来年のドラフト1位候補である鈴木泰成(青山学院大3年)とは交流を持てたのか。そう尋ねると、矢花大聖(北海道教育大岩見沢…
来年のドラフト1位候補である鈴木泰成(青山学院大3年)とは交流を持てたのか。そう尋ねると、矢花大聖(北海道教育大岩見沢3年)は丁寧な口調でこう答えた。
「昨日、お話しさせていただく機会があったんですけど、野球やトレーニングの意識とか、感覚の鋭さとか、僕とは全然違うなと実感しました」
同学年に対する「させていただく」という謙譲語は、矢花が自分の立場をどうとらえているか如実に物語っていた。
北海道教育大岩見沢の矢花大聖
photo by Kikuchi Takahiro
【緊張のなかで迎えた合宿初日】
12月5日から愛媛県松山市で実施された大学日本代表候補強化合宿。全国から58人の代表候補が招集され、3日間にわたり練習や紅白戦を通して交流を深めた。
合宿初日を終えた段階で、大学日本代表の鈴木英之監督(関西国際大)は苦笑交じりにこんな感想を語った。
「練習を見ていると、(東京)六大学、東都の選手が中心のほうでやっていて、地方の子は端っこでやっている。関東の選手は自分に自信を持っていることが伝わってきますけど、地方の子は遠慮しているのかなぁ......と感じました。まだ初日ですから、緊張もあると思います」
その「緊張」にのまれたひとりが、矢花だった。合宿初日、ウォーミングアップ中に顔なじみの有望選手同士が談笑するなか、矢花はグラウンドの隅で黙々とストレッチをしていた。矢花はこんな本音を打ち明ける。
「みんなは僕のことを知らないのに、僕だけが名前を知っていて。飛び入りで参加したようなものですし、初日、2日目は『こんな僕でも話してもらえるのかな......』と、ひとりでいることが多くなってしまいました」
矢花は北海道教育大岩見沢に在学し、札幌学生野球連盟の2部リーグで戦っている。身長181センチ、体重86キロ、最速146キロをマークする右投手。札幌光星高では無名の存在で、公立大学に進んだ後は学業とアルバイトと並行して野球に打ち込んできた。
今回の強化合宿には自身の投球映像を提出し、その力量が認められて候補選手に選出されている。矢花は「飛び入り」と表現したが、自己推薦とはいえ動画審査で選出されている以上、立派な大学日本代表候補のひとりには違いない。
同じ札幌学生リーグからは、西浦真平(北海道文教大3年)も合宿に参加していた。左打ちの大型スラッガーで、北海道文教大が2部リーグに所属した際には矢花と対戦経験もある。矢花にとっては、初対面だらけの心細い空間で唯一の知り合いである。
だが、矢花は合宿中、あえて西浦と行動をともにすることはなかったという。
「せっかくの代表候補合宿なのだから、いろんな人とコミュニケーションを取らないと来た意味がないと思いました。彼(西浦)も絶対にほかの選手の話を聞きたかっただろうし、帰りの飛行機でどんなことがあったかを話し合うことはできますから」
【全国レベルを知った3日間】
合宿当初は気後れしていたものの、矢花は「みんな気さくに話しかけてくれて、自分もラクになりました」と徐々に周囲と打ち解けていった。
合宿中のパフォーマンスやコミュニケーションを通して、「全国」のレベルを肌で感じた。矢花はこんな心境を吐露している。
「これまで僕がやってきた野球は、野球じゃなかったのかなって。それくらい周りとのレベルや話している内容が違いすぎて、驚きの連続でした」
キャッチボールで受ける、ドラフト候補のボールの質感。フィールディング練習での機敏な動き。150キロを超えるドラフト上位候補たちの出力。トレーニングや栄養摂取まで気を配る意識の高さ。対戦する打者のスイングの圧力。そのすべてが矢花にとっては新鮮だった。
