【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】◆品薄の市場で輝いた名牝たち フランスのドーヴィルで開催されている…

【合田直弘(海外競馬評論家)=コラム『世界の競馬』】

◆品薄の市場で輝いた名牝たち

 フランスのドーヴィルで開催されている「アルカナ・ディセンバー・ミックスセール」に臨場している。

 12月6日(土曜日)から9日(火曜日)まで行われる開催の、前半を終えた段階でこの原稿を書いているが、総売り上げが前年比14.4%ダウンの4329万9000ユーロ、平均価格が前年比20.7%ダウンの11万3646ユーロ、中間価格が前年比3.2%ダウンの6万ユーロ、主取り率が前年の17.9%から今年は21.6%に上昇と、市況は芳しくない。ここは初日の開催がセレクトセッションで、総売り上げの7割がたを占めるので、残り2日で市況が急激に良化することは考えづらい。

 目玉商品の不足は、カタログが発表されていた時から言われていたことで、昨年は、500万ユーロのスパークリングプレンティを筆頭に6頭いたミリオン越えが、今年は3頭に減少。アルカナセールは今年、8月のイヤリングセールが記録的盛況で、ここで無理して牝馬を売らなくても、子供をとって売った方が将来的には得と考えた売り主側が、高いリザーヴを設定していたという事情もありそうだ。

 アルカナ・ディセンバーは24年が大盛況で、長いスパンで見ればそれほど深刻な状況ではないとする見方もあるが、マーケットが踊り場を迎えたことは間違いなさそうである。

 最高価格馬は、追加上場馬として、初日に195番として登場したハーフソヴリン(牝2、父テンソヴリンズ)。英国のカール・バーク厩舎の管理馬として、2歳シーズンは7戦。シャンティイ競馬場のG3ミエスク賞(芝1400m)を含む5勝をあげている。激しいビッドの応酬の末、ジョン・スチュワート氏のレゾリュート・レーシングと、代理人ハリー・ラッセル氏の一騎打ちとなり、最後はラッセル氏が260万ユーロ(約4億7367万円)で購買に成功した。

 ハーフソヴリンは、今後もカール・バーク厩舎に残って現役を続行することになり、バーク調教師は「まずは、フランスの1000ギニーが目標になる」とコメントしている。

 ハーフソヴリンは1歳時、タタソールズ・サマーヴィル1歳セールにて1万2千ギニー(当時のレートで約247万円)という廉価でバーク師に購買されており、1年3か月の時を経て、馬の価値が191倍に膨れ上がるという、ピンフックの大ホームランとなった。

 品薄で、良駒にバイヤーが集中するという難しいマーケットになった上に、円安の逆風が吹いている中、日本人購買者も健闘した。2日目の市場が終わった段階で、11頭の購買が確認されている。

 中でも最高価格となる70万ユーロ(約1億2753万円)で購買されたのが、上場番号248eとして上場されたバース(牝4、父スタディオブマン)だ。3歳春、パリロンシャン競馬場のG2サンタラリ賞(芝2000m)で、後にG1仏オークス(芝2100m)で2着となるシュルヴィーらを退けて優勝している同馬。G1ビヴァリーD.S(芝9.5F)など3つのG1を制したコストローマの近親にあたるという、牝系も一級品である。

 さらに、上場番号14番として登場したバルサム(牝4、父ウートンバセット)。G2バーデンマイル(芝1600m)など5重賞を制した他、G1ジャンプラ賞(芝1600m)2着などの成績を残したストーミーアンタークティックの半妹にあたり、自身もLRレーヴドール賞(芝1000m)勝ち馬である同馬は、スタースパングルドバナーを受胎しての上場。48万ユーロ(約8745万円)で購買されている。

 さらに、父シユーニ・母シーサという当歳牝馬も、日本人に購買された。祖母がアメリカの2歳G1フリゼットS(d8F)という血統背景を持つ同馬。2027年のPOG指名時まで、ぜひ名前を憶えておきたい馬である。

(文=合田直弘)