2025年のJ1リーグは、鹿島アントラーズの優勝で幕を閉じた。勝負強さで結果をつかみ取ってきたのが鹿島なら、良いサッカ…
2025年のJ1リーグは、鹿島アントラーズの優勝で幕を閉じた。勝負強さで結果をつかみ取ってきたのが鹿島なら、良いサッカーを追求したのが2位の柏レイソルだったと、サッカージャーナリスト後藤健生は考える。柏が示したサッカーの素晴らしさと今後の可能性についてつづる。
■町田のアタックをかわす技術力
決勝点は63分のFC町田ゼルビアのオウンゴールだった。
右から持ち込んだ瀬川祐輔のクロスにゴール前にいたDFの岡村大八が必死でクリアしようと足を伸ばしたものの、足先に当たったボールは町田のゴールに吸い込まれてしまった。
このオウンゴールを生んだ柏の攻撃の主役はMF中川敦瑛だった。
自陣でパスを受けた中川は、町田のMF前寛之がアタックしてくるのをかわして、うまくターンをして前を向いた。そして、中川はそのままドリブルで持ち運び、十分に相手守備陣を引き付けておいてから右サイドの瀬川につないだ。
同じような場面は、このゲームを通じて何度も見られた。
町田の選手がプレッシャーをかけてくるのを、柏の選手がテクニックでかわして前を向く。そこから、中川のように自らドリブルで持ち運ぶこともあれば、すぐに前線の選手にくさびのパスを入れたり、中盤につないでパスを回すこともある。
とにかく、守備の強い町田の選手たちからのアタックをかわすだけのテクニックを柏の選手たちは持っていたのだ。
■「名よりも実」を体現
「選手のクオリティ」(あるいは「知名度」)という意味では、町田のほうが上だろう。
今シーズン、町田からは相馬勇紀や望月ヘンリー海輝が日本代表に選ばれている。そのほか、昌子源や中山雄太もかつては日本代表の主力として戦っていた選手だし、GKの谷晃生や藤尾翔太はパリ・オリンピック代表チームのメンバーだ。さらに、町田には韓国代表の呉世勲(オ・セフン)や羅相浩(ナ・サンホ)がおり、オーストラリア代表のミッチェル・デュークがいる。
それに対して、柏のメンバーで日本代表といえば細谷真大くらいのもの。GKの小島亨介は年齢別代表には招集されており、フル代表招集歴はあるが出場歴はない。キャプテンの古賀太陽も、E-1選手権での代表招集はあるが、海外組も交えたフル代表の経験はない。
しかし、柏対町田戦のピッチ上の戦いを見ると、柏の選手たちが町田のプレッシャーを簡単にかわして前を向くことができていた。テクニック面でも、町田の選手を明らかに上回ったのである。
■リーグのレベルも上げる可能性
今シーズンから就任したリカルド・ロドリゲス監督は、パスをつないで攻めるパスサッカーというスタイルを明確に示して指導を続けてきた。
その結果、選手たちは戦術的理解を深め、結果を出すたびにそのスタイルに自信を持つようになっていった。そして、それぞれの役割が明確で、やることがはっきりしている分、ストレスなしでプレーできたのだろう。積極的なプレーを続けるうちに、さらに自信を深め、それが個人能力の向上にもつながっていったのだ。
新しいスタイルがいかに早く浸透していったのか。それは、今シーズンの開幕前の「ちばぎんカップ」の時に早くも明確になっていた。3人のCBのうちのひとり、原田亘が攻撃に参加し、右ウィングバックの久保藤次郎とのコンビネーションで攻め上がり、また、シャドーに入った小泉佳穂がフリーマンとして広い範囲をカバーしながら、攻撃全体をコントロールする。
そして、突破力とフィジカルの強さを持つ細谷、ポストプレーがうまい垣田裕暉という2人のストライカーを使い分ける用兵……。
「ちばぎんカップ」のときに、すでにリカルド・ロドリゲス監督の新しいスタイルは明確だった。そして、その後の戦いの中で完成度を高めていったのだ。
今後、このチームがどのような方向性を持って進んでいくのか。ポジショナルプレー、パスサッカーで戦うチームが存在することは、リーグ全体のレベルアップのために必要なことでもあろう。