「クレアチン(アミノ酸)を摂ったほうがいいとか、ステップする際に地面からの力を感じる話だとか、いろんなことを教わりました。初日は六大学や東都の選手と壁を感じたんですけど、鈴木選手や大坪選手(廉/東洋大3年)には食事中に話を聞くことができて、同部屋の森本選手(光紀/立教大3年)とも話せて楽しかったです」
とくに矢花が衝撃を受けたのが、野村亮輔(佛教大3年)から聞いた話だった。野村は今秋にブレイクした最速152キロの剛腕である。
「野村選手は球速が143キロくらいだったのが、急に150キロを超えるようになったらしいんです。どうやって球速を上げたのかを聞いたら、打ち込まれた日の夜に真っ暗闇でシャドーピッチングをしたと。僕は今まで、シャドーをするとしたら鏡を見てやっていたんですけど、こんなやり方もあるんだなと参考になりました」
ドラフト1位候補である鈴木もしかり、トップクラスの投手は押しなべて「感覚」の重要性を語った。
「フォームどうこうより、感覚がマッチすればいいと。自分も大学2年の時に146キロが出た時に、みんなの言う『感覚』があったと思ったんです。僕もいろいろと試すなかで自分には何が合うのか、『感覚探し』をしたいと思いました」
全国区の逸材たちとの交流を深めたことだけが、矢花の収穫ではなかった。もちろん、投手としての力量も松山の地でしっかりとアピールしている。
【ドラフト候補との差】
合宿2日目に実施された紅白戦では、矢花は24投手の先陣を切って登板。最高球速は140キロに留まったものの、球持ちのいい投球フォームからスピンの効いた快速球を投げ込んだ。大学ナンバーワン捕手の渡部海(青山学院大3年)をストレートで詰まらせて中飛に打ち取るなど、持ち味を発揮している。
この日、松山・坊っちゃんスタジアムの右翼席中段に衝撃弾を放った真鍋慧(大阪商業大2年)には中前安打を打たれた。それでも、矢花は真鍋のバットを折るなど、打ち取った内容だった。計測器・トラックマンで取得したデータのフィードバックを受けた際、矢花は「リリースポイントが捕手寄り」という点を評価された。
それでも、登板後の矢花の胸中に去来したのは、敗北感だった。
「ドラフト候補と呼ばれる人との差を見せつけられました。みんな球が速くて、エグかったです。僕は球質で勝負するタイプですけど、見逃しのストライクは取れても空振りは1回も取れませんでした。北海道では『決まった』と思うような球でも、ここではバットに当てられてしまう。真っすぐのコントロールを見せられたのはよかったですけど、全体的に自分の実力不足を感じました」
そう語る矢花だが、その表情は充実感が満ちていた。矢花は「学んだことを持ち帰って、明日から練習したい」と笑った。来年はプロ志望届を提出できるだけの選手になりたいと考えているという。
今回の合宿で得たものをチームメートにはどのように伝えたいか。最後にそう尋ねると、矢花は少し考えてからこう答えた。
「みんな、野球になると目の色が変わるということを伝えたいです。ウチの大学は野球と私生活の区別がつかず、ダラダラしてしまう選手が多いんです。代表候補たちを見ていると、練習が始まると目つきが変わりますよね。それが実戦になると、さらに目つきが鋭くなって。集中力の入れ方、持っていき方の違いを感じました」
矢花は「それと」と言葉を継ぎ、こんな思いを語った。
「国公立の大学で野球をしていても、上を目指してやっていればこういう場所に来られる可能性があるんだと示したいです。後輩のなかには、『上の世界でもやれるだろ』と思うようなポテンシャルがあっても、モチベーションが低い選手もいて。そんな選手に『あきらめてほしくない』と思っているんです」
たった3日間であっても、人生観が大きく揺さぶられることもある。矢花大聖の精悍な表情を見て、今回の代表候補合宿の意義深さを感じずにはいられなかった。