篠塚和典が語る今季の巨人総括 投手編(野手編:巨人の野手陣に「しつこく言いたい」課題 岡本和真が抜けるかもしれない危機を…
篠塚和典が語る今季の巨人総括 投手編
(野手編:巨人の野手陣に「しつこく言いたい」課題 岡本和真が抜けるかもしれない危機をどう乗り越える?>>)
篠塚和典氏に聞く、今季の巨人総括。後編では、苦しんだ投手陣についての見解を聞いた。

勝ち頭の山﨑は11勝4敗と貯金を作ったが......
photo by Sankei Visual
【先発は3本柱ではなく、5、6本の柱が必要】
――今季の先発陣を振り返っていかがですか?
篠塚和典(以下:篠塚) 昨季15勝(3敗)を挙げた菅野智之が抜け、戸郷翔征に対する期待が大きかったのですが、8勝9敗と応えることができませんでした。それが一番痛かったですし、先発陣全体の歯車を狂わせてしまったような気がします。
フォスター・グリフィンは5つの貯金(6勝1敗)をしましたが、登板したのが14試合だけですからね。今季は山﨑伊織(11勝4敗)がひとりで頑張っていたような印象が強いです。
――先発ローテーションでしっかり回るピッチャーは、最低でも3人はほしいところでしょうか?
篠塚 基本的にカード3連戦は2勝1敗、できれば3連勝を計算していますからね。阪神は村上頌樹、才木浩人、大竹耕太郎らをはじめ、先発陣がしっかりしている。3人どころか5、6人は計算できるピッチャーがいます。そうなると、長いシーズンを乗りきるうえで、ある程度安心しながら戦えますよね。
仮に3人の柱が要る場合も、そのうちひとりでも欠ければ苦しくなります。つまり3人では足りず、今の野球では5、6人は必要で、ひと枠は成長枠とするくらいがいい。それに対する危機感は、投手偏重の巨人のドラフトに現れていたと思います。戸郷、山﨑、井上温大(4勝8敗)を3本柱と考えていたのならば、巨人の場合は2人が欠けてしまったというか、不振に陥ってしまったわけですから。
――昨季に8勝を挙げ、さらなる飛躍が期待された井上投手は4勝どまりでした。
篠塚 バッターと同じで、「今季がよかったから来季も」というピッチャーがなかなか出てきません。安定しているのは山﨑くらいです。やはり先発ピッチャーは、コンディションをうまく整えてローテーションを1年間守ってほしいですよね。ただ、故障をしなくても打たれてしまっているわけで......それでは首脳陣も困ってしまいますよ。
グリフィンはメジャー復帰の可能性が高いようですし、とにかく先発の頭数が足りません。ドラフト1位の竹丸和幸(鷺宮製作所)ら、ルーキーたちにも頑張ってもらわないといけない状況だと思います。
――ルーキーに負担をかけてしまうのは酷でしょうか?
篠塚 それはそうですが、本人たちは「チャンスだ」と思っているんじゃないですか。プロで大事なのは、数少ないチャンスをつかめるかどうか。特に社会人や大学生であれば、体がある程度できていて、それなりに経験もあるわけですし。
以前は、上原浩治や髙橋尚成らが1年目から戦力としてやってくれましたし、そういうピッチャーが出てきてほしいですよね。ルーキーが活躍してくれるとチームが軌道に乗っていくんです。竹丸やドラフト2位の田和廉(早稲田大)、同3位の山城京平(亜細亜大)らのなかから、ローテーションを守る選手が出てきてほしいですね。周りへの刺激にもなりますから。
【チームづくりをする上で大切なこと】
―― 一方で、リリーフ陣はいかがでしたか?
篠塚 大勢とライデル・マルティネスをはじめ、中川皓太と田中瑛斗は60試合以上、船迫大雅も57試合投げています......。先発が早いイニングで降板してしまうことが多かったので、負担も大きかったと思いますが、リリーフ陣はよく頑張ったと思いますよ。高梨雄平は今季あまりよくなかったですが、"勤続疲労(プロ1年目から8年連続40試合以上に登板)"もあったのでしょう。
――リーグ優勝した昨季はチームエラー数がリーグ最少(58個)でしたが、今季のエラー数はリーグワースト(78個)。ピッチャーの足を引っ張ってしまった印象もあります。
篠塚 そういった部分も、なかなか勝てない要因だと思います。守りきれずに接戦を落としてしまうケースが多かったですね。エラーが20個も増えれば、負け数も増えてしまいますよ。エラーした本人はもちろん、ピッチャーの心理もそうですし、チーム全体が少しダラけて雰囲気が悪くなってしまい、以降のプレーに響いてしまいます。
――来季へ向けて投打ともに課題はいろいろあると思いますが、オフの補強も課題だと思います。FA権を行使した日本ハムの松本剛選手が、巨人への移籍を決断しました。
篠塚 チームに足りない部分を他チームからの補強で補っていくことも大切ですが、やはり首脳陣は人材を見極める目が大事だと思います。ドラフトでどういった選手を指名するか、という部分につながるのですが、大学や社会人で結果を出した選手以外にもいい選手はいるはずなんです。
結果を出した選手はどこの球団も注目するでしょうが、今は結果が出ていなくても、目立たなくても、プロで伸びる選手はいるはずなんです。そういった選手のほうがプロ入り後にハングリー精神を持ちながらやっていくような気がします。アマチュア時代にあまり陽の当たらなかった選手に対して、「期待しているぞ」と声をかけてあげれば励みになると思いますしね。
――ファームで過ごす時間が大切になりますね。
篠塚 ものすごく大事です。プロの選手の"いろは"をゼロから教育して、1軍に送り込まなければいけないわけですから。そういう選手が1軍に上がってパーンとのし上がっていくと、チームとしてもファンとしても楽しみが増えると思います。そうなれるような選手であるかを見極めなければいけませんし、そういうチームづくりをしていかないといけないでしょうね。
【プロフィール】
■篠塚和典(しのづか・かずのり)
1957年7月16日生まれ、東京都出身、千葉県銚子市育ち。1975年のドラフト1位で巨人に入団し、3番などさまざまな打順で活躍。1984年、87年に首位打者を獲得するなど、主力選手としてチームの6度のリーグ優勝、3度の日本一に貢献した。1994年を最後に現役を引退して以降は、巨人で1995年~2003年、2006年~2010年と1軍打撃コーチ、1軍守備・走塁コーチ、総合コーチを歴任。2009年WBCでは打撃コーチとして、日本代表の2連覇に貢献した。