。結果的に大学ジャパンのエースになれればベストですけど、まずはチームが優勝することが一番だと考えています」

 あるNPBスカウトは、鈴木に熱視線を送りながらこんな感慨を口にしている。

「モノが違うのは間違いありません。でも、彼の持っているものはこんなものじゃないと思うんですよ。来年はもうひと化けした姿が見たいんですよね」

 スカウトの願望が実現したその時、鈴木泰成は間違いなく2026年ドラフトの主役になっているはずだ。