2025年、原英莉花は国内女子ツアーの年間シードを放棄して米女子下部エプソンツアーを主戦場に選んだ。8月「ワイルドホー…
2025年、原英莉花は国内女子ツアーの年間シードを放棄して米女子下部エプソンツアーを主戦場に選んだ。8月「ワイルドホースレディース」で米国初優勝を飾り、年間ポイントランキング5位で来季の米女子ツアー(LPGA)への昇格を決めた。通算5勝を挙げ、慣れ親しんできた日本ツアーから舵を切り、あえて新天地を選んだ真意を単独インタビューで語った。<全2回の後編>(取材・構成/石井操)
【前編】「“滅多打ち”やり返したい」米下部ツアーで感じた闘う喜び/原英莉花インタビュー
「あと10年…」よぎるタイムリミット
米国生活1年目、国内プロテストの同期であり、同世代の渋野日向子と頻繁に連絡を取り合っていた。「日本だと会わないのに、アメリカでは会ったりしていた」。原は1999年2月生まれ。「来年、もう27歳なんです。年齢はやっぱり気になる。20歳の頃なんてすごく昔に感じるし、(その年頃の選手を見れば)『めっちゃ若いな』って。『可能性すごいな』って思っちゃう」
昨年に手術をし、長年抱えていた腰痛は解消した。これまで避けていたトレーニングも、今年は24時間利用できるフィットネスジムに通い、専属トレーナーの助けを借りながらできるように。そんな時、ふと体の変化を感じる。「ちょっとトレーニングしただけでひざが痛いような…。筋肉痛じゃない感じが『なんかイヤだな。うまく戦わないといけないな』って」。アスリートにとって、加齢との戦いも大きな仕事だ。
「戦えなくなったらゴルフをやめる」/2024年原英莉花インタビュー(前編)
「失った躍動感」を求めて スイングの現在地/2024年原英莉花インタビュー(後編)
20代後半に入り、月日の経過の感じ方も変わってきた。「できても、あと10年くらいでしょ」と思う。以前は米国でプレーする自分の姿は想像できなかった。それでも、「日本ツアーに出ている自分がルーティン化してきていて、受け入れられなくなっていた。年齢的なことも大きい」。海外挑戦は、キャリアの終わりを思い描いた末の選択でもあった。
日本ツアーのプロテストは2度目の受験で合格。米ツアーでも、初挑戦した2023年の予選会をスコア誤記で失格と2度の挑戦を要した。「これまで一歩ずつしか進めて来なかった自分を踏まえると、そうは思いたくはないけど、上手くいくまでに何年かかかるかもしれない」と迫るタイミリミットを意識したうえで覚悟を決める。
新シーズンに「特別な感じはない」
ことしは「チームスタッフもあまりアクティブな人がいなくて。(自分も)リサーチ能力がない」と観光する機会は少なかった。ゴルフ場を離れると「部屋にこもる」生活をしてきたという。ただ、「来年は国際免許を取ろうかな。ちょっと運転したいなとは思う」と声を弾ませる。
日本、米下部、そして米レギュラーツアー。3度目のルーキーイヤーは毎試合が生き残りをかけたサバイバルが待ち受ける。「想いを温めてきたと言っても特別な感じはない。ただ、頑張りたい」と気負わずに挑戦する。世界ランカーが集うトップツアーでも、目の前の試合と向き合う姿勢は変えない。「まずは数試合で(出場優先順位の入れ替える)リシャッフルを突破していかなきゃいけない。出る試合すべてが大事になる」
前もって予定を決めるのは、性格的に「好きじゃない」という。「一週間、一週間が大事ってすごく面白い。そういう緊張感あふれる中に身を置けるのが、すごく楽しみ」と心臓が早鐘(はやがね)を打つような綱渡りは望むところだ。
「環境次第で人間は変わる」
克服すべき課題は少なくない。大会期間中に歯痛に見舞われながらも優勝した「ワイルドホースレディース」を含め、下部ツアーは全20試合中16試合が3日間競技だった。レギュラーツアーはマッチ戦、ダブルス戦、国別対抗戦を除いた全30試合のうち、28試合が4日間大会だ。72ホールの順応性だけでなく、技術もオフで磨きをかけたい。
「アメリカは芝質がコースによって違うところが結構あって、持ち味のアイアンショットがうまくいかないことがあった。本当ならアイアンを生かせるようにしたいし、アプローチももっともっと。ショットのバリュエーションも増やしていきたい」
「最初の頃は、グリーンの芝目を気にしていたのが裏目に出ちゃった。全く気にしないのもダメだし、気にしすぎもダメ。その辺の塩梅(あんばい)はもちろん、やっぱりパターの芯で打つことが大切。パッティングのドリルも、もっと知りたい。誰かに尋ねようかな…」と向上心はとどまることを知らない。
10月の米下部ツアー最終戦「エプソンツアーチャンピオンシップ」では、練習場でアプローチを繰り返す手を止め、他選手のもとに歩み寄って話しかける場面があった。ウェッジのヘッドを見せてもらい、自分の携帯で写真に収めると、再び練習に戻っていく。「環境次第で人間って本当に変わる。どう生きていくのかを選ぶのは自分」。退路を断って臨んだ世界での戦いが、ついに始まる。
撮影協力/グレートアイランド倶楽